本との出会いは、人との出会い。図書館が中心にある学校「青翔開智中学校・高等学校」が生み出す、本との出会いと人とのつながり 【PR】
「図書館の中に学校がある」という独自のコンセプトで設計された青翔開智中学校・高等学校。学校の中心に位置する図書館は、生徒たちが本や情報と出会い、探究心を育む場として重要な役割を果たしている。
同校に開校準備段階から関わり、現在は図書館司書を務める横井麻衣子さんは、生徒一人ひとりと本との出会いを大切にし、授業づくりにも関わりながら生徒たちの成長を支えている。
本と人をつなぐこの図書館の意義や生徒たちとの関わりについて、横井さんに話を聞いた。
美術大学卒業後、民間企業に就職し、キャラクタープロモーションの仕事に従事。その後、青翔開智の開校準備室に学校広報として参画し、開校後は図書館司書も兼務する形でゼロから同校の図書館づくりに携わる。
本との自然な出会いを演出したい
ーー青翔開智中学校・高等学校は、「図書館の中に学校がある」というコンセプトで設計されたそうですね。なぜ図書館を学校の中心に据えたのでしょうか?
まず、鳥取県が図書館教育にとても力を入れている背景があり、校舎のコンセプトを考える際、県の図書館教育の魅力を反映した学校にしたいという声がありました。それなら学校の中心に図書館を置いてみてはどうかということになったのがきっかけです。
ジョン・デューイの『学校と社会』など、教育の古典的な書籍にも、図書館や図書室を学校の中心に置き、生徒の活動や学習環境がその周囲に配置された、地域社会や日常生活と結びついた学校のあり方が示されています。常に本や情報にアクセスできる状態が、学びを深めるために重要だという考えです。
また、設計前にはさまざまな学校や大学も視察したのですが、教育が充実しているところでは、図書館が生徒や学生の学習活動に深く関わっていました。
そこで、本校でも図書館を学校の中心に配置し、「学校全体が図書館である」と謳うことにしたのです。図書館は教育活動や教科に限らず、学校生活のさまざまな場面や生徒の悩み、成長などにも深く関わることができます。そんな多面的な関わりができることを、とてもおもしろく感じています。
ーー広い図書館は圧巻ですね。横井さんは「授業お助け隊」とも呼ばれているそうですが、図書館司書としてどのように授業に関わっているのか教えてください。
当校では、全学年・全教科において探究的な授業を実施しています。
各教科で探究的な授業を行う際、計画段階から先生方と相談をしながら授業のねらいや目的を確認し、それに沿った本や資料を提案していきます。授業者から「フランス革命に関する図版や写真、絵が多く載っている本を20冊ほど用意してほしい」といった具体的なリクエストを受けることもあります。
授業によっては私も一緒に入らせてもらって、導入や中盤、最後のまとめなどの場面で、生徒の学びを深めたり広げたりできるような本や資料を提供していきます。
また、読み方や調べ方のテクニックを教えることもあります。生徒が本のタイトルだけを見て「この本には自分の調べたいことが載っていない」と判断してしまうこともあるので、目次の見方や索引の使い方、自分が求めている情報を1冊の本からどのように探し出すかを一緒にページをめくりながら伝えています。
ーー授業以外の場面では、どのような形で生徒たちと本や情報との出会いを演出されていますか?
実は、選書の段階から「この本はこの子に読んでほしい」と思いを巡らせているのですが、直接的にその子に勧めるというよりも、間接的に届くといいなと思っていて。
例えば、本校には「メディア委員会」という図書委員会のような組織があるのですが、まずはメディア委員会の生徒たちに「こんな本が入ったんだけど、こういう生徒に読んでもらいたいんだ」という会話をします。すると、そのメディア委員の生徒が自分のクラスで紹介してくれて、私が届けたいと思っていた生徒に自然とその本の情報が届く。
そして、その子が図書館に来てその本を手に取ってくれたら、心の中でガッツポーズをしてしまいますね(笑)。
また、国語の授業では、中学校1年生から高校1年生まで「ビブリオバトル」という本の紹介合戦を取り入れてもらっていますし、朝読書の時間には、隣の席の人に今月読んだ本を紹介したり、来月読もうと思っている本を共有したりする時間を設けることもあります。
先生や司書など大人に勧められるだけではなく、友達や「すごい」と思っている先輩から教えてもらうといった形で本と出会うきっかけがあり、最後は自分で選び取るという形が、理想的だと私は考えています。
なので、そういった自然な出会いを演出するために、さりげない工夫を心掛けていますね。
本との出会いは人との出会い
ーー横井さんは、本と出会うという行為が生徒たちに何をもたらすとお考えですか?
