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先生の「対話力」は社会で生きる!「会いに行けるセンセイ」になって気づいた、社会が教員に求めていること。

先生の「対話力」は社会で生きる!「会いに行けるセンセイ」になって気づいた、社会が教員に求めていること。

私は現役教員である傍ら、2020年から「会いに行けるセンセイ」と名乗り、現役の教員と話がしたい、悩みを相談したいという方とリアルやオンラインでお会いし、気軽に対話をする活動を続けています。

子どものこと、教育のこと、学校のことなどについて全国各地のさまざまな方と対話を重ねるうちに、社会における「学校」や「教員」という存在を客観的に捉えられるようになってきました。

また、「学校」とは異なる軸を自分の中に持つことで、社会が教員に求めている役割がなんなのかが明確に理解できるようになりました。

教員の仕事は、その魅力よりもハードな働き方が報道されマイナスイメージを持たれがちな昨今ですが、私たち教員が少しでも社会に開き、役割を発揮していくことで、私たち教員も社会もより幸せになるのではないだろうか。そう感じさせてくれる「会いに行けるセンセイ」という活動をご紹介します。

写真:野崎 浩平(のざき こうへい)さん
野崎 浩平(のざき こうへい)さん
土佐塾中学・高等学校 理科教諭/一般社団法人ハンズオン 代表理事

東京学芸大学教育学部卒業。株式会社ベネッセコーポレーションを退職後、高知県へ移住。教育現場をわたり歩き、2020年から土佐塾中学・高等学校で教諭として勤務。一人ひとりが学びの主語になることを目的に、教員としての勤務と並行して一般社団法人ハンズオンを設立。大人も子どもも学ぶ場づくりを目指して活動を続けている。ニックネームは“のざたん”。


学校の先生と、もっと気軽に話をしたい人がいる

私は「会いに行けるセンセイ」と名乗る前から、学校外で開かれている勉強会や交流会に積極的に参加するようにしていました。

もともと、首都圏の一般企業に勤務していた時代から他業種交流会やセミナーといったものに参加して、自分とは異なる環境で働く人たちとの対話からたくさん学びを得ていました。首都圏から高知県へ移住し、一般企業から教員へと転職してからも、学校外での出会いを大切にしています。

「教員」という肩書きで勉強会や交流会に参加すると、一般企業で働いていたころとは異なる、新しい発見がありました。それは「え、教員なんですか?」と驚かれるということです。

話を聞いてみると、「こういう場で教員の方に会うことはないですから」と教えてくれました。言われてみれば、その場に「教員」という立場の人は他にいませんでした。

2019年に、とあるイベントで登壇する機会をいただきました。そのとき、小学生のお子さんをお持ちの保護者の方が「学校や教育のことを相談したい」と、私に声をかけてくれました。

「教育や子育ての悩み相談を専門的な知識がある人にしたい。でも、学校か塾の先生以外に相談相手が思いつかない。学校に行って先生から話を聞くにも、先生も忙しい中で時間を取ってもらうのは申し訳ない。本当はもっと気軽に相談できる相手がほしいんです」ということでした。

この出来事をきっかけに、私は知り合いの教員を集め、学校外で話せるイベントを企画しました。

学校外で保護者と先生が対話できるイベントを開催し、
学習指導要領の改訂について話をしました

教員と対話できるイベントを実施したところ、「先生が普段どんなことを考えているのか知ることができた」という保護者の感想や、「保護者の方の考えていることを感じることができた」という教員の感想が集まりました。

これらの出来事がきっかけで「学校の先生と話をしたい人がいる」というニーズに気づくことができました。


「会いに行けるセンセイ」になって自分の世界も広がった

相談活動を始めて数カ月後、新型コロナウイルスの影響により全国的に休校になりました。すると、日本各地にいる私の知り合いから、たくさんの相談が届くようになりました。

保護者の方からは「困っている」という相談も多く寄せられましたが、それを上回って「学校に協力したいけれど、どのように協力したらいいのか分からない。具体的にどんな提案をしたら先生たちは助かりますか?」という前向きな相談が大半を占めていました。

オンラインツールの使い方講座を保護者向けにも実施してほしいという声もあったので、自主的な勉強会を開催したり、個別の相談に乗ったりもするようになりました。

休校期間が終わってからも、いろいろな相談が私の元に届きました。SNSを中心に相談を受けつけていたのですが、近隣の方からは「実際に会ってお話したい」という声もいただいていました。

