テクノロジー×デザインで、人間の未来を変える学校「神山まるごと高専(仮称)」クリエイティブディレクター山川咲さんが今、教育に懸ける理由
27歳で完全オーダーメイドの結婚式をプロデュースする「CRAZY WEDDING」を創業。「情熱大陸」にも出演し、業界の革命児と呼ばれた山川咲さん。
自身が起業した会社を後にし、次の挑戦の場所として選んだのは、人間の未来を変えるための「学校づくり」だった。
山川さんが仲間と共につくっている神山まるごと高専(仮称・設置構想中 以下神山まるごと高専)は、2023年4月開校に向けて設置を構想している私立高等専門学校(高専)だ。
神山まるごと高専では、デザイン、テクノロジー、起業家精神を学び、社会に変化を起こせる人材、「モノを作る力で、コトを起こす人」を育成することを目指している。
ウエディング業界の革命児が、なぜ今、教育に懸けるのか?学校づくりにかける思い、そして新たな価値を生み出し続ける山川さんのエネルギーの源について話を聞いた。
CRAZY WEDDING創設者。1983年東京生まれ。大学卒業後、ベンチャーのコンサルティング会社へ入社。退職後に単身オーストラリアへ。「意志をもって生きる人を増やしたい」と考え、2012年に業界で不可能と言われた完全オーダーメイドのウェディングブランド「CRAZY WEDDING」 を立ち上げた。2016年5月には毎日放送「情熱大陸」に出演。その後、産休・育休を経てIWAI OMOTESANDOの立ち上げに携わる。2020年3月27日にCRAZYを退任し独立。2020年12月にホテル&レジデンスブランド「SANU」の非常勤取締役及びCreative Boardに就任。著書に「幸せをつくるシゴト」(講談社)
ウエディング業界の革命児が、なぜ学校づくりに?
――神山まるごと高専プロジェクトに参画された経緯を教えてください。
もともと教育には興味があって、新卒で入った会社も教育コンサルの会社でした。ただ、教育は10年単位で腰を据えて取り組む事業だと思っていたので、今なのか?と迷うところはありました。
声をかけていただいた時期が、3歳の娘の子育てと向き合っているタイミングでもあったので、自分の人生において、また仕事に没頭することがいいのかということもずっと考えていて。
詳しくはインタビュー記事をぜひ読んでいただけたらと思っていますが、単純に学校をつくりたかったから、という理由で参画を決めたわけではありません。
迷いながらも話し合いを重ねる中で、創業メンバーの熱量に触れ、彼らと学校をつくるという未来に心が震えたことが最終的な決め手になりました。
――小中高ではなく、「高専」をつくるというのが珍しいですよね。
学校は通常のビジネスと異なり、これといった成果が見えづらく、結局、進学先や就職先といった出口で評価されてしまいます。
一方で、今はいい学校を出ていても幸せや成功が保証されない不確かな時代でもあります。
高専の生徒たちは自分で手を動かして学んでいるから、卒業後はビジネスを始めることもできるし、会社でも働けるし、大学に編入することもできる。
どのような進路を選択しても「確実に自分で生きていく力」を身につけているんですね。知識だけでなく、5年間打ち込んだものがあるということが強みとなり自信になります。
今、皆が自分の人生を探しているような気がしていて。それに対して、神山まるごと高専が1つの解を示せるのではないかと思っています。
入学した学生だけでなく、この社会に対して、答えが唯一ではなく多様になる時代に、より選択肢の広がりを感じてもらえることも大事なことだと思っています。
――まさに「人間の未来を変える学校」ですね。お話を聞いているだけでワクワクしていますが、開校準備は大変なことも多いのではないでしょうか?
学校づくりは乗り越えないといけない壁が多くて、うまくいかないことの方が多いです。学校をつくるって大変なんですよ。だから、皆でつくっています。
イベントを開催し、幅広い経験や立場の方から意見をもらう場を設けたり、Makuakeで1,000人の先輩を募ったり。
学校づくりは多くの人にとっての夢だったり、社会の夢だったりするから、それを皆で取り組み、私たちにとっても「いい学校」になるという循環づくりに挑戦しています。
1つのモデルケースが業界を変え、世界を変える
――山川さんは「クリエイティブディレクター」という学校では珍しい肩書きで参画されていますが、どのような役割なのでしょうか?