私は、本を単なる「本」とはあまり考えていません。本は「人」だと捉えているんです。
現在、本校には約2万冊の本がありますが、生徒たちには、「2万冊の本と出会うということは、2万人と出会うことなんだよ」と伝えています。
本を手に取ってその内容と向き合うことは、その本の著者と対話することであり、その本を読んだ仲間と会話をするきっかけにもなります。ですから、本と出会うということは、人と出会うことそのものだと思っています。
生徒との会話の中でも「この本があなたと話したいと言ってるよ」といった声掛けをします。最近あまり本を読んでいない生徒には「本の方ではあなたに話しかけているんだけど、本の声は小さいからなかなか聞こえないんだよね。気づいて!」といった呼び掛けをすることも。
そうすると、生徒たちは「人と会話する」感覚で本を手に取ってくれるようになります。
ーー本を通してその著者の考えを知ることは、まさに著者と対話しているような感覚になりますね。
中高生になると、自分は読書が苦手だといって本と距離を置く子もいますが、「本との出会いは人との出会い」と捉えれば、誰かと気軽に話してみるような感覚で本を開くことができるかもしれません。
さらに言えば、本との出会いや本との対話は、巡り巡って自分との出会いになると思うんです。中高生は自分がどういう存在なのかを知りたい年頃です。本と出会うこと、他者と出会うこと、人と出会うことは、最終的には自分自身や自分をとりまく世界を知り、理解することにつながっていくのではないかと思います。
本を通して出会う世界は変わらない。届け方を、変えていく
ーー近頃、子どもたちが本を読まなくなっているという報道もありますが、開校以来、図書館司書として生徒たちと本の触れ合い方について感じる変化はありますか?
生徒たちが本を通して出会う対象、つまり情報や人の考え方、物語などを求める気持ちは、本質的には変わっていないと思います。それは先生方も同じで、良い授業を作るために本や情報を活用したいという思いも、何も変わっていません。
ただ、紙の本を読むのか、電子書籍を読むのかと選択肢が広がってきたので、私たち“つなぐ側”が、生徒や本との接し方を変えていく必要はあるかもしれません。
最終的には、世界との出会いを通して自分自身と出会うことが「本」が持つ本質的な力なのかなと感じているので、どうすれば生徒たちが本とつながりやすいか、どうすればそのつながりを深められるかを考えながら、柔軟に対応したいと思っています。
ーー青翔開智中学校・高等学校においては、生徒と本とのつなぎ方はどのように変わってきましたか?
従来は、図書館に本を並べたり、口コミやお便りを通して本の情報を伝えてきましたが、2019年のコロナ禍をきっかけに、オンラインを活用することがかなり増えました。
今ではメールやGoogle Classroomを通じて情報を発信したり、学校のホームページにお役立ちリンク集を作成したり、電子図書館を導入したりしています。ビブリオバトルや読書会をオンラインで開催することもあります。オンラインだと他県や他校の生徒たちと交流できるので、外部とのつながりを広げる良い機会になりますね。
ーーこれまで以上に本との出会い方が広がりますね。最後に、学校図書館は横井さんにとってどんな場所ですか?
図書館学者のランガナタンが提唱した「図書館五原則」という理論の中に「図書館は成長する有機体である」という第5の原則があります。有機体とは、生物や生命体のこと。つまり、図書館とは変わり続け、成長し続ける存在だということです。
私もその通りだと思っていて、美術館や博物館の場合は、展示物を収集・保管して展示することが主目的ですが、学校図書館はそこにある「本」をたくさん活用してもらい、新しい本が入る一方で、使われなくなった本は除籍されるなど、常に循環していく場所だというイメージを持っています。
図書館も、人の成長と同じように変わり続け、成長している場です。生徒や先生方と一緒に、本や図書館を動かしているひとときが、私にとって最も楽しい時間です。
これからも、本と生徒、先生たちをつなぐ存在として、授業づくりに一緒に取り組み、私自身も変わり続けながら、変化し続ける学校図書館でありたいです。
〈取材・文:先生の学校編集部/写真:Newspicks Education ご提供〉