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学校に、最上位目標を。自律型学習者を育てる新渡戸文化学園の学校改革

学校に、最上位目標を。自律型学習者を育てる新渡戸文化学園の学校改革

日本の教育者であり五千円札の肖像となった新渡戸稲造博士と、森本厚吉博士が創立した93年の歴史を持つ東京都中野区にある新渡戸文化学園では、2年前より「Happiness Creator(幸せ創造者)の育成」を教育活動の最上位目標に掲げ、学校の進化に取り組まれている。

新渡戸文化学園の進化を牽引されている平岩理事長、山本崇雄先生に、最上位目標を掲げることの大切さ、自律型学習者を育てる取り組みについて聞いた。

写真:新渡戸文化学園
新渡戸文化学園
平岩 国泰(ひらいわ くにやす)/新渡戸文化学園理事長

1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社。長女の誕生をきっかけに、放課後NPOアフタースクールを起業し、21校のアフタースクールを開校。2019年新渡戸文化学園理事長就任。日本のモデルとなる未来の学校づくりに挑む。2013年より文部科学省中央教育審議会委員。2017年より渋谷区教育委員。


山本 崇雄(やまもと たかお)/新渡戸文化小中高等学校教諭・統括校長補佐(小・中学校)・中学教育デザインチーフ・英語科

東京都立中高一貫教育校を経て2019年度より現職。「教えない授業」と呼ばれる自律型学習者を育てる授業を実践。教育改革やCBL、生徒の自律などをテーマにした講演会、出前授業、執筆活動を精力的に行っている。


子どもたちの主体性に欠かせない「利他的な視点」

教育の進化に着手されたきっかけを教えてください。

日本では何のために学ぶのかという目的意識を持てない教育が行われ、多くは大学受験がゴールになっていますよね。

本来は一人ひとりの「こうありたい」という未来像を描いた上で、小・中・高校時代にこんなことをやっておこうとバックキャスティングするべきだと僕は考えていました。

それでこの数年、新しい未来づくりに一緒に漕ぎ出してくれる人を日本中から探していたところ、山本先生と山藤先生に出会った。2018年に本気で思いをぶつけたところ賛同してくださって、一気に船が動き出した感じです。

山本先生はなぜ公立の教育現場を離れ、新渡戸文化学園へ参加されようと思ったのでしょうか?

僕は先生が疲弊してしまう働き方を何とかしたいと思っていました。公立だと部活も保護者対応もあって、土日も休めず、僕自身、子育て真っ最中に失われた時間が多かったから、先生がハッピーになれる新しい働き方を示したかった

だから、ここだけに収まらず、新たな学校のあり方を発信することで日本の子どもたちをハッピーにしようという平岩さんの考えに共感して、一緒にやろうと決めました。

「みんな一斉に同じことを」という学校が多いけれど、ここでは多様性を認めていただける。いろんな得意分野のある先生が組み合わさってチームになればいいと思うんですよ。

僕は外に発信する先生、兼業する先生という一つのモデルで、そのうちビジネスを起こす先生だって出てくるかもしれない。そうなってこそ、子どもたちに「挑戦しようよ」と言えるのかも。ここには無限の可能性を感じます。

先生たちがやりたいことをやることで子どもたちが幸せになり、先生が生きがいや働きがいを感じるというのが一番大切ですよね。

教育活動の最上位目標「Happiness Creator(ハピネスクリエイター)の育成」をキーワードにされた背景を教えてください。

2018年秋に山本先生がコンセプトとして提案してくれて、それが我々の描いている世界観とすごくマッチしていたんです。だから1年かけてみんなでなじませて、この春から強く打ち出しました。みんなで話せる土台ができたのは、とても大きいですね。

僕は東日本大震災の後に自律型のアクティブラーニングを本格的に取り入れるようになり、子どもたちがアクティブになる大きな要素の一つが「利他的な視点」だったんです。

勉強する目的が「誰かのため」なら、最もやる気になると分かった。だから学校づくりを考えたとき、自分も周りも幸せにしていくクリエイターという言葉が浮かび、先生方に賛同してもらいました。それに本校の書庫で学園史などを読んでいると、100年ほど前に新渡戸稲造先生は利他的な視点の大切さを説いていた。僕らは先生に導かれているのかもしれないという不思議な感覚を抱きました。

本校では、どんなに小さなアイデアでも子どもがアイデアを出すことに価値があり、それを自律として大切にしています。先生がやった方が効率的であっても、子どもが少しでも芽を出すような授業、自分で選択して未来を作っていくような授業、誰かのために学ぶような授業を大事にしていく。

