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Vol.7 大学を休学して、オランダで学校視察&サッカー留学!

Vol.7 大学を休学して、オランダで学校視察&サッカー留学!

3回連続で“世界一子どもが幸せな国”と評価されているオランダ。

「でも実際はどうなんだろう?文化も、人口も、地理も、歴史も日本と異なるから場所だからこそ自分の目で見て、考えて、日本に伝えたい」

そんな気持ちで、オランダにある学校を視察をする中で見えてきた、先生方のフレキシブルな働き方や多様な文化の中で育つ子どもたちの様子、大学を休学して海外で生活する経験から学んだ「わたしの幸せの見つけ方」についてお伝えします!

写真:渡邉すみれ(わたなべすみれ)
渡邉すみれ(わたなべすみれ)
アマチュア女子サッカー選手/Homie co-founder

2022年に明治大学政治経済学部に入学。大学2年次の秋からトビタテ留学JAPAN15期生としてオランダに1年間のサッカー留学を行う。高校2年生のとき、「靴下を上にあげなさい」と先生に追いかけられたことをきっかけに学校の校則のあり方に疑問を感じ、生徒会長として活動を開始。同時期に認定NPO法人カタリバ「みんなのルールメイキングプロジェクト」が発足、全国の校則見直しムーブメントに関わる。18歳のときに学生団体Cominiaを設立し、鎌倉で古民家を活用した子どもたちの居場所づくりをスタート。現在は、オランダの教育から「子どものwell-being」が高まる要素を日本に届けるため、設立したHomieを運営中。


「休学」して「海外」に来たワケ


「半年間、ギャップイヤーをとってオランダから中国まで自転車で旅をするから、その間この部屋に住んでていいよ」

そう言ってくれたのが、私が現在オランダ滞在中に借りている家の家主です。私が現地で所属しているサッカーチームの、チームメイトのパートナーにあたる彼は「自転車で旅をしながらいろいろな景色をみてみたい、冒険がしたい!」と言って、オランダを出ていきました。

日本ではまだまだ「休学」と聞くと“何か休まなければいけない理由があるの?”と思われる方も少なくないと思います。しかし近年では、アルバイトでお金を貯めて旅に出る、インターンとして実際に働いてみる、海外で生活をしてみる、など自分を見つめ直したり、将来について考えるために休学をする学生も増えてきました。

私はというと、小学生の頃からの夢の1つでもあった「いろいろな国の人と言語や文化の壁を越えてサッカーボールでつながりたい」という思いに加えて、高校生から探究活動を行う中で感じていた「日本を客観的に見てみたい、子どもが幸せと言われる国の理由を自分の目で確かめて日本に持ち帰りたい」、そのような思いで、休学をして海外に出るという選択をしました。

と言いつつ、正直な思いとしては、2年後に大学を卒業して社会人になっている自分がイメージできず、さまざまな価値観に触れて自分の生きてきた人生を客観的に見る時間の必要性やこれからどんな人と一緒に、どんな環境に身を置いて生きるのか。これらをゆっくり考える時間がほしいと思ったことが休学をして海外に出た一番の理由です。

オランダに来て一番印象的なのが、ニクセン(オランダ語でNiksen:「目的を持たない時間」のこと)という言葉と文化。ただ流れていく時間の中で本を読んだり、散歩をしたり、大切な人とお酒を飲んだりするこの国の文化こそが私が必要としていた時間そのものでした。

言語や文化を越えてさまざまな人の信念やパッションに触れていく中で、。ないものより、あるものを大切にすることに目が向き、「こんな大人になりたい」「こんな人生を歩みたい」と思えるようになり、そう思わせてくれたオランダに感謝の気持ちがあふれます。


異国の地でサッカーをするということ


「Su! in je rug!(すみれ!後ろに相手がいる!)」

オランダは第二外国語として英語を流暢に話す国として、世界ランキング1位を誇っていますが、サッカーのプレイ中はオランダ語が話されています。

オランダには「エールディヴィジ(Eredivisie)」というプロリーグが存在し、アヤックスなどを含む12チームが所属しており、その下にアマチュアリーグとして2部、3部と連なっています。私が所属しているのは2部と4部に登録をしているチームです。

アムステルダム市内から自転車で20分ほどの場所にあり、40人を超えるオランダ人(うち2人はニュージーランドとアメリカ出身で英語が第一言語)が2チームに分かれ、フィールドを半分ずつ使用して練習に取り組む日々です。168センチある私が平均身長以下になってしまうほど、オランダ人は背が高く、中には180センチを超えるチームメイトもいます。

