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Vol.3 ニューヨークで演劇教育を学ぶ現役大学生の学生生活をリポート!

Vol.3 ニューヨークで演劇教育を学ぶ現役大学生の学生生活をリポート!

「世界の大学 学びの車窓から」は、世界中の大学で学ぶ学習者を取材し、世界の大学で実践されている学びを紐解く連載です。

今回は、演劇教育を学ぶためニューヨーク大学の演劇教育専攻で学ぶ田代芽生さんに、大学での学びや日々の生活をレポートしていただきます。

写真:田代 芽生 (たしろめい)さん
田代 芽生 (たしろめい)さん
ニューヨーク大学 演劇教育専攻

小さい頃から近所の英会話教室で英語劇を経験し、演劇の教育的価値に興味を持つ。高校時代のアメリカへの留学経験を経て、アメリカの大学に惹かれる。その後、海外でより盛んな演劇教育を学びたいという理由で、アメリカの大学への進学を決意。現在はニューヨーク大学 (New York University)で、演劇教育 (Educational Theatre)を専攻している。学生として日々学習し、課外活動にも専念する他、MAY from NYUという名前でInstragramやYouTubeを通して情報発信活動をしている。


演劇教育とは?

こんにちは!

アメリカで大学生をしています、めいと申します。

私は小中高日本で育ち、普通に日本の大学に行く予定で教育を受けていました。そんな私が、なぜわざわざアメリカの大学に行こうと思ったのか、そもそもプロフィールに書いてある「演劇教育」とは何なのか、私の学生生活の一コマやその中での気づきなどをご紹介していこうと思います。お付き合いください!

さっそくですが、演劇教育とは、演劇を教育用途に使うことです。

演劇というと、劇団四季や宝塚、またテレビのドラマなど、エンターテイメント界のものを思い浮かべる方が多いと思いますが、実は演劇は教育にも使われています。日本でも行われているのですが、アメリカとイギリスでは特に盛んで、演劇系の課外活動が多かったり、ドラマのクラスが学校で教えられています。

私がそんな演劇の教育面に気づいたのは、高校生のときでした。

通っていた英会話教室で英語劇をやる機会があり、私は劇を通して英語を学ぶという体験をしました。英語劇を通して英語を学ぶこと、英語を使うことは本当に楽しく、気づけば英語に関する向上心は勝手に上がり、学校でも人より英語力が高くなっていました。

そんな日常の中で、ある日学校で英語の授業を受けていて、ハっと気づいたことがありました。「どうして同じ英語を学んでいるのに、学校の授業はあまり楽しくないんだろう?」という疑問でした。

学校で英語の授業を受けていると、ただ先生の話を聞いて授業を受けているだけで、誰一人ワクワクしている感じがありません。それは私が通っていた英会話教室での生徒の様子とは正反対の光景でした。

その気づきを得た際に、目の前で見ているクラスメイトの表情と、英会話教室でのクラスメイトの表情のコントラストが強く頭に浮かびました。そして、「日本の英語教育はこのままで良いのだろうか?もっと学校でも英語を楽しく学べないのだろうか?あの英会話教室に通っていなかったら、私はここまで英語ができていただろうか?」という考えが頭を駆け巡りました。

そのときに、「演劇はエンターテイメントだけではなく、教育にも使えるのではないだろうか?」と考え始めました。そう思って調べてみると、「演劇教育」という言葉をネットで見つけました。更に調べてみると、演劇にはコミュニケーション能力や自己表現力を向上させる力があるらしいとのことでした。

「演劇すごい!」と思いました。海外では演劇が教育に取り入れられていることも知り、「日本でも同じことができないだろうか」と考え始めました。

演劇そのものの教育的価値に加えて、演劇を英語教育に使うことはやはり効果的だなとも思いました。それは、演劇の効果として「英語を使いたい」と思わせるからです。

プロではありませんが、何かを演じる機会を経験したことのある立場から感じたのは、何かを演じるというのは、自分の中の一部を表現するということ。誰もが、言いたい、伝えたい何かを内側に秘めていて、演劇という場においてはそれを表現することができます。

伝えたい×英語で、「英語を使って自分の気持ちを言ってみたい」という気持ちになります。そこから更に英語への興味が生まれていく。これに気づいたとき、「演劇を通して英語を学習することは、とても効果的なのではないか」と思い、演劇教育を大学で学ぼうと思いました。

たくさんのリサーチを重ね、自分が演劇教育を深く学べるのはアメリカのニューヨーク大学だ、という結論に至り、現在演劇教育を専攻しています。


予想外だけど、充実した学びの時間

アメリカでの大学生活は驚きの連続で、慣れるのに正直3カ月はかかりました。こちらの大学に進学を決めたときは、演劇教育が学べるという印象がほぼ全てで、実際の学生生活のことは想像もしませんでした。

実際に入学して驚いたのは「課題の量」でした。授業にもよりますが、特に読むものがとても多いのです。あるときはネットにある記事を読んだり、教授自身が出されている本を読んだり、論文を読んだりしています。

かなり時間をとられるので、隙あらば何かしら読んでいる日々です。自分が学びを得られる時間や経験は有限なので、他の方々の経験や知識を読むものを通して得られるのはうれしい反面、これには本当に苦労します。

また、「授業での交流の多さ」も驚いたことの1つです。

教授と生徒が授業内で頻繁にコミュニケーションをとっています。うちの大学では20人程度のクラスが多く、教授も生徒に頻繁に何かを問いかけますし、生徒も教授に何度でも質問ができます。たまに数百人の大きいクラスもありますが、そのような場合でも一緒です。

