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教育改革の軸は、自治体、学校、教員の自治!自分たちが構築したプランであれば、必ずそこにコミットメントが生まれる

教育改革の軸は、自治体、学校、教員の自治!自分たちが構築したプランであれば、必ずそこにコミットメントが生まれる

国連が2012年から調査している幸福度ランキングにおいて3年連続世界一に輝いたフィンランド。幸せの国として注目を集めるフィンランドだが、教育先進国、イノベーション大国としても有名である。

2000年以降、15歳を対象に3年ごとに実施されるPISA(学習到達度調査)において突如上位に浮上し、日本とは異なるアプローチで学力を向上させたことで教育に注目が集まった。

そんな現在のフィンランド教育の礎を築いたとされるのが当時弱冠29歳でフィンランドの教育大臣を務め、現在は国家教育委員会の代表に就いていらっしゃるオッリペッカ・ヘイノネンさんだ。

オッリペッカ・ヘイノネンさんに当時の教育改革について、また現在のフィンランド教育について、お話を伺った。

写真:Mr.Olli-Pekka Heinonen(オッリペッカ・ヘイノネン)
Mr.Olli-Pekka Heinonen(オッリペッカ・ヘイノネン)
1964年生まれ。ヘルシンキ大学で法律を学ぶ。 中学教師を経て、1991~94年、フィンランド教育大臣特別顧問。 1994~99年、教育大臣。2002年からフィンランド国営放送取締 役。その他、政治経済に関する国の各種委員会に所属。2016年より現職。日本での著書に『オッリペッカ・ヘイノネン「学力世界一」が もたらすもの』(佐藤学氏との共著/日本放送出版協会)などがある。


最大のポイントは「教育の自治」


――1990年代後半、教育大臣をされていた頃のフィンランドは、失業率が高いなどの社会問題を抱えていたと思いますが、実際にどのような状況だったのでしょうか

当時は金融危機による大不況が発生し、フィンランド経済は大打撃を受けました。人口520万人という小さな国で、人員削減による失業率は20%を超え、深刻な状況でした。

私たちは、経済を回復させるための投資について検討し、不況から脱した際にすぐに即戦力として活躍できる人材育成を模索していました。そのために職業訓練を含めた教育改革は、最優先課題だったのです。


――具体的に、即戦力として活躍できる人材をどう定義されたのでしょうか

まずは不況脱出後、どの職種にニーズが出てくるのかを考える必要がありました。時代の変化からも、ICTやテクノロジーの分野は、フィンランドの経済と社会、両面において必要になってくる分野という見解でした。

先ほど教育が最優先課題だったとお伝えしましたが、研究や開発の分野においても、注力することを目指しました。

いずれにしてもICT教育は必須となり、それを使いこなせる人材の育成が必要と考えました。そこで、失業中の方たちにICTやテクノロジーに関する職業訓練を実施していきました。


――教育大臣として取り組まれた教育改革の内容について、具体的に伺えますか?

最大のポイントは「教育の自治」です。
教育現場に大きな裁量権を持たせ、子どもたちへの教え方など多くの場面で、現場の教員が自由に選択と決定をできるようにしたのです。

また、これまでは学士の卒業資格が求められていた教員資格を、大学院修士修了レベルに引き上げました。

実は、1970年代から1990年代の約20年をかけてその準備を進め、徐々に教員たちが自己の判断と責任において教育を行っていくという練習を重ねてきたのです。

時間はかかりましたが、私が教育大臣のポストに就いた頃には、確実に現場の教員たちは熟してきて、個の判断により最も適切な教育の提供をすることができると思いました。ですので、最も大きな教育改革の軸は、自治体、学校、教員の自治ということになります。


――20年もかけてというのはかなり辛抱が必要ですね

確かに今の時代は短期間で答えを求める、そういう期待が多いことは分かります。

ですが、当時、私たちフィンランド人の考え方は、決して急がない。長期的視点で、そして体系的な改善プランを作ることで、随時改善の方向性を確認し、進めてきました。その積み重ねだったと思います。

今でも体系的なプラン作りを基本とし、常にその経過を確認、評価しています。そしてプラン作りの段階では、教員、校長、自治体の教育課、全ての関係者が参加し、方向性の確認をすることが重要だと思います。


改革では必ず、全ての関係者が共にプラン作成段階に参加すること

――改革を推進する上で大切にされてきたことがあればお聞かせください。

先ほどもお伝えしましたが、改革では必ず、全ての関係者が共にプラン作成段階に参加することが大切です。自分たちが構築したプランであれば、必ずそこにはコミットメントや義務、責任感が発生します。

そして自分たちが作ったプランであれば、その先に何を求めているか、どこに向かっているのか、何をすべきか、何を改善すべきかが自ずと分かるものです。時間はかかります。それも理解できます。改革は時間と共に“熟し”、“(煮込まれ、味が)落ち着き”ます。そしてどの段階でも研修や教育などサポートを受け続けて、馴染んでいくのです。