そこで、定期的に場所と時間を設けて、「学校の教員が週1回、放課後の時間帯にコワーキングスペースにいます。会ってお話したい方は、どなたでもいらしてください」と告知をして活動を始めました。

その活動を「会いに行けるセンセイ」と名づけて、SNSで発信し続けました。

運営しているコワーキングスペース


活動を始めたところ、相談を希望する方が毎週のように来てくださいました。「知り合いに紹介されて」「SNSで発信されているのを見て」という小中学生や高校生の保護者の方に始まり、教育関係の仕事をされている方や教育分野にチャレンジしたい企業関係者にまで広がっていきました。

たまたま教育視察で高知県を訪れた県外の先生が、私の活動を知り、会いに来てくださったこともありました。「会いに行けるセンセイ」がきっかけで、たくさんのつながりが生まれたことにより、勤務校での教育活動もどんどん広がり、自校の生徒と他校の生徒をつなぐ取り組みにも挑戦することができました。

「会いに行けるセンセイ」の活動を通して、県外の先生との交流も盛んに


社会は先生が持っている「対話力」を求めている

あるとき、「先生の学校」のイベントを通じて私を知ってくださった方が、「高知県に行けば現役の先生の意見が聞ける」とわざわざ遠方から私を訪ねに来てくださいました。

その方は個人で活動をされていて、「教育分野の取り組みに挑戦したい」という相談内容でした。そこで、私の勤務校で実際に授業を実施していただいたり、他校での展開につなげたりする機会を作りました。

このように、1つの相談をきっかけに素敵な挑戦が世の中に広がっていくことに、うれしさを感じています。

「実際に会いに行けないけれど、オンラインで話をしたい」という声を受けて、オンラインで対話できる仕組みをつくったところ、遠方の方からも相談を受けるようになりました。

現在、オンライン・オフライン問わず、知人の紹介やネットの記事などをきっかけに対話の相談をいただいています。企業の方が見つけてくださり、実証事業に協力したり、イベントで教育のお話をさせていただくようにもなりました。

最初は「ただただ対話をする場」を提供していたつもりなのですが、活動を重ねるうちに、実は社会が「対話をする場」を求めており、私たち教員が持っている「対話力」が必要とされているのではないかと感じるようになってきました。

これまで教員といえば、「学校の中で子どもと関わる仕事をする人」と捉えられてきました。そんな教員が社会に開かれたとき、「対話に丁寧に向き合う力」を持っていると気づかされました。「学校は閉鎖的だ」とよく言われますが、「会いに行けるセンセイ」の活動を通して、先生が社会に開かれた存在になるための一例になりたいと思っています。

大学生や社会人に、教員の仕事について話をすることも


「大人も毎日が新しい学びの連続だ」と、子どもに伝え続ける存在でありたい

多くの方と対話を重ねていくうちに、相談内容に対する答えが「相談者の中にすでにある」ことに気づきました。私は対話をする際、「相手の伝えたいことを受け止め、整えること」を意識しています。

どんな人に対しても、この意識は変わりません。相談を受けていた高校生があるとき、「私自身が言ったことをそのまま受け止めてくれるから、とても話しやすいです」と言ってくれました。

相手の話を受け止めて一緒に整理する過程で、相談者は自分の考えを自ら見つめ直していきます。対話の中で相談者本人が気づきを得るまでの過程を一緒に見ているので、「対話の中で自分自身の考えていることに気づき、その人の中に学びが生まれているのだろうな」と感じています。

LEGO®SERIOUS PLAY®メソッドと
教材活用トレーニング修了認定ファシリテーターとして、
対話の場をつくることも


多様な活動に関わる中で、一人ひとりが学べる環境を整えたいと考えるようになりました。そのための一歩として、一般社団法人ハンズオンを立ち上げ、コワーキングスペースの運営や教育イベントの実施ができるように準備をしています。

法人の立ち上げ・運営に関わることで、また新しい世界が見えるようになってきました。私はこの経験を通して、「大人になっても毎日が新しい学びの連続だ」ということを、子どもたちに伝えられる存在であり続けたいと考えています。

「会いに行けるセンセイ」の活動は、ある一人の相談をきっかけに、私自身ができることを提供した延長線上にありました。学校現場に身を置く立場でもあるので、大変さは理解しているつもりです。

ぜひ、先生という立場の人が、目の前にある「困りごと」の中で、ご自身が無理なく解決できることを1つでも紐解いてみてください。小さなアクションを積み重ねていくことが、学校や社会をより良くすることにつながるのだと思っています。

この記事が、誰かの新たな一歩を後押しする存在になれば幸いです。