教授が質問して生徒の理解度を確認し、生徒も分からなければ自由に質問することができます。たまに1つの質問から深い議論になったりするのも、おもしろいところです。

グループワークをすることも多々あります。今学期私は、Social Entrepreneurship(社会起業)に関する授業を取ったのですが、グループで1つの起業案をつくる課題がありました。1カ月ほど課題に取り組む期間が与えられましたが、なかなか同じビジョンを見ることが難しく、進めるのに苦労をしました。

今では、Zoomでミーティングをすることがコロナに関わらず当たり前になっているので、夜な夜なオンラインミーティングをして意見を出し合い、アイデアをかため、それを再構築して、また話し合い、というステップを重ねました。

Social Entrepreneurshipのクラスのように、専攻とはまったく関係のないクラスを取ることもありますが、演劇教育関係のクラスは必ず毎学期取り、演劇教育に関する知識や経験を得ています。

あるクラスでは演劇がエンターテイメントの他にどう使われているかを学ぶことがあり、実際にその経験もしました。例えば、ニューヨーク大学の医療系の学部とのコラボレーションで、患者役をすることもありました。実際の患者さんではなく、患者を演じている私たちを通して、医者やナースになりたい人が練習を積むためです。

私たちは、与えられた症状や配役の生活環境などを深く調べ、その患者としてカウンセリングを受けました。私は靭帯が切れてしまったスポーツ選手の患者さんを割り当てられたので、その人はどんな歩き方をするのか、今どんな風に感じているだろうかと考えて、その人を演じながらカウンセリングを受けました。

これを終えて、医療系学部の学生たちは実習を通して自信を持って臨むことができそうだと言っていましたし、私自身も演劇のエンターテイメント以外での使い方の可能性について、より考える機会になりました。「演劇はなぜここまでエンターテイメントの枠にとらわれているのだろうか?もっとそれ以上のことができるのではないだろうか?」と、演劇の無限の可能性に胸が膨らみました。

演劇関係の専攻に属しているため、演技や監督を学ぶクラスもあり、最近取ったクラスで特に興味深かったのは小学校での演劇の使い方を学ぶクラスです。

アメリカでは学校でドラマが教えられていることがあり、生徒が実際に演技をしたり、Dramatic Activitiesというドラマ要素のあるゲームをしたりします。

このクラスは実際に小学校でドラマの先生をしている先生が担当してくださり、私たちは小学校で使えるDramatic Activitiesや表現の仕方の指導を学び、授業のプランを練ることもありました。実際に先生の勤める小学校へ赴き、教える側として参加させていただいたこともありました。

私にとって、将来自分がしたいことにとても近いことが経験できたクラスで、自分の未来へのワクワクが更に増したことを覚えています。いつか同じような光景を、日本のより多くの教室で見たいです。


大学で何をするか >大学の名前

受験生の頃は、大学名を結構気にしていました。日本では学歴は大事、とよく聞きますし、アメリカでも同じなのではないかなと感じます。志望校を選んだときはなるべく有名な大学を視野に入れるようにして、実際そこそこ有名なニューヨーク大学に受かり、少し安心していた自分もいたと思います。

しかし、この環境で勉強していて思うのは、大学名よりも、大学で何をするか、どんな行動を起こすかが大切だということ。

大学名はただの肩書きで、私自身を表すものでは1ミリもありません。実際、学生が有名な大学に入ったからといって気を抜くかというと、そんなことはない気がします。あくまで与えられたのは機会と活動をしやすい環境。

ニューヨーク大学は都会に校舎が建っていたり、著名な教授の方々が多かったりと、何かをしたいなと思ったら、それが実行できる環境や頼れる人は多くいます。でも、考えを実際に行動に移すのは、口では簡単に言えても難しいことです。それでも、とてつもない行動力を持ち、ニューヨーク大学のありとあらゆる恩恵を受けて実際に活動している学生が、ここにはとても多いように思います。

特にそれを感じたのは、大きい劇場でstage managerという舞台の裏方のまとめ役のような役割をさせてもらえたときでした。オフブロードウェイという、演劇界のトップであるブロードウェイの次に大きい劇場で、その役割をいただけたのです。

しかしそれも、私が単にこの大学に通っていたからできたかというと、そうではありません。オフブロードウェイの劇で主役をされている方に授業を通して知り合うことができ、クラスメイトと一緒にその方に交渉をし、劇場を使わせていただく許可を得て、リハーサルのスケジュールや実際の公演プランを組んだことで公演が実現しました。

私たちが最初に持っていたものは、私の大学がオファーしてくれたその主演女優さんとの縁だけでした。それを私たちが実際に使わせていただくために動いたから、このような素敵な機会をいただき、つくることができました。大学の規模はもちろん助けにはなりますが、結局大切なのはそれをどう生かせるかなのではないかと思います。

そうは思っていても、行動に移すことは、実際大変です。なかなか簡単にできることではないです。ありがたいことに私の周りには、私に良い刺激をくれる学生や私を支えてくれる大学の方々がいて、彼らが私に行動する意欲をくれます。自分から動いて、変化を起こしたいという心を奮い立たせてくれます。

そういう環境に感謝しながら、私は今後も精進して、やりたいこと、成し遂げたいことに向かって少しずつ進んでいきます。