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【環境活動家・露木志奈さんの環境対談 第1弾】声を上げることが、社会を変えるきっかけになる

【環境活動家・露木志奈さんの環境対談 第1弾】声を上げることが、社会を変えるきっかけになる

「気候変動の危機について、同世代の中高生にもっと知ってほしい」と、在籍している慶應義塾大学を休学し、2020年10月より講演活動を始めたのが大学生であり環境活動家の露木志奈さんだ。

これまでに1万人以上の小学生から大学生に対して講演活動を行ってきた。

そんな志奈さんが今、語りたい人と語る環境対談の第1弾ゲストは、社会活動家でありソーシャルビジネス・コンサルタントの辻井隆行さん。

2009年から2019年までパタゴニア社の日本支社長を務め、退任後は社会活動家として環境問題に立ち向かう辻井さんと志奈さんのそれぞれの活動に対する思い、これからの社会に対する願い、これから挑戦したいこととは!?

写真:辻井 隆行 (つじい たかゆき )
辻井 隆行 (つじい たかゆき )
社会活動家/ソーシャルビジネス・コンサルタント

1968年生。早稲田大学大学院社会学科学研究科(地球社会論)修士課程修了。99年、パートタイムスタッフとしてパタゴニア東京・渋谷ストアに勤務。2000年、正社員として入社。鎌倉ストア、マーケティング部門、卸売り部門を経て、2009年から2019年まで日本支社長。2019年秋、日本支社長を退任。現在は、自然と親しむ生活を送りながら、企業やNPOのビジョン・戦略策定を手伝いつつ、# いしきをかえようの発起人の一人として市民による民主主義や未来のあり方を問い直す活動を続ける。2016年、日経ビジネス「次代を創る100人」に選出。


「見えない」ことが問題を生んでいる

辻井さん、本日はよろしくお願いします。普段辻井さんのことを、「タカ」と呼んでいるので、タカと呼ばせていただきます。

私が講演の中で、一番のメッセージとして伝えているのが、消費者の毎日の選択の重要性です。

でもまだ学生だからこそ、イメージしづらいところもあるので、いかにリアリティを持って伝えられるかを考えています。タカも環境問題に対する講演によく登壇されているので、どうされているのか伺いたいです。

まず大前提として、今僕たちが生きている社会では、効率が最も重視されていて、分業が進んできたが故に、作る人と買う人の間にぶ厚い壁がある。

スーパーやデパートで手にしたモノが「どこで・誰が・どうやって作っているか」を知るのが大変な社会だよね。「見えない」ことがすごく問題を生んでいると思っています。

例えば農業。土地や環境に配慮したやり方は手間がかかるから、身体にも土地にも悪いと分かりながらも、化学肥料や農薬が使われる。でも、作り手と買い手の間にある「見えない」壁によって、消費者はリアリティを感じられない

そういうものを食べ続ければ、自分の健康にも影響する可能性もありますよね。

見えない壁の向こう側で何がどうなってるか知らないまま物を買うのは、自分にとってもリスクが高いことを伝えられると、「自分ごと」になるのではないかと思います。

見えないことの影響は、自分自身を超えて自分の子どもの未来とか、自分の大事な人たちにも影響があるということを伝える必要があるよね。

そうだね。日本人が好きなチョコレートの生産過程で、奴隷のような強制労働や児童労働が行われていることは有名な話だけど、児童労働に従事している子どもたちは、カカオが何になるかも知らないし、チョコレートを食べたことがない子がたくさんいる。

そして、そういう作り方をされたかもしれないチョコレートを消費者が買えば買うほど、そのビジネスは成り立ってしまうわけだから、この仕組みは改善されない。

だから「強制労働や児童労働で作られたチョコレートは買いません」という消費者が増えてくれば、改善に向かう可能性が出てくるよね。企業は、消費者を見ながらビジネスをしているから。

だから僕たちの日々の選択が大切というのは本当にその通り。

共感します。

志奈は、オランダ発のチョコレートメーカー「Tony’s Chocolonely(トニーズチョコロンリー)」は知ってる?

