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不登校の97%が自宅に。退会率0%の不登校専門「好き」を見つけるオンライン家庭教師「夢中教室」とは?

不登校の97%が自宅に。退会率0%の不登校専門「好き」を見つけるオンライン家庭教師「夢中教室」とは?

「一人ひとりの子どもに合った学ぶ場の選択肢がもっと必要」と語るのは、ワオフル株式会社代表取締役の辻田寛明さんだ。

辻田さんは2020年11月より、不登校専門の「好き」「やりたい」を引き出すオンライン家庭教師事業「夢中教室WOW!」をスタート。

現在約50名の子どもたちが夢中教室を利用しており、退会率は0%。不登校の子どもたちに寄り添い、子どもの「好き」を引き出し続ける「夢中教室」について、辻田さんから話を聞いた。

写真:辻田 寛明(つじた ひろあき)さん
辻田 寛明(つじた ひろあき)さん
株式会社ワオフル 代表取締役社長

1993年12月生まれ。茨城県出身。東京大学経済学部卒業、同経済学研究科修了。東南アジアの貧困研究の中で貧しいながらも笑顔が絶えない子どもと出会う反面、学生時代携わっていたキャリア教育を通して出会った日本の中高生たちの自己肯定感の低さに問題意識を覚える。社会問題をビジネスで解決することを目指す株式会社ボーダレス・ジャパンに2019年新卒入社。POST&POSTでの修行やハチドリ電力の立ち上げサポートを経て、子どもたちが自分の人生にワクワクできる社会をつくるため、ワオフル株式会社を2020年に創業し、不登校の子のためのオンライン家庭教師「夢中教室WOW!」を展開する。


一人ひとりの「好き」に寄り添うオーダーメイドの授業作り

——夢中教室」は、どのようなサービスですか?

「夢中教室」は、不登校で家から出ることが難しくなった子どもを対象にしたオンラインの教育サービスです。講師とマンツーマンで対話をしながら、一人ひとりの興味関心に合わせて、オーダーメイドで子どもの「好き」を一緒に探究する授業が特徴です。

60分・週1コマの授業の中で対話を重ね、子どもたちが興味を持っていることに寄り添って授業をカスタマイズしていきます。

例えば、恐竜が好きな子であれば恐竜のことを調べてまとめていったり、動画編集が好きな子であれば動画編集にチャレンジしたり。そのため、一人ひとり取り組んでいることが異なります。

夢中教室では、一人ひとりの興味関心に合わせて、
オーダーメイドの授業を展開している


——現在何名くらいの小中学生が学んでいるのでしょうか?

2022年3月現在、50名ほどの小中学生が学んでいます。

2020年11月にサービスを開始しましたが、保護者の方の支えもあり、これまで退会したお子さんは1人もいません。退会率が低い理由として、子どもたちの興味関心をしっかりと捉えて授業を作ることができていることもあると思います。

子どもたちそれぞれの「好き」が何かを対話の中から理解することはもちろん、保護者の方にしっかりお話を伺い、「なぜ学校に行かなくなったのか」「持っている特性や能力は何か」などについても丁寧にヒアリングさせていただいています。

またオンラインでのコミュニケーションが中心だからこそ、心理的安全性への配慮は徹底しています。

初回の授業では、話し方のトーンをゆっくり優しくを心掛け、「ここは何を話してくれても否定しない場所だよ。安心して何でも話してね」というメッセージは常に伝えていますね。

初回の授業では、マインドマップツールを活用し、
子どもたちの好きを一緒に見つけていく


——なぜ不登校専門のオンライン家庭教師事業を始めたのでしょうか?

日本の子どもたちが抱える自己肯定感の低さを解決したいと考えている中で、ソーシャルビジネスしかやらない会社、株式会社ボーダレス・ジャパンに出会いました。

ボーダレス・ジャパンには社会起業家採用という新卒採用があり、ここしかない!と入社を決め、入社後はボーダレス・ジャパンの既存事業でビジネスのノウハウを学びながら起業準備を進めていきました。

自己肯定感が低い子どもたちの現状を知るためにヒアリングを重ねていく中で、不登校の子どもを持つお母さんと出会いました。

そのお母さんとの出会いから、不登校の現状を調べていくと、日本には19万人以上の小中学生が不登校で苦しんでいる状況が見えてきました。

不登校の原因はさまざまですが、既存の学校の文化や慣習が合わなかったり、先生や友達とうまく折り合いがつかなかった経験から、学校に行けなくなり、自己肯定感が下がってしまうことが分かってきました。

そこで、「自分を受け入れてくれる人」や「やりたいこと」に出会える機会をつくることで、自己肯定感を高めていくことができる夢中教室を立ち上げました。

夢中教室を運営する代表の辻田寛明さん


家から出られない子どもたちに、一歩踏み出すきっかけを

——フリースクールなどさまざまな取り組みの形がある中で、なぜオンラインで1対1という家庭教師スタイルを選択されたのでしょうか?