あまりの体の強さとスピード感に最初は驚きましたが、だからこそこのオランダ生活では「どうやったら自分の強みを生かしていけるのか」を考えるきっかけにもなりました。

8月半ばにオランダに来て、すぐシーズン前の練習が始まったため、チームに合流させていただきました。

最初の数カ月は2部リーグの練習に参加、後半の最後の方のみでしたが試合にも出ている状態でした。しかし、12月の休み期間を終えてからコーチが新しく変わったこともあってか、4部リーグですら試合に1分も出させてもらえない週が何度も続きました。

仲のいいチームメイトには「Suがサッカーをしたい気持ちがあるのは仲がいい私には分かる。でも周りにはアグレッシブには見えづらい。もっと声とか体で表現しないと!!」と言ってもらい、自主練では一緒に叫ぶ練習からスタート。

悔しい思いをすることもあるけれどボール1つで友達ができた小学生の頃と同じように、ボールが文化や言語の違いを越えることの尊さを感じるきっかけにもなりました。


幸福度が高いオランダについて


前述した通り、「子どもの幸福度」が3度連続世界1位を誇るオランダは「世界幸福度ランキング2024」でも6位を占めるなど常に上位に入る国として有名です。中には「幸福は測れるものではないよね」と考える人もいると思います。

確かに「幸せ」というのは個人の主観的なものでもあり、かつ感情の1つなので、そのときどきで変化していくものです。しかし、身の周りの人間関係やワークライフバランスなど自身の生活満足度について考えたり、政治や社会課題などに対して他者との建設的な対話によって自分たちの生きる地域、社会をより良くしていくために働きかけること、これらは科学的にも本人の「幸せ」にも直結してくる要素です。

なので私はオランダという国で時間をかけて生活してみることで、感覚的に「何が幸福度を高める要因なのか」について考えたいと思っています。

今回のオランダ滞在期間では、学校視察や保護者の方へのヒアリングなどを行う中で、主に「子どもとのコミュニケーションのあり方」から、どんな要素が子どもたちの自己効力感や自己決定力を作っているのか、それらが子どもたちの幸福度の高さにどのような影響を与えているかについて、個人的な関心を持って調査をしています。

これまでの学校視察、ヒアリングからオランダでは先生たちも保護者の方も「無理をしてまで強い(ら)ない」「本人の意志を尊重する」「干渉しない」これらが子どもたちに自主性を育ませ、「まずは自分を大切にする文化」を作っていると感じました。

マリア・モンテッソーリ式の小学校を訪問させてもらった際、その学校の校長先生が話していた言葉が今でも強く印象に残っています。

「誰一人同じ子どもはいない。だからこそ、一人ひとりに合った教育が重要。子どもたちは学校で“自分で選択肢をつくる勉強”をしています。自分はどんな人間で、何が好きなのか。それを知ることが大事なのです。」

周りと同じであることが正とされる風潮のあった日本での学生時代を思い出し、いかにオランダの学校が個にフォーカスしている現場なのか、と改めて気づかされました。

同じ学校で先生にヒアリングを行った後は、主に9歳〜12歳の子どもたちが学校を案内してくれました。学校案内の際に印象的だったのは、どんなときも「あなたが見たいならこっちも紹介するよ!どうしたい?」と常に私たちの意見を聞いてくれる姿勢で接してくれたこと。

オランダに来てから「If you want!」と聞かれるたびに周りの目を気にするのではなく、「私は何がしたい?」と自分に問いかける癖がつきました

他にも印象的だったシーンは先生の子どもに対する声の掛け方。異年齢混合クラスである教室の子どもたち約20人の中には英語を得意としない生徒もいます。

私たち日本人留学生から子どもたちに向けて日本の文化に関する3択クイズを行った際、担当の先生が「もし英語が聞き取れなかったり、分からない事があったら近くのお友達に聞いて一緒に考えてみてね!」と伝えていた姿は、不得意なことがあることを否定するのではなく、得意な人と不得意な人がありのままの姿で重なり合い、調和していくような集団のあり方を感じました。

オランダの教育と聞くと「義務教育中の学費が無料」「小学校卒業後は全国テストの結果によって主に3つのコースに分かれる」などの特徴から、教育先進国と言われることもあります。

でも日本と同じように教員不足の問題が叫ばれていたり、テストの影響で12歳の時点でその後の人生がおおよそ決まってしまうことはどうなの?といった声もあり、それらの課題についてはさまざまな場所で議論が行われてます。

オランダで学んだことを日本にそのまま持ち帰ることは難しいと思いますが、子どもたちの幸せを形作っている要素を自分なりの形で持ち帰って活かせたらと思っています。

〈文・写真:ご本人提供〉