生徒一人ひとりがありのままでいられる場づくりを!心理的に安全な雰囲気をつくるために、教員ができること
アクティブラーニングやプロジェクト学習を取り入れようとしても、生徒同士の主体的な対話がなかなか活発にならず、授業や活動がうまくいかないという経験はありませんか?
もっと生徒のやる気を引き出そうと授業テーマや視覚教材など、手の込んだものをつくって実践してみても、なぜか生徒の対話がぎこちなく、活発にならない。それは「心理的安全性」に何か問題があるかもしれません。
今回の記事では、主体的な対話を引き出すために、心理的安全性の高い場づくりがなぜ必要なのか?どうすれば心理的安全性の高い場づくりができるのか?について、一緒に考えてみましょう。
屋久島のフィールドを活かして「人」「自然」「自分」「社会」とのつながりを体感し、直観力や共感力を磨くための学びの場づくりをする教育ファシリテーター。屋久島おおぞら高校では、宿泊型のスクーリングで年間延べ1万人程度の生徒を屋久島に受け入れ、自然体験学習や問題解決型学習等を実施している。
最近は同僚と一緒に、場づくりやファシリテーションに関する研修を実施。
心理的安全性を探究するようになった理由
私が勤務する屋久島おおぞら高等学校は、通信制の高等学校です。生徒はレポートと年1回のスクーリングに参加することで高校卒業資格が取得できる本校。通信制のため生徒は全国各地におり、1年に1度だけスクーリングのために屋久島を訪れます。
屋久島でのスクーリングでは、普段は離れた場所で学んでいる生徒同士が初めて対面し、グループになってチームビルディング、自然体験学習や問題解決型学習などの体験学習や対話による学び合います。
スクーリングが始まってすぐは、初対面の生徒たちの間に緊張感が漂っており、対話どころか会話もままらないほどぎこちない関係性。初めの頃はこの緊張感を緩めるため、授業の内容やテーマを工夫したり、導入で興味や関心を引くものを取り入れてみましたが、どうもうまくいきませんでした。
そのような中で「心理的安全性」という言葉と出会い、自分なりに学んでいくうちに、「グループ活動で最初に大事になることは、心理的安全性を担保することではないか」と考えるようになりました。それ以降、心理的安全性を高める要素について考えたり、関連する研修会に積極的に参加したりして、実践を重ねてきました。
学ぶ場における「心理的安全性」とは?
ここからは、これまでの実践から考える「心理的安全性」の要素について、お伝えしたいと思います。学びの場で「心理的安全性」が保たれているのは、生徒が3つの感覚を感じている状態だと考えます。
(1)ここにいても大丈夫
(2)失敗しても、間違っても大丈夫
(3)ありのままの自分でいられる
(1) ここにいても大丈夫
「ここにいても大丈夫」という感覚は、自分がクラスやグループの一員として認められていると感じられる状態です。いくら周りのメンバーが自分を仲間だと言っていても、自分がその一員であると感じられないと意味がありません。重要なのは、本人が「ここにいても大丈夫」と感じられていることなのです。
(2)失敗しても、間違っても大丈夫
「発言しよう、やってみよう」という意欲を阻害してしまうのは、「失敗したらどうしよう」と不安に思う気持ちです。失敗や間違いをすれば、叱られたり指摘されたりするのではないかと恐れて、小さな一歩も踏み出せなくなってしまいます。グループの中で「失敗を歓迎しようとする姿勢」を整えることが大切になってきます。
(3)ありのままの自分でいられる
学級やグループで活動するとき、「活動に何か貢献しないといけない」と思うことはありませんか?しかし自分には貢献できる能力やスキルがないと感じてしまうと、自分を大きく見せたり、偽ったり、遠慮したりと、ありのままの自分を出せなくなってしまう場合があります。スキルや能力があるから受け入れてもらえるという場ではなく、ありのままの自分を受け入れてもらえる場であることが重要です。
心理的に安全な場の作り方
生徒が心理的安全性を感じられる場は、教員が意図的に作り出すことができます。これを「場づくり」と呼びます。ここでいう「場」とは2つの意味があり、1つ目は空間や場所、2つ目は関係性や場の空気、雰囲気のことです。どのような空間や場所で行うかも重要ですが、生徒の関係性や雰囲気などの状態を観察し、介入することが重要だと考えています。
場づくりをするとき私は、生徒の関係性や雰囲気をよく観察して見極めます。生徒同士の関係性は良好か、緊張感はないか、この活動の前は何をやっていたか、そこで何が起こっていたのか。そういうことが、意外とその後の活動に影響するからです。