オランダ人ジャーナリストのトニーさんが立ち上げた、チョコレートのブランド。

彼はチョコレートが大好きだったんだけど、世界のカカオ生産量の60%以上を占める西アフリカのガーナやコートジボワールのカカオ農業では、今でも奴隷のような強制労働や児童労働が存在し、156万人ほどの子どもたちが違法な労働に就いているという悲惨な状況を知ったんだよね。

それでなんと彼は、アフリカの奴隷労働で作られたチョコレートバーと知りながら、それを食べた自分を犯罪者として告訴したの。

結局、トニーさんは不起訴処分になったんだけど、この問題に対する認知をさらに高めようと、大手チョコレート会社に解決を働きかけた。

しかし思うように動いてもらえず、最終的に自らが見本となって100%奴隷労働のないチョコレートを作ろうと、2005年に「トニーズチョコロンリー」を創業したんだよね。

僕はアムステルダムの駅にある売店でこのチョコレートを知ったたんだけど、街中どこに行っても見かけるほど消費者から人気がある。

それはすごい。


声を上げることが、社会を変えるきっかけになる

どんな形にせよ、声を上げることは、やはり社会が変わっていくきっかけになるし、知っていれば、人間というのは、良い方向に動くことができるんだと思う。

企業はやはり消費者の方を向いてビジネスをしてるから。

どんなビジネスでも、お客さんから「何でそんなことをしてるんですか?」とか、「これってどうなってるんですか?」という問い合わせのメールがきて、その数が5人、10人と増えれば必ず経営会議の議題になるはず。

それが100人とかの単位になってきたら、これはもうちょっと先に動いておいた方がいいねってなるし、1,000人だったら確実に何か行動を起こすと思う。それは、社員が10万人いるような会社でも同じだろうと思います。

だから、やはり消費者が求めることはすごく大事。そういう意味で、日々の選択という意思表示が大切という志奈の考えには僕も共感します。

日本だと、例えば「ファストファッションを買って着てるから、フェアトレードやオーガニックコットンが良いということを公言しちゃいけない」といった雰囲気があると感じていて、それはすごくもったいないなと思っています。

後ろめたさが理由で言わないと、もっと変わらない。

そうだよね。そういうものは選択肢が少ないし、値段が高い場合もある。だから自分はなかなか手が出せない。

だけど、例えばフェアトレードのものを一つも身に着けていなくても、「私はこの社会で物を買うときに、できるだけフェアトレードの物が並んでいる社会がいいです」ということは、言ってもいいと思うんだよね。

さっきも言った通り、会社や社会に対して意思表示をして、そういうニーズがあることを可視化することが、変わっていくためには大切だから。

完璧に全てを選択するのは難しいよね。

本当に。社会の仕組み自体が完璧じゃない中で、自分だけが完璧になるのはとてつもなく難しい。というか、ほぼ不可能。

だからこそ、「不完全なシステムを少しでも良くしたいです」と言った方がいいと思う。だからその勇気を持ってほしいし、言った人を攻撃してほしくない

攻撃は本当に良くないと思っています。もっとみんなが優しく許容していく。その中で仕組みはやはり変えていかないと。

本当にそう。

例えば、食べ物も野菜中心、電気も自然エネルギー、洋服もエシカル。たとえ、そういう人であっても絶対に気がつかないうちに環境負荷のかかることをやっているし、人を傷つけることを結果としてやってしまっている。

いくら自分はCO2を排出しないものを使ってるといっても、電車に一本乗ったら、それが原発の電気で動いていたら、それは結果として原発に加担していることになる。

そんなことを言っていたら、生きていけなくなってしまう。

だからこそ、自分の完璧さを切り取って、それを人に対して上から目線で、「僕はできてるけどあなたはダメじゃないか」というのは良くないし、自分ができてないからといって、そんなに自分のことを蔑んだりする必要もない。

でも「方向としてはあっちに行きたいよね」ということは、やはり声を上げた方がいいと思っています。


具体的に「どうなりたいか」という方向を示すことが大切

私もずっとそれを考えていて、BestじゃなくてBetterな選択がいいんじゃないかなと思っていたから、今まさに話してくれた内容に共感した。

同時に、具体的に「どうなりたいか」という方向を示すこともすごく大切

「どうなりたいか」と「今」のギャップを埋めるのがアクションなわけだから。

だけど、一つひとつのアクションに対して完璧さを求めないで、最後はここを目指してるんだから、と目線合わせをすることが大事かなと思っています。

そういう意味でも、ベストじゃなくて、ベターはすごくいいと思う。

完璧さを求めるあまり、一歩も動けなくなるのが一番良くないから、だから一歩踏み出した方がいい。

だけど場当たり的に、「昨日より今日が良ければちょっとずつでもいいじゃん」ではなく、ここまで行くぞってところから逆算して考えることも必要だよね。

うんうん、確かに。ベターだけだと自己満足になっちゃうもんね。

ちょっと話は変わるんだけど、以前話してくれた「革命家なき革命」の話をしてもらってもいいですか?

