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学校を競争の場から、共創の楽しさを味わう場へ。子どもの声から生まれ、全校児童・教員・地域を巻き込んだツリーハウスプロジェクト

学校を競争の場から、共創の楽しさを味わう場へ。子どもの声から生まれ、全校児童・教員・地域を巻き込んだツリーハウスプロジェクト

逗子市立池子小学校では、校内の「ガーデン」と呼ばれる庭園にツリーハウスを作るプロジェクトが進行している。この取り組みは、ある児童の「もっといい学校にしたい」という声から誕生し、全校児童・教員・地域の人を巻き込むほどの一大プロジェクトに発展しているという。

なぜここまで多くの人を巻き込むプロジェクトに広がっていったのか。校長の内田源一郎さんと、プロジェクトを中心になって取り組む小林寿夫さんに話を聞いた。

写真:
内田 源一郎(うちだ げんいちろう)さん(写真左)
逗子市立池子小学校 校長

小林 寿夫(こばやし ひさお)さん(写真右)
逗子市立池子小学校 教諭


プロジェクトの始まりは、子どもの一言から

本校は、神奈川県南部の逗子市にある、全校生徒282人の公立小学校です。逗子市では、全市をあげて学校にコミュニティスクールとしての機能を持たせ、地域に開かれた学校づくりに取り組んでいこうとしています。

本校は正門を入ってすぐのところに「ガーデン」と呼ばれている自然豊かな庭のようなスペースがあり、そこは普段、有志の保護者の方が手入れをしてくれています。

また、現在児童の発案からその場所に、全校の子どもと大人、そして地域の方が一丸となって、ツリーハウスを建てる計画が動いています。

児童会(運営委員会)の子が、昨年度末に「池子小学校をもっといい学校にしたいので、意見やアイデアをください」と全校に投げかけました。

「もっといい学校にするには、どんなものが必要だと思いますか?」と意見をもらうための目安箱を設置すると、たくさんの願いが寄せられたんです。さまざまな意見の中に、「皆がもっと楽しめる遊びの場がほしい」「学校にない遊具がほしい」というものが届きました

それを受けて委員会の子どもたちが、具体的にどんな遊具があったらいいと思うかを聞くために、イメージを描けるプリントを作り全校に配布しました。すると、いろいろな意見が届く中で、池子小の土地に合う、自然に溶け込んだ遊具を求めている意見が多く、「遊べるものがたくさんついた大きい遊具がほしい」「皆が遊びたいと思える今までにない大きな遊具がほしい」など、さまざまな意見が届いたのです。

その中でおもしろいなと思ったのが、「木の上に家があって、はしごで登れて、ボルダリングやブランコがあるような大きな遊具」というアイデアでした。

それを聞いたときに、「遊具を作りたい」という子どもたちの願いと、有志の保護者の方が丁寧に整地している自然豊かなガーデンに子どもたちに立ち寄ってほしいという保護者側の願いが、この遊具で一致するのではないかと思いました。

また、保護者の方の中には、得意なことを持っている方がたくさんいます。子どもたちと保護者の皆さんの全力とが、遊具づくりの中で掛け合わされたら皆で楽しいことがてきるかも、と思ったこともプロジェクトを始めたいと思ったきっかけの1つです。

この話を運営委員会のメンバーにしたところ、共感をもらい、プロジェクトが本格的に始まりました。

目安箱を設置したのは、2024年3月ごろです。「遊具を作りたい」という子どもたちの声は、私が校内で担当する図工科で預かることにしました。

そして5月頃、以前、東京学芸大学で開催された「学びのシンポジウム」でつながった元建築学部の方と、図工の授業を共に創り、実践するために本校に来ていただきました。その授業後に、「ここの緑豊かな場所にツリーハウスを建てたいと思ってるんですよ」と、唐突にお話をしました。

すると、次の授業日に、なんと子どもが考えた遊具のアイデアを模型にしてきてくれたのです。

それを見て、子どもも私も大喜びしたことを鮮明に覚えています。ですが、建築には資金も必要でどうしようかと躊躇していたところ、内田校長が「クラウドファンディングでお金を集めたらどう?」と声を掛けてくれました。

そこからというもの、有志の保護者と毎日のようにミーティングを重ね、一緒にクラウドファンディングを立ち上げ、運営委員会の児童には広報担当になってもらい、皆で宣伝を始めました。

プロジェクトの立ち上げは、5・6年生を中心とした運営委員会の児童たちが担いましたが、施工の仕上げは「全校皆で!」ということは計画当初から大事にしたいと思っていました。

