身近な「おもしろい」を学ぶ意欲につなげる授業のつくり方。「内発的な学習意欲」と「自己実現のための学習意欲」を活かしたアプローチとは?
授業の中で、子どもたちが発する「先生、これでいいですか」という言葉に、違和感を持ったことはありませんか?
私の専門は図画工作なのですが、初任のころからずっと「子どもたちは、自分の作品であるにもかかわらず、どうしてその判断を教師に委ねるのだろう」と疑問に思ってきました。
その度に、「あなたはどう思うの?」と返し、子どもたちの考えに耳を傾けるようにしてきました。すると、少しずつ「自分で考えていいのだ」と安心したような顔をして、学習に取り組むようになっていきました。
それと同時に、子ども一人ひとりが主体的で自律的に、学習意欲を持って取り組めるような活動ができていなかったのではないかとも、反省的に振り返り続けてきました。そこでこの記事では、自ら学ぶ意欲を高めるために日頃私が取り組んでいるアプローチについて紹介します。
弘前大学大学院教育学研究科修了(美術科教育専攻)。教務主任、図画工作教育、情報教育等担当。これからの社会に求められる資質・能力を培うカリキュラムデザインやICT活用等について研究。主に図工・美術分野で教育雑誌や書籍等に原稿執筆、県内外の学校や各種研究会、セミナー等での実践発表、ワークショップ、講演多数。2021年第1回教育DX実践動画コンクール優秀賞受賞。MIEE、MCE、GCE、ACE、ロイロ認定ティーチャー、embot認定教育者、micro:bitチャンピオン、BookCreatorアンバサダー等認定。アーティストとしても日本板画院板院展新人賞等受賞多数。
「先生、これでいいですか」の背景にあるもの
発達心理学者である櫻井茂男さんは著書「自律的な学習意欲の心理学」の中で、学習意欲を「自ら学ぶ意欲(自律的な学習意欲)」と「他律的な学習意欲」に分類しています。
自ら学ぶ意欲とは、文字通り自発的に学ぼうとする意欲のこと。一方、他律的な学習意欲とは、他者からの指示やプレッシャーによって、(多くの場合は仕方なく)学ぼうとする意欲のことです。
図工の時間に子どもたちが発する「これでいいですか」の言葉の背景には、他律的な学習意欲で学習に臨んできた経験が多いことが推測できます。
自ら学ぶ意欲は、さらに「内発的な学習意欲」と「自己実現のための学習意欲」に分類されます。
内発的な学習意欲とは、簡単に言えば「おもしろいから学ぼうとする意欲」です。学年が下がるほど、非意識的におもしろいから学んでしまうという傾向が大きいです。
一方、自己実現のための学習意欲は、「〇〇になりたい」「人の役に立ちたい」など、人生や将来の目標を達成するために「意識的に学びを広げたり深めたりする」意欲です。
「内発的な学習意欲」と「自己実現のための学習意欲」の要素を教育活動の中に意図的に汲み込んでいくことで、子どもたちの「これでいいですか?」は少なくなっていくのではないかと仮定し、さまざまなアプローチに取り組んでみました。
身近にある「おもしろい」を生かす
子どもたちが何をおもしろいと思うかは、子どもたちが一番よく知っています。
一緒に行動したり、話をしたりしている中で、「先生、見て見て」「先生、こんなことがあったよ」など素直に興味・関心があることや、おもしろかったことを教えてくれます。とても身近なことなのですが、子どもたちの見方や考え方に感心させられることも多々あります。
子どもたちの感じたおもしろさを造形的な見方・考え方を働かせて捉えると、もっとおもしろくなるという経験を、私は何度もしてきました。
例えば、子どもたちが学級で名前の書いていない消しゴムを拾ったときのことです。ほとんどの子どもたちは誰のものか分からなかったのですが、消しゴムについている鉛筆をさした痕や角の減り方の様子などから推理し、持ち主を見つけた子がいました。
どうして分かったのかと聞くと、「同じように見える消しゴムでも、誰かが使ったものだから、こんな感じで使いそうというのがいろいろなところから分かった」というのです。周りの子どもたちはそれをおもしろがって、何人かの消しゴムを集めて【消しゴム当てゲーム】を始めました。
ある意味、身の回りの造形のおもしろさに気づき、それを生かした遊びだと思いました。
この体験を基に、「にせけしで何できる?」という題材を実施しました。紙ねんどを使用し、使用感のある消しゴムに似せた「にせけし」をつくり、それを使ってどんなことができるかを考える学習です。子どもたちは自分の筆箱にある使用感のある消しゴムや、落とし物コーナーに入っている消しゴムなどをモデルにしながら、消しゴムらしさを本気で探究して製作していました。
