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知の底流にあるものを明らかにするTOKの真髄に触れ、IB認定校へ。実践者に聞く、TOKのエッセンスの取り入れ方とは? [PR]

知の底流にあるものを明らかにするTOKの真髄に触れ、IB認定校へ。実践者に聞く、TOKのエッセンスの取り入れ方とは? [PR]

国際バカロレア(以下IB)認定校に勤務し、日頃から「知の理論」(Theory of Knowledge、以下TOK)に触れ、授業の中で子どもたちと一緒に実践されている栢野 祐介さんに、TOKの魅力や一般校におけるTOKのエッセンスの取り入れ方について話を聞いた。

写真:栢野 祐介(かやの ゆうすけ)さん
栢野 祐介(かやの ゆうすけ)さん
英数学館小・中・高等学校 教諭

滋賀県の大学附属校において受験指導を行っていたが、知人に誘われて、2019年より国際バカロレア(IB)認定校である英数学館小・中・高等学校に勤務。着任当初より、IBの物理およびTheory of Knowledge(TOK)の授業を担当。現在5年目。


自己認識力を豊かにするTOKの魅力


——栢野さんがTOKを知ったきっかけはなんですか?


以前、大学附属校で教員をしていたときに、今の勤務校である英数学館で教員をしている知人から紹介されたことがきっかけです。大学附属校に勤めていた頃は、主に受験指導を行っていたため、IBやTOKについて聞き及んではいたものの触れる機会は全くありませんでした。

けれどもあるとき、IB認定校である英数学館で実践されているディプロマプログラム(DP)の話を詳しく聞いて、興味が湧きました。その後勤務校を英数学館に移し、それ以来TOKの授業をずっと持たせていただいています。 


——具体的にTOKのどんなところに魅力を感じていらっしゃいますか?


TOKを学ぶことで、IBが掲げる「より平和な世界を築くことに貢献する若者を育てる」というビジョンに自然に向かっていけることと、TOKを教えることで、子どもたちの自己認識力がより豊かになるところに魅力を感じています。

TOKに初めて触れた頃は、「答えのない問いに対して答えを見出すこと」がおもしろいという程度のライトな感覚でしたが、「理にかなった複数の答えが存在する問い」や「人間が何かを知るプロセスとはどのようなものなのか」という問いを客観的に見つめ直すTOKの手法に触れるにつれ、その奥深い世界にどんどん魅了されていきました。

授業でも、子どもたちが自分自身に矢印を向けて「自分はどんな風に知識を得ているのだろうか? 自分は何者なのだろうか?」と自然に思考できるようになってくる姿が見られていて、とてもいいなと感じています。

お話を聞いた栢野祐介さん


——知るプロセスについて熟考することがTOKの狙いだということですが、具体的にどういうことでしょうか?


例えば、何か丸い形状のものを見て「これは丸いものだ」と認識したとします。このときに、「なぜ自分はこれを丸いと感じたのか」を、自分の価値観にまで思考を巡らせて考えます。

他方では、それを丸とは言わない人たちもいるわけです。今度は、「この人たちはなぜ丸だと言わないのだろうか?」という問いから、他者が持っている価値観がどのようなものなのかということに目を向けていきます。

世界で起こる戦争や紛争は、結局は互いの価値観がずれていて、それらがうまく噛み合わないから衝突という事態に発展したものだとするならば、TOKを通して、まずはなぜそうした価値観の違いが起こるのだろうかと考えるスタンスを、自然に身につけられるようになると思っています。


——具体的に、子どもたちとどんなTOKの実践をされているのか教えてください。


私のTOKの授業では、死生観にまつわるトピックをよく扱います。

例えば、お葬式や死後はどうなるのかといった話は、非常に宗教的であり、文化的ですよね。子どもたちも、自分たちが当たり前だと思うやり方があるようで、実際に世界ではどうだろうかと調べてみると、国によって全然違うし、過去には本当に理解も及ばないようなやり方で人を葬っていたという事実に触れ、驚きます。

そうした事実を題材に、一体どういう背景でそうなっているのかを考えさせたりすると、ものの見方・考え方が広がっていきます。


また、さまざまな人が、さまざまな立場からいろいろなことを主張しているようなケースを取り上げて、その主張の裏側にある考え方や、人それぞれの思いを想像させてみるような授業も行います。そういうときには、ニュースを材料に使うこともありますね。

当たり前を疑い、自分たちの価値観を見直すために、全く別の価値観に触れてみる。なんとかその人たちになりきって、その人たちの思いや考えを想像してみる。そんなことを意識した実践をしています。このとき、その人たちが実際に何を考えていたのか、つまり事実(=正解)がどうだったのかについては重要視しません。

どのような状況であれば、ニュースで扱われた事態が起こりそうかを多角的に想像し仮説を立てることを重要視します。仮説が正しいかどうかは一般の科目で扱うので教科横断的と言われるのだと思います。

問い方を変えてみよう


——TOKの授業における子どもたちの反応を見てどんなことを感じますか?