実は、不登校の子どもたちの中でフリースクールに通学できているのは、ほんの3%ほどというデータがあります。残りの97%の子どもたちは、1日の多くの時間を自宅で過ごしています。中には外の世界に出ることが怖くなってしまい、家から出られない子もいます。

そういう意味で、家から出られない子どもたちが一歩外に踏み出すきっかけとしてオンラインで1対1ならリアルで人と接するよりハードルが低いのではないかと思い、今に至ります。


——保護者の方からは、どんな声が届いていますか?

「子どもの笑顔が増えた」「学習に没頭している姿がうれしい」「講師の先生から子どもが褒めてもらえて、親も励まされている」など、うれしい声をいただいています。

夢中教室がきっかけで、学校に少しずつ足が向くようになった子もいます。

歴史が大好きな子がいるんですが、歴史上のある人物について数カ月間学習を続けました。最終的には、その人物に関する年表を作るほどのめり込んでいきました。

その子は算数が苦手だったのですが、年表を作るようになってから数にも興味が広がり、苦手としていた算数の勉強にも挑戦するようになりました。学校に行けなかったその子が、今では作った年表を校長先生に自信満々で見せに行っていると聞いています。

そういったお話を伺うと、本当に事業を始めて良かったと思います。

現在、約50名の子どもたちが夢中教室を利用している


——家から出られなかった子どもたちが、「一歩外に出てみようかな」と思うきっかけにもなっているんですね。

そうですね。夢中教室は、外に出ることが怖くなってしまった子どもたちの、心の安全基地であり、その子らしさが輝く場所でありたいと思っています。

その先に、「オンラインで人とうまく関われたし、外にも出てみようかな」と、子どもたちが自然に思える状態に貢献できたらと思います。

ただ、なかなか子どもの心がほぐれなかったこともあります。

ある子はオンラインの画面に顔を見せるのが嫌で、しばらくお母さんを通じて会話をしていました。でも対話を重ねるうちに、だんだんその子が「お絵描きが好き」だと分かってきたんです。

あるとき、その子が作った作品をプレゼントしてくれたので、「描いてくれてありがとう!」と伝えると、感謝されて人の役に立てたという実感につながったようで、女の子からも話をしてくれるようになりました。

それからというもの、得意な絵を生かして自作のLINEスタンプを作ったり、最近はチラシ作りにも興味が湧いてきて意欲的に取り組んでいます。

この事業を天職だと語る辻田さん


子どもの自己肯定感を育むために「夢中教室」が大事にしていること

——これまで夢中教室に取り組んでこられて、子どもたちの主体性が発揮される条件など、分かってきたことがあれば教えてください。

自己肯定感が高まっている状態で、自分の「やりたいこと」や「好きなこと」に気づいていると主体性が高まるのではないか、というのが僕の仮説です。

「自己肯定感がどうしたら高まるか?」が大事なポイントで、今のところのポイントは4つかなと思っています。

1. 認めてくれる人の存在を実感できる
2. 自分のいいところに気づける
3. 成功体験を重ねていける
4. 誰かの役に立てることを知る

夢中教室では、この4つのポイントをカバーできるように授業を設計しています。

この4つがそろったときに、信頼関係を構築している伴走者が「こんなことにも挑戦してみたらどう?」と声がけすると、多くの場合「やってみるよ」となります。

挑戦することが楽しくなると、自然と主体性が高まっていくのではないかと思っています。


——週に一度しか会えない子どもたちが「好き」を継続的に探究するために、何か工夫されていることはありますか?

毎回の授業後に、それぞれの子に合わせて「ミッション」という名の宿題を提示しています。それぞれの子に合わせてミッションを考えるので、多くの子が取り組んできてくれます。

時にはやってこない子もいますが、それはその子に合ったミッションではなかったということ。それって同時にすごくチャンスで、ワクワクするミッションを一緒に考えるきっかけになるんですよね。


——一人ひとりの状態や思いに寄り添うということを、絶えず実践されているんですね。素敵な教室を運営されている辻田さんの今後の展望を伺いたいです。

僕にとって夢中教室の事業は天職だと思っており、次から次へと取り組みたいことが浮かんできています。

現在は子どもと講師の1対1のコミュニケーションがメインですが、今後は子ども同士や、保護者同士がコミュニケーションを取れるようなコミュニティや、オフラインの教室も展開したいですね。オルタナティブスクールのような、教育の場の選択肢を増やす取り組みにも挑戦したいと考えています。

その際には、現在オンラインで取り組んでいる知見を生かして、子どもたち一人ひとりの「好き」と、教科をつなぐ学習も提案していけるようになりたいと考えています。

〈取材・文=岩田 龍明/写真=ご本人提供〉