寄付先を子どもたちに託す、新たな寄付の選択肢を。板橋第三中学校が取り組んだLearning by Givingプロジェクトとは?[PR]
「社会に開かれた教育課程」の実現に向け、地域と学校の連携・協働の推進が重要視される中、つながりや費用面などがネックとなり、社会と学校をつなぐ機会を作り出すことができずに悩まれている先生も多いのではないだろうか。
認定特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会が手掛ける寄付先を子どもたちに託すプロジェクト「Learning by Giving」は、そんな先生の良きパートナーとなり、生徒たちの主体的な考えと、責任ある行動を引き出すプログラムだ。
2020年12月に社会の政治単元・経済単元の時間に、このプログラムに取り組んだ板橋区立板橋第三中学校教諭の輪湖みちよさんに話を聞いた。
2007年から東京都公立中学校社会科教員として勤務する。新宿区では国際理解教育、墨田区では人権教育・減災教育を中心に社会とつながる・関わる授業実践に取り組んできた。2020年コロナ渦の中で板橋区に異動し、社会とつながる・関わる授業を模索していたときにLbG参加校募集の記事を目にし、即申し込む。今年は資金集めから寄付までを自分たちで取り組む「板三版LbG」を行ったり、夏季休業中に日本ファンドレイジング協会にインターンとして受け入れていただいたりと、新たな一歩を踏み出している。今後も、地域をはじめとした社会と生徒が直接関わって学ぶ実践を積み重ねていくことで、よりよい社会づくりに貢献したいと考えている。
実際に寄付体験ができる「Learning by Giving」プロジェクト
——社会科の授業で取り組まれた、Learning by Givingプロジェクトについて詳しくお話を伺えますか?
Learning by Givingプロジェクトは、社会問題に対して役立ちたいと考える人から寄付を預かり、寄付先の選定から選択までを子どもたちに託すプロジェクトです。
社会問題を知り、その解決のために活動する団体を調べ、寄付先を決定し、実際に寄付するという一連を体験できます。
もともと生徒たちの思いや考えを引き出す授業に取り組みたいと考えていたのですが、コロナの流行でさまざまな制限がある中で何かできないかと模索していたところ、通勤途中に読んでいた日経新聞で日本ファンドレイジング協会さんが手掛けるLearning by Givingプロジェクトのことを知り、参加校を募集しているのを見て、「これしかない!」と、すぐに申し込みました。
——「これしかない!」と思われた理由を教えてください。
コロナ禍は生徒にとって、自分と社会とのつながりを否が応にも考える機会になったと思うんです。今まで当たり前のように通っていた学校が、自分の意思に反して休校になってしまい、「学校が存在する意味って?学ぶって何だろう?」と。
そういう状況の中で、コロナで困っている人を支えたいという寄付者の思いと、その問題に立ち向かっている団体について調べ、実際に寄付ができるという体験は、未曾有の事態の中でも問題解決に自分も関与できる、という貴重な経験になると思いました。
生徒と社会をつなぎたくても、学校の財源は限られているので、実際に寄付をするという経験はなかなか学校では用意できません。財源が確保されているプロジェクトだったことも、「これしかない!」と思った理由でした。
——寄付先はどのように選定されたのでしょうか?
寄付先の選定に携わりたい生徒を募り、希望生徒と共に、授業で取り組んだ人権レポートなどを参考にNPO団体をいくつかピックアアップしていきました。そのピックアップした中から協会の方にしっかり運営されているNPO団体かを調査いただき、その結果と照らし合わせながら選定しました。
最終的には、「子ども支援」「板橋まちづくり支援」「路上生活者支援」「補助犬支援」をされている4団体を選定し、その4団体から各学級1団体を選択してもらうという仕立てにしました。
「自分たちの行動が社会問題の解決につながることを実感できた」という生徒の声
——具体的には、どのように進められたのでしょうか?
今回は、中学3年生の全4学級に対し、2020年12月15日から25日の2週間で、社会科の政治単元のまとめと、経済単元の導入の計7コマを活用し、実施しました。
流れとしては、最初にイントロダクションとして社会貢献について学び、その次に寄付者の思いに触れる時間をつくりました。寄付をしてくださった方々の応援メッセージが生徒たちに渡され、自分たちに託されたお金にどんな思いが込められているのか、目の当たりにする時間となりました。
そして、寄付候補先であるNPOの方に来校いただき、どのような活動をされているのか、思いなどを生徒が直接インタビューする機会をつくりました。
その後、インタビューした内容をまとめて学級内で発表。
最終的にどのNPOに寄付するかを話し合い、各学級ごとに一つの結論を出してもらいました。そして1学級あたり10万円を、今回選択したNPOさんに寄付させていただきました。
——プログラムの内容は、各学校の状況に合わせてカスタマイズが可能なのでしょうか?