そしてメインの活動に入る前には、導入のワークを丁寧に行います。この導入ワークで、生徒の心理的安全性を高めたり、これからの活動への意識づけや動機づけ、方向性の共有を丁寧に行ったりしています。導入にはどんなワークが有効か、具体的に見ていきましょう。
・アイスブレイク
メインの活動に入る前に、まずは緊張感を和らげお互いの信頼や尊重を高めるワークをおこないます。初対面の場合は自己紹介ワークなど、初対面ではない場合はメイン活動につながるような自己開示を促す活動を入れます。
ここでは単純に「楽しい」「安心」などと思ってもらえることが重要です。それが「ここにいても大丈夫」「ありのままの自分でいい」という気持ちにつながります。一見遊びのように見える活動ですが、これを丁寧に行うことで、以降の学びにスムーズに移行できます。
・チェックイン
チェックインとは、この場にいるメンバーがこれからの活動に「気持ちを入れ、意識を向ける時間」です。活動が始まってすぐのときには気持ちが入っておらず、ゲームや部活のことなど、これから行う活動と関係ないことに意識が向いていることもあります。
チェックインでは、具体的に「今の気持ち」「この活動で期待すること」「24時間以内にあったハッピーなこと」などをテーマに、グループやペアで1人ずつ共有していきます。
「話すこと」=「離すこと」であり、「今、自分の内側にあることをはなす(話す/離す)」ことで、これから行う活動に気持ちを入れることができます。
・目標/ねらいの共有
導入時点で目標/ねらいを明確に伝えます。何のためにこの活動をするのかが明確でないと、活動自体がブレてしまうだけでなく、ここに自分がいる意味が見出せずに、参加しなくても大丈夫という意識をもつ原因になります。
授業や活動が数日間にまたがる場合は、活動全体の目標/ねらいと、本日の目標/ねらいを共有すると効果的。視覚的に見えると効果が増しますので、活動中いつでも確認できる場所に掲示しておくのもいいです。また、活動の途中で目標/ねらいを見失ってしまうこともあるので、繰り返し共有することも大切です。
・グランドルールの提示
グランドルールとは、この活動や授業で、その場にいるメンバーが大切にしたいことや守りたいことを指します。慣れてこればこのグランドルール自体をみんなで決めることもありますが、最初のうちは教員やファシリテーター側が提示してもいいです。
グランドルールの一例
(1)お互い名前で呼び合う
(2)失敗しても間違ってもいい
(3)仲間の意見をよく聴こう
活動内容やクラスの状況、学年などによってこのグランドルールの内容は変わります。ポイントは、心理的安全性を高める3つの要素(ここにいても大丈夫、失敗しても間違っても大丈夫、ありのままの自分でいられる)を満たしていることです。
グランドルールを作るワーク「being」
ここからは、私が新しいグループで活動を始める際にまず行うのが「being(ビーイング)」というグランドルールづくりのワークです。Beingとは「存在、あり方」を意味し、ワークを通してこのグループやグループ活動で自分がどうありたいかを確認していきます。この活動ではまず、紙に人型のイラストを描きます。
そして人型の内側には、一人ひとりが考えた「グループのメンバーとコミュニケーションをとる上で大切にしたいこと、積極的に行いたいこと」を、外側には「されたら嫌なこと」をそれぞれ記入します。
この「being」の活動を通して生徒たちは自然と自己開示ができるため、「発言をしても受け入れてくれる。間違っても大丈夫」とお互いに安心できる関係を築くことができます。
私はこの人型のイラストを、活動中にすぐ確認できるよう、よく見える場所に掲示していました。すると「being」に取り組んだ生徒たちは「今のコミュニケーションどうかな、相手の気持ちを考えていたかな?」と、自分たちで作ったグランドルールをお互いに確認し合い、より自分たちにとって安心できる関係性をつくろうとしていました。
目の前の生徒を観察することの大切さ
私が心理的安全性を考えずに授業の内容やテーマだけにこだわって授業づくりをしていたときは、生徒の間に対話が生まれず、学びを深めることができませんでした。
しかし、生徒の心理的安全性を高めれば、より主体的な対話が生まれ、行動や成果につながる。そう気づいてから、生徒の状況や関係性をよく観察するようになり、その時の状況に対して今どんな活動をしたら、安心してこの活動に集中できるかを考えるようになりました。
心理的安全性は授業だけでなく、クラス活動や課外活動など全ての学校行事に共通して重要です。どんな生徒にとっても、クラスや授業のグループ活動に安心して参加でき、生き生きとした時間を過ごせるようになれば、こんなにうれしいことはありません。
今、あなたの目の前にいる生徒の心理的安全は担保されていますか?
屋久島おおぞら高校スクーリングの様子【動画】