このように「おもしろい」の種は日常に転がっています。そこを捉え、学習に使用できるように整理していくことが授業づくりのポイントだと思います。
「やってみたい」をどんどん試す
子どもたちに「おもしろい」と思わせることに成功すると、子どもたちの中にどんどん「やってみたい!」という思いが広がっていきます。その思いを大切に、子どもたちが自らどんどん試す中で資質・能力を高めくことが理想的だと思っています。
そのためのポイントとして、子どもたちがチャレンジできる環境を用意することを心がけています。具体的には材料や用具について、ある程度余裕をもって選択できるようにしたり、活動しやすいように場所を整えたりすることを日常的に行っています。
そのうちの1つが、ICTの積極的な活用。例えば、協働で製作に当たる際には「BookCreator」という電子書籍を製作できるアプリを使用します。
「にせけし」の授業の際も、子どもたちがにせけしを使用して絵本を作りたいというので使わせてみました。「製作したにせけしでどんなことができそうですか?」と投げかけると、にせけしと本物をちりばめた写真を撮影し、「どこ?」⇒「ここ?」というストーリーを作ってはどうか、というアイデアが出ました。周囲の子からも、やってみたいという声が上がったので、「にせけしはどこ?」という絵本をつくりました。
このように、思いつきを実現できるような環境で学習を積み重ねた子どもたちは、イメージしたことを具現化するために、いろいろなものを身の回りから探しながら活用して製作するようになっていきます。本気になって取り組む中で、教え込まなくてもいろいろな知識や技能を身に付けていくのです。
誰かの喜ぶ姿が、学びをさらに広げる
自分たちの「おもしろい」を探究した成果を見せ合って楽しんだり、おもしろさや楽しさなどを認められたりすることは、次の「おもしろい」につながる大切な活動です。
私の授業では、常にお互いの作品を見ることができるように、全ての作品を題材毎に「Microsoft Teams」(以下、Teams)上にアップロードしています。継続しておこなうことで、お互いの作品を見合ってそのおもしろさや楽しさを認め合い、自分の活動に生かすことが当たり前にできるようになってくるように感じます。
また、保護者の方や全校の子どもたちに作品を見てもらえるように、クラウド上に作品データをアップロードして、そのリンクを2次元コードを使用して展示することでアクセスしやすいようにしたり、「Microsoft Sharepoint」のVR空間に作品を展示して、そのリンクをTeams上で共有してアクセスできるようにしたりして、広く作品を見てもらえるようにしています。
さらに、インターネット上のフォームを使用して感想を受け付けられるようにして、双方向のコミュニケーションができるようにもしています。学習したことを広げていく中で得た感想や評価は、子どもたちにとって、次の活動に向かうエネルギーになっているようです。
先日、育休中の先生に向けて「最初に読み聞かせをしてほしい絵本」をつくろうという題材で授業をしました。題材名は、「一番最初のおくりもの~『3の3のだっだぁー』をつくろう~」です。
赤ちゃんの言葉遊びを表現した絵本『だっだぁー』(ナームラミチヨ作、主婦の友社、2010)を鑑賞することでイメージを広げ、まだ見ぬ先生の赤ちゃんをイメージしながら、喜んでもらおうと協力して製作していました。
「喜んでもらう」という目的を達成するために表現を工夫することで、子どもたちの資質・能力は効果的に高まったのではないかと思います。製作した作品を実際に届けて喜んでもらった子どもたちは、作ってよかったという満足感にあふれた顔をしていました。
「おもしろい」から広げて学習していくことを通して、子どもたちはさまざまな課題に自ら学ぶ意欲をもって、友だちと学び合ったり、協働したりしながら課題の解決に取り組むようになっていくと思います。
私は子どもたちに伴走しながら、「こうしてみたい」を形にしていくための次の一手を発見する援助をし、自ら学習に向かう力を高めていくことが先生の仕事だと思っています。
学びの積み重ねを通して、身に付けた知識や技能を使って自分自身の未来をつくり、社会の変革や創造に貢献する。そうした未来志向をもって、子どもたちが自分の学びを組み立てていく姿をイメージしながら実践を続けていきます。