明確な定義はないですが、私が捉えているのは人間の創造性を束ねていく役割。
誰も知らない、今世の中にない学校をつくろうとしているので、誰かが信じて、見出して、「この学校ってこういうものだよね」ということを言葉にしていくことで、そこにエネルギーや人が集まってきて、少しずつ実現していくと思うんですね。
私が起業した「CRAZY WEDDING」もそうですが、1つのモデルケースが業界を変えたり、世界を変えたりすることがあるんです。「今の学校のこういうところは問題だよね」という話をしていても、何も変わらないじゃないですか。
今つくろうとしている高専の定員は1学年40人と少人数ですが、「15歳がこんなに成長するんだ、こういう変化がつくれるんだ」ということを世界に見せていく。それも、クリエイティブディレクターの仕事だと思っています。
――理想を描き、実現していく山川さんのエネルギーは、どこから湧いてくるものなのでしょうか?
私は本当に超繊細ハートなんですよ。
湧き上がるエネルギーと同時に、「こうなってしまうかも」「うまくいかなかったら、こんな風に言われるかもしれない」って、もう天才的にバーっと不安感情があふれてくるんです。
だから自分がやりたいと思うことに対して、不安がなくなることはないんです。経験値があがるほど、不安要素は増え、失敗の読みは鋭くなっていくし。
だから、不安なとき・悲しいとき・苦しいときは、自問自答をしています。
「不安だからやめるの?」「やめません!」「苦しいよね、今すぐやめれば?」「いや!絶対やめたくない。やる!」というように。
結局、不安だから諦めるという選択肢はないんです。
最近は不安になると、「そんなにやりたいんだな、じゃあやった方がいいな」と自動変換されるようになりましたね(笑)。
――不安の裏側にある、自分の気持ちと向き合うんですね。
不安があっても、自分で決めることが大事だと思います。自分で決めて失敗したら、自分で決めないで成功するより価値がある。
ただ、決めたからやるという根性論みたいなところもあるんだけど、今私が大事だと思っているのは、「自分の世界でやること」です。
社会道徳の中で仕方なしにやるのではなく、自分がいる世界で「やりたい!選びたい!必要だ!」と決めてやることが、すごく大事だと思っているんです。
自分が中心の世界の中で、いいと思うことを自分が思うレベルまでやる。
他人やプレッシャーといった自分以外の尺度が入ると、「それって誰のため?」と迷いみたいなものが生まれてしまうんですよ。
だから、自分起点をとても大切にしていますね。
「先生も生徒も、共に発展途中」みたいな関係がいい
――自分の意思を大切にされているんですね。
「自分はこれを求めている」という曲げられない価値観を探究し続けることが、生きることだと思っています。
なので、学校や事業をやることは事象でしかなくて。それを通して自分や自分が求めているものを知り、その方向やレベルに自分を変化させていくことが、生きることの私なりの定義なんです。できる限りそこにまっすぐ、妥協なく生きています。
そうやって大人が自分自身を探究していくことで、子どもにも伝えられるものがあるんじゃないかな。
何をしているかではなく、どう生きているかが、個人的には学校でも大切にされてほしいです。
――生き方を通して教えるということですね。
教えるということは、罪深いというかリスクがあると思っていて。
教えようとすると、「なんでできないの?」「こういう風にすればいいんだよ」「これが正解だよ」ってなってしまいがち。
何か知っている側として教える、ではなく学びを分かち合う、ということができたら理想。そのために、それぞれが何かを目指せるといいなと思っています。
挑戦すると頑張っている人の気持ちがわかります。厳しいフィードバックをうけたり、矢面にたって苦労することもあるから、「挑戦するって大変よね」という共感もできる。
教える立場の人も、その人自身のレベルよりも圧倒的に高いものを目指していて、「足りない」「まだまだできない」「どうやったらできるんだろう」という弱者でいることが、フェアだと思うんですね。
「先生も生徒も、共に発展途中」みたいな関係がいいと思っています。
――最後に、現場で奮闘している先生方にメッセージをお願いします。
1番難しい質問かもしれません(笑)。
うーん、「制限的であらないで」っていう感じかなあ。
多くの、それこそ、学び続けている先生たちは「いい教育をしたい」と思っている方ばかり。でも、名門校への進学が評価されるという葛藤の最中にいると感じました。
この矛盾の中で、理想を追い求めることがとても難しいだろうことは、多くの先生と話をさせてもらう中で、理解が深まってきました。
でも同時に、多くの素晴らしい先生たちと出会い、「まあ、仕方ないか」という妥協で包み込むこともできるけれど、自分なりに突き抜けていくこともできるんだと勇気ももらっています。
制限の中でも、自分の選択で一歩踏み出すことはできるのではないか、まだまだ浅い経験の中でですが、学校づくりをやっていて感じますし、そう思ったときに全ての教育をよくしていこうと思う先生方と私たちは同志だなと感じ、神山まるごと高専の活動がその後押しになれば、とも思っています。
そんな先生方とこれからも仲良くなりたいので、ぜひつながってください(笑)。
〈取材・文=角田 真優/写真=ご本人提供〉