手法はアクティブラーニングでも一斉授業でも何でもいいんですよ。

目的にさえ合意していれば、手法は委ねるということですね。

僕は勉強があまり得意じゃなくて、小学生の頃から人と比較されることに疑問を持っていました。子どもは比較することでは伸びないという信念があったし、点数で全てが評価されることもおかしいと思っていました。

だから自分が教員になり試行錯誤する中で、自分が嫌だったことはやめて、超進学校でも偏差値表や試験の順位表を貼らないようにしたら、かなり反発を受けました。だけど下位の子は傷つき、自分はダメだという思いを深めていくマイナスが大きいという話をずっとしてたんです…。


認知能力だけでなく、非認知能力の育成を

Happiness Creatorを育成するために、カリキュラムとしては3つのC、Core Learning(教科の基礎となる学び)、Cross Curriculum(教科の枠を超えた学び)、Challenge Based Learning(社会課題の解決に向けて行動する学び)を軸にされているのですね。

学校教育と社会をつなげるという観点から、SDGsや社会課題の解決は重要だと思っていました。そして昨年オーストラリアへ研修に行ってCBL(Challenge Based Learning)を目の当りにしたとき、目指すべきリアルなイメージができた。

社会に果敢にチャレンジする視点を入れたいから、PBLじゃなくてCBL。それは教科を越えた学びだから、Cross Curriculumの時間があり、それを支えるCore Learningがあるというイメージです。

自律型学習者を育てるために非認知能力も大切にされていますが、評価やフィードバックはどのようにされていらっしゃいますか?

OECDが発表している「Learning Framework 2020」 などを参考にしています。あとは、生徒と共に「これからの社会に必要な力は何だろう?」という授業をやって、そこで生徒たちから出てきた協同する力、想像力なども軸にしています。

振り返りシートがあり、生徒が自己評価するんです。例えば「社会とのつながり」という項目であれば「英語を将来使うことをイメージして学べましたか?」、「コミュニケーション」や「マネジメント」であれば「自分が授業に参加して周りに良い影響を与えられましたか?」など、全て分かりやすく自己評価できるようにしています。

自己評価ですか

対話も重視して、必ず1対1で「キミの良さは何だと思う?僕は笑顔とコミュニケーションだと思うけど、海外との交流などで生かせそうだね。どうなりたい?」と対話したりします。非認知の授業や評価では、生徒との合意形成が必要です。

僕は英語のbe動詞が分かることと同様に、友達とコミュニケーションができて周りに良い影響を与えることもとても大切にしているから、10点満点の項目があるんだよと。「ただ、これは僕の主観で、別のところから見たらキミたちの力は計り知れないから、5段階で1がついてもキミはダメじゃないよ」ということも丁寧に伝えます。

学校改革を推進する上でのリーダーの役割について、お考えをお聞かせください。

企業ではさまざまな目的で人が働いていますけど、学校はみんな子どもが成長するのが好きでこの仕事に就いたというのが共通していますよね。

「子どもたちのため」という軸を持ちながら、上位の目標は何だろうと目標主義になることがすごく大事。うちはこういう学校になろうと決めて、それに対してみんなで向かっていくことが大切じゃないでしょうか。

リーダーがやるべきは、一番先の遠い未来を描き、一方で一番近くの目の前の人たちが今それに向かえているか寄り添い続けることだと思います。ボーンと決めて急にそこに走り出すわけじゃなくて、日々はずっと耕し続けるわけだから。

リーダーは一番遠くと近くを見て、真ん中のマネジメントはお任せ。「任せれば人は楽しんで動き出す」って言葉が僕は好きで、任せることは非常に重要です。

学校の目的は、社会で子どもたちがハッピーになること。そのためには、子どもたちに選択肢を与えることが第一歩だと考えています。

例えば、夏休みをデザインしようということで、宿題は出さずにおすすめの勉強リストを作り、どうするかは本人次第。ただし、夏休みの前と後に1対1の面談はしました。僕たちは「今日学校に来て帰って寝るとき、夏休みが終わったとき、そして1年後に自分がどうなりたいかを考えよう。そのための選択肢は無数にあって、その選択に自分で責任を持つんだよ」と話しています。

それはどこの学校でもできるのに、やらない。一斉に同じことをやらせるのが一番効率的で良い方法だと思い込んでいるから。

本当は生徒が自分で選べば自分でどんどん走り出すから、結果的にはラクなんですよ。そうやって選んで空いた時間を何に使いたいか考えるとき、利他的な視点、誰かが笑顔になったらいいなと思えるようなHappiness Creatorを育てていきます。

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