――大胆な改革を推進する上で、反発などはなかったのでしょうか

反発というか、異なった意見はもちろんあるものです。でもその原因は何かを考える必要があります。

現場では非常に大切に思われている点が見落とされているなど、ときにはその原因は非常に価値のある理由に基づくものかもしれません。

反発が起こるということは、改革へ熱心であり、エネルギーもあるということです。そのエネルギーを良い方向に使うことはできないか、それを考えます。

通常、多くの人は改革には賛成です。でも、誰かに一方的に指示されることには反発します。自らが参加し、共に改革をしていきたいからです。それは正しいことで、本当の声を聞くことで内容を調整することも可能だと思います。


――改革の中で、教員養成の仕組みにもテコ入れをされましたが、先生の資質として必要なものは何であるとお考えですか

教員の役割、またはアイデンティティという視点でお答えさせていただきます。

まず、一人で仕事をしないこと。学校全体でチームという概念を大切にすること。校内のプロフェッショナルな人材同士の協力と、情報や技能をシェアすること。これらのことができる教員が、今後ますます必要とされてきます。 


今回、コロナ禍で学校も苦労しましたが、その中でも良い発見や方向性も確認されています。

例えば、必要に迫られて情報の共有や互いをサポートし合う環境が生まれました。遠隔授業を通して、教員たちは新しい学びの場を作り管理することを学びましたし、単なる知識や情報の伝達ではなく、個を見て進み具合などの個人的サポートが充実したという報告も上がってきています。

中にはオンライン授業に慣れないため、知識の伝達が主になったという教員がいないわけではないかと思いますが、多くは積極的にサポートを求め合い、デジタル教材を使用しながら生徒一人ひとりとのより良い関係作りに成功したと言っています。

生徒の個別のニーズ、例えば社会性の問題、自閉症など、通常のクラスの中では授業をしにくいという生徒の場合も良い結果につながったと報告されています。

もちろん、全ての生徒にとってプラスのみであったというわけではありません。ですが、遠隔授業を通して、一人ひとりの学び方とニーズに改めて気づかされたというメリットがあったことは事実です。

教員には、学習環境の選択や可能性についても自ら考える思考が必要です。


学校は、他と共に「人としてどうあるか」を問い、学ぶ場所

――新型コロナウイルスの影響で、知識を教えることはオンラインやエドテックを活用することで十分可能であるということが証明されたと思います。そのような中で、リアルな「学校」の価値や役割はどう変わっていくと思われますか

オンラインでは知識の伝達以上の発見や気付きがありました。そのプラスのことは今後も利用していくと思います。ですが、もちろん実際の学校という場の役割は重要です。

に暮らす(学ぶ)コミュニティとしての存在です。コミュニティに属する権利が一人ひとりの子どもたちにあるべきです。そしてそこでは、専門性に長けたプロフェッショナルが寄り添います。今回のコロナで学校の社会的役割というものが明確になりましたし、平等の権利ということについても考えさせられました。


――共に「暮らす」という視点はおもしろいですね

学校は、他と共に「人としてどうあるか」を問い、学ぶ場所だと思います。

フィンランドには“Olla ihmisiksi(オッラ イヒミシクシ)”という言葉があります。直訳すると「人となりなさい、人でありなさい(Be human)」ということですが、その意味は他を思いやり、ちゃんと生きる、暮らすということです。他との違いを認めて、それを良い意味で利用し、互いが互いを必要とする。

一方で今日、個が少々過大評価され、集団性に欠けるなどの問題も少し見え隠れしています。やはり皆が共存する社会ということを忘れてはならないと思っています。

そういう意味でも、リアルで顔を合わせ、共に暮らすことのできる学校の価値は大きいと考えています。


――現在フィンランドでは先生になりたい学生が減ってきていると聞きます。その原因は何だと思われますか

2つあると思います。
まずは大学入試のシステム変更のため、まずは高校新卒者が受験に有利となり、2年目3年目とじっくり時間をかけて大学受験を、と考える学生は不利になっているかもしません。

フィンランドはギャップイヤーをとったり、優秀な学生でも社会体験をしてから入試に臨み、新卒でストレートに大学入試に臨まないという人も多いのです。

またメディアなどで取り上げられ始めていますが、学校現場がチャレンジングになってきていることも原因として挙げられます。

例えば、Koulu Rauha(コウル ラウハ/平和な学習環境)、Kurinpito(クリンピト/規律やしつけ)などです。学校の環境が少しずつ変わってきています。授業だけではなく、生徒の生活指導など、教員の仕事が広がってきている。

特に中学の教員には生徒の社会性、感情表現などへの対応に関連した訓練が大学での養成時に十分でないことが今後の課題としてあります。現在は現場の教員研修の中で対応しています。


――日本の先生たちへメッセージをお願いします

自分の仕事を開発改善することをぜひ継続してください。自分が学べば学ぶほど、生徒たちももっと深い学びをするようになります。

そして、そのことがモチベーションを高め、先生と生徒のWellbeingを高めることになります。

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