どの授業で実施するのか、時間数や進め方などは、各学校の状況に合わせてカスタマイズできます。
協会から推奨されているのは、単発学習にならないよう、事前・事後学習を行い、つながりを持ったカリキュラムにすることでした。生徒を交えた打ち合わせを含め、2〜3回事前に打ち合わせをして詳細を決めていきました。協会の方と、カリキュラムから一緒に作ったという意識があります。
今回はコロナの影響で時間数も限られていたため、反転学習のような進め方で、時間の短縮と基礎的な関心の喚起も行いました。
——実際にプログラムに参加した生徒の反応はいかがでしたか?
このプログラムが始まったときに、寄付者の方たちが自分たちにお金を託してくださったことを素直に喜んで、いつも以上に本気になって取り組んでいました。普段から主体性のある子どもたちなのですが、「ここまで本気になるんだ!」と、他の教員も驚くほどでした。
さらにNPOの方にインタビューする中で、上辺だけの知識で理解するのではなく、自分の経験とつなげて理解している様子が見受けられました。例えば、ホームレスの人のお話を聞き、自分の中にも差別意識があることに気づいたと振り返った生徒もいました。
生徒たちからは、「自分たちの行動が社会問題の解決につながることを実感できた」「続けて取り組みたい」「後輩や高校の仲間にも知ってほしい」という声をフィードバックとしてもらいました。
より良い学校づくりを通して、より良い社会をつくっていく
——学級で一つのNPOを選択するプロセスは難しさもあったかと思うのですが、実際はどうでしたか?
一つの学級では学級委員が前に立って司会進行をしながら進めていきましたが、他の学級は、私も協会の方もほとんど生徒に任せる形で、「この後どうする?」と委ねました。
そうなると、生徒たちも自ずと進行を意識するようになったり、意見を言いづらそうにしている子に話を振ったり、そういった働きかけが生まれてきました。
学級も社会の一つだと捉えて、自分たちが学級という社会の中で、一番納得のいく結論を出すために、自分が持てる力を出そうとしていた働きかけが印象に残っています。もちろん、なかなか決まらない状況に投げやりな発言が出た学級もありましたが、それも大事なプロセスですよね。
道徳や探究学習は、日頃の学級経営が大切だとよく言われますが、それを体感したプログラムでした。それくらい表面的ではなく、じっくり取り組めたということだと思います。
——Learning by Givingプロジェクトの魅力を教えてください。
生徒にとっては色んな立場の人の声が聞けたことは、社会を知る大きなきっかけになったと思います。
寄付者、NPOなどの支援者、受益者、そういう立場の異なる人たちの声を実際に聞いた上で、自分自身の経験や価値観と照らし合わせて寄付先を選ぶという意思決定プロセスは、他にはない魅力だと思います。
自分たちが主権者として、社会に関わることの意義を感じることができたのではないかと思います。まさに、民主主義とか、主権者教育ですよね。
また教員・学校にとっては、協会と二人三脚で取り組めたことは大変ありがたかったですし、発信の場が確保されているのも魅力でした。
こういった取り組みをきちんとシェアしていくことも日本全体の教育の質を底上げしていくために大切なことだと考えています。そういった意味で、アウトプットの場が用意されていることも魅力でした。
——今後の展開はどのようにお考えですか?
今回行った授業を学校独自に組み直した「板三版Learning by Giving」を単年度で終わらせず、継続して取り組んでいきたいと考えています。
今年4月に、Learning by Givingを体験した卒業生が後輩にアドバイスしに来てくれたのですが、そうやって年を越えてつなげていき、学校の文化の一つにできたらと考えています。「社会に開かれた教育課程」によって、より良い学校づくりを通して、より良い社会をつくっていくことの実現を目指していきたいです。
また個人的には、「中学生のすごさを社会に広げたい」と考えており、宮沢賢治が「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」と言っていますが、私は「個人が幸福であれば、社会全体が幸福になっていく」と考えています。
そのような社会を中学生を起点に実現したいと思っています。
日本ファンドレイジング協会が手掛ける社会貢献教育「Learning by Giving」プロジェクトに関するお問い合わせはこちら
https://business.form-mailer.jp/fms/5e8509b443609
〈取材・文=鈴井 孝史/写真=竹花 康〉