子どもたちの発想の豊かさを感じますね。基本は答えのない問いに向き合っていくのですが、子どもたちが困ったときのために、「こういう立場からも考えられるよね」という形で私もサポートできるようにしているのですが、私自身思いもよらないような角度からの主張に気づき、発表してくれる生徒もいます。

例えば以前、観光船が座礁したニュースを題材に、宇宙飛行士の立場から主張を展開し始めた子がいました。なぜ宇宙飛行士かと聞いてみると、船の操縦から考えを発展させて、「何かを責任持って操縦する」という風に抽象的に考えたときに、「もしかすると宇宙飛行士もこんな風に考えるのではないか?」と想像したというのです。

おもしろいですよね。私にも気づけないような視点に気づき、その人の立場に立った主張をしっかりと代弁してくれたことがうれしかったですね。

ものごとの見え方は1つじゃない。多角的な視点があって、多様な人たちがさまざまな意見を言う可能性があるのだという意識を、TOKを通じて持ってくれるようになったと感じています。


——TOKに出会ったことでご自身に何か変化はありましたか?


もともと科学哲学が好きだったこともあり、節々で「正しいとはなんだろう?」と考えることはありました。

とはいえ、突き詰めて考えたことはなく、科学でいう正しさについてだけ考えていた気がします。それがTOKを知ったことで、そうした哲学的な問いについて改めて考え直す機会につながりました。人によって正しさが違うと思うようになりました。

また、生徒の中には私のTOKと物理の授業を同時に受けている子もいるのですが、不思議なことに、物理の授業の中でもTOKの問いを投げかけるようになりました。

例えば、物理の実験をした後に、「君はなぜこれが正しいと言い切れるのかな?正しいって何かな?」というような問い方をするんです。自分で感じている疑問を生徒に投げかけていますね。

もちろん科目によって特性が違うので、科目ごとの「正しい」を比較させながら、その科目や教科同士の関係性や共通点、相違点を考えるというのもTOKの中で扱うトピックの1つです。


——IB校ではない現場の先生方が、TOKのエッセンスを授業に取り入れたいと思ったときに何から始めたらいいでしょうか?


TOKの指導の手引きの中に「知識に関する問い」というものがあるのですが、このTOKの問いを授業の中で投げてみて、議論してみるのはどうでしょうか。

例えば、生徒たちに全ての科目で「先生はなぜその内容(科目で習うトピック)を正しいと考えているのですか?」と尋ねさせてみる。


教科授業ではよく「正しいのはどれですか?」と聞いたりしますが、その教科や先生、もちろん生徒の中で「正しい」と判断する特有のルールがあるわけなので、「それが正しいとされるそもそものルールとは何か?」について考えることをきっかけにして、「『正しい』という価値観は、あなたの場合はどのように形作られてきたのですか?」「この地域に住む人たちにとっての『正しい』は、どのように形作られてきたのでしょうか?」という問いであれば、簡単に導入できるのではないかと思います。

よくTOKを説明するときには、「知識そのものを探究する」という言い方をしますが、主張そのものが正しいか間違っているかではなくて、主張の正しさを判断する底流にあるものを明らかにするような問いであることがポイントです。


——先生方がTOKに触れることによって得られる恩恵はどんなところにあると思われますか?


TOKでは、題材は世界中に広がっていて、世界中に答えが散らばっているという事実に触れるので、画一的な答えではなく、多様な答えが当たり前なのだという価値観を身につけられる点が一番大きいと思っています。

多様性を自然に受け入れられるスタンスが、まるでOSのように日常に入り込むと、学びも世界もより豊かになるのではないかと思います。


——最後に、栢野さんが今後取り組みたいことについて教えてください。


子どもたちが、もっと自分に自信を持って自己紹介ができるようになってほしいと思っているんです。そのためには、もっと広い世界の中で自分自身は特別だと実感できていてほしいし、自分自身のことを堂々と語れる生徒に育ってほしい。


そこに、TOKを絡めていけたらうれしいなと考えています。自分のことを知れば知るほど、自己紹介は豊かになると思うんですよ。出身地や趣味を並べるといった型にはまった自己紹介ではなくて、「自分といえばこれなんです!」と堂々と言えたら、一人ひとりの個性が表現されて素敵ですよね。

そんな豊かな自己紹介を通して、皆で共感したり驚き合ったりしながら、お互いを認め合える関係性づくりにつなげられたらいいなと思っています。


<取材・文:先生の学校編集部/写真:芝田 陽介>
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