「革命家のいない革命」の話は、武井浩三さんという方から聞いた話なんだけど、これからの時代は、一人の権力者が何かを決める仕組みではなくて、いろんな人がいろんなことを言いながらコミュニケーションをとって、同じ方向を目指しながら具体的なアクションを取る。

例えば、今よりも小さな単位でそういうことが行われる自律分散型の社会に変わっていくとしたら、そのプロセス自体もトップダウンじゃなくて、みんなが変えていく

そういう変化のことを「革命家なき革命」と彼は言ったんだと思います。

そう思う。それは一番伝えられたら、と思うよね。

例えば、大きな地震が来たり、大きな台風が来たときに、どこかの都市で1週間電気が使えませんとか、1ヶ月水が出ませんなんてことが起きるじゃないですか。

それって、一カ所で電気を作ったり、大型ダムから分配しようとするから、一つが駄目になると、大勢が影響を受けるという話だよね。

だから、もっと小さな市町村単位で電気を作ったり、雨水を利用するもう少し小さな貯水の仕組みがあったりすれば、ここは台風で壊れても、「こっちとこっちとこっちは動いています、余った分を送りましょうか」みたいに、被害も最小限に抑えられる。

そういう仕組みを、例えばエネルギーで作ろうとしたときに、やはりこれまで僕たちが一番効率がいいと信じてきたような、石炭火力発電所や原発は、小さな市町村では運営が難しい。

ノウハウもないし、お金もかかるし、規模が大きすぎるから。でも自然エネルギーって、小さな企業でも、小さな市町村でも、市民の組合でも十分持つことができる。

だから自立分散型の社会にも向いてるし、気候変動という面でもベターな選択で、自然エネルギーはすごく可能性があるな、と思っています。


経済発展のために負荷を外部化し、見えないどこかに押し付けてきた

この前講演させていただいた学校の校長先生が、「私的には今の世の中は昔と比べて環境がどんどん良くなってると思っていました」と。

「目に見えるガスや田んぼ、川だけ見ると、水がすごくきれいに見える。だから、良くなってると思ってたんですが、そうじゃないんですね」とおっしゃっていて。

昔はそんなに目に見えるところで環境汚染があったんだなと驚いたんだけど、そういうところは良くなってきても、やはり目に見えない形で二酸化炭素が大量に排出されていたり、他の国が汚くなって自分の国がきれいになっているのかなって思ったの。

そうだね、日本は戦争に負けて、国を復興させなくてはならないから、効率が優先されてきた。

そのおかげで僕たちもこうやって便利に暮らしている。でも、一方で、効率が優先されるあまり、排気ガスの規制とか、河川への排水規制とか、そういうものは緩くなりがちだった。

僕が小学校のときは東京の下町に暮らしていたけど、川は汚いし、空は霞んでいるし、体育の授業まで中止になっていたからね。まだ40年くらい前の話。

それはすごい。

今は、もちろん規制が改善されたこともあるけど、モノの生産の多くは発展途上国に移行して、できた製品を安く買いあげるようになった。

例えば、衣類の国内生産は僕が大学を出た1990年代初めは50%くらいだったみたいだけど、今はたったの2%。

結果として、製造時に出される環境負荷も海外に押し付けている。日本の空や川が綺麗になった背景にはそういうこともあるんじゃないかな。

中国は人口が多いし、工場も多い。自分の身の回りを見わたして、メイド・イン・チャイナじゃないものって逆に何があるんだろうと思っちゃうくらい。

中国は二酸化炭素をすごく出してるけど、その原因の一端は、日本を含む先進国なんだよね。

そうだと思う。そういうことって、学校の授業としても取り上げていい題材だよね。まさに経済学。

先進国は、経済を発展させるために、そうやって負荷を外部化して、見えないどこかに押し付けてきた訳だけど、発展途上国が今の先進国のようなあり方になったら、行き場がなくなる。

国ごとに二酸化炭素を減らそうという考え方がそもそもおかしいんじゃないかなと思う。

飛行機から出る二酸化炭素は「空」だから、二酸化炭素の排出量にちゃんとカウントされてなかったりとか。

「誰がその責任を負うのか」というところは、トータルで、商品一つ一つトラッキングして、消費して、ちゃんと処理するところまで追っていかないと解決していかない気がする。

そういう議論は本当に大切。

そういったメッセージを、志奈たちの世代から出すことはすごく大事。それが社会の方向を決めていくから。

だから、志奈が学校での講演を始めたことは素晴らしいことだと思う。

その中で今後は、「お互いを認め合う」というのがキーワードになると個人的には思っています。

さっきも言ったけど、自分は完璧で、自分を高いところに置いて、セーフティーゾーンから他者を攻撃するみたいなことって、社会が変わることにはつながりにくいと思うから。

だから、ベストよりベターという感覚を持ちながら、とにかく今起きていることを知ってもらおうという志奈の活動を心から応援しています。



〈取材・文=先生の学校編集部/写真=本人提供〉