現段階(取材当時:2024年9月末)では、主に図工の授業で、3・4年生が木材の裁断、1・2年生は木材の塗装を担当し、5・6年生は組み立てに関わる予定です。また、地域の大人の方には、ツリーハウスの基礎や土台部分を作る役割を担っていただこうと考えています。12月頃に完成し、お披露目の予定です。

この計画は、私から校長に提案させていただき、全教職員とも共通理解を図りました。

小林さんから提案を受けた際に、ツリーハウスが子どもたちの願いを形にするものであり、地域に開かれた学校を目指す上で、地元の人たちが学校に来やすくする仕掛けにもなると感じ、ガーデンやツリーハウスを地域の拠点の一つにしたいと考えました。

これまでも本校では、朝や放課後に地域の方々が学校の敷地に入ってラジオ体操をしたり、 校庭を散歩したりする風景が見られていました。それでもやはり地域の人たちにとって、学校は閉鎖的な場所だと感じます。

そこを「いつ来てもいいんですよ」「学校の中に入って子どもたちと話してください」という場所にしたいなと思っていて。そのきっかけとして、休み時間になれば地域の方がいてそこで自然と交流が生まれるような場としてツリーハウスを作りたい、と先生方には話しました。

なぜそのような学校にしたいかというと、そうした機会が子どもたちの社会性やコミュニケーション能力を育むと考えるからです。年齢や性別などが違う多様な人が学校に集まり、お互いの違いに配慮しながら対話をすることで、子どもたちの思いやりの心であったり、優しさだったりが芽生えたらと思っています。


プロジェクトが目指すのは、共創を楽しめる場づくり

プロジェクトに取り組もうと思った一番のきっかけは、4年前に初めて担任から一度外れて図工の専科教員になり、図工室の掃除などをして1日の大半を過ごしていたとき、部屋を見てハッとしたんです。

図工室の雰囲気が、子どもたちが「図工をやりたい!」と思えるような空間になっていないな、と。図工は子どもたちが自由に想像力を働かせて、心と手を動かしながら活動する学びのはずなのに、教室が無機質に感じて…。

「図工室に来たい、もっと図工をやりたい」と思ってもらえるにはどうしたらいいかと、実際に全国のおもしろい実践を見たり、子どもたちにも意見を聞いたりすると「使える材料がある場所になってほしい」とか「壁に落書きできたらいいな」という声が上がってきたんです。

そこから、図工室の壁を黒板にするために塗装したり、地域の工務店さんやお店の皆さんに工作やものづくりに使えそうな端材や素材をいただいたりして、休み時間に来てくれる数人の子どもたちとどんどんリフォームしていきました。今思うと、これが僕のプロジェクトの始まりです。

僕は学校に圧倒的に足りていないと思うことが、子ども・大人関係なく、夢中になれる「遊び」です。プロジェクトで大切だと思うのは、思いっきり挑戦して遊べて、学校だけで学びを完結しないこと。

教員が教えるだけでなくファシリテートし、専門分野の力を持っている人たちに関わっていただくことです。

私はプロジェクトにおいて、学校が競い合う場ではなく、共創する楽しさを味わえる場にすることを、常に目指すべき「北極星」としています。学校という場から越境し、いろいろな人と共に創る楽しさを求めた結果が、プロジェクトにつながっているのかなと思っています。

今まで担任を行う際も、学年が始まると私は必ず、子どもたちに「できる、できないに関わらず『こんなことをやってみたい!』と思うことを書いてみてね」とアンケートを取るようにしています。

3年前に担任していたクラスで、「見たことのないくらい、大きな絵を描きたい」とアンケートに書いた子がいました。ただの大きな絵ではなく「見たことのないくらい」という言葉に、私の心がとても震えたのを覚えています。

そんなエピソードを保護者の方にもしてみると、実際に見たこともないくらい大きい絵を描いたことがある方と出会う機会をいただき、ポートランド発祥の「シティリペア」という取り組みを知りました。

これは、社会問題をアートの力で解決するというもの。この取り組みを参考に、学校の正門と公道につながる道のアスファルト(5m×10m)に大きな絵を描くプロジェクトを始めることにしました。

当時の本校には、正門付近に違法駐車が非常に多いという課題がありました。正門は、公道から少し奥まっているため、すごく見通しが悪かったんです。正面の道に車が止まっていたことがあったのですが、車の影に子どもが隠れてしまって、何度か事故になりそうな危ない場面もありました。

シティリペアの取り組みの中に、道路に大きな絵を描くことで、絵の上に駐車する人がいなくなった事例があり、絵が注意喚起のきっかけとなって、速度減速につながったりする効果があることも知り、正門前の道に絵を描くチャレンジに取り組むことにしました。

同時に、道路に描く絵は「池子小学校のいいところを見つけよう」というお題をもとに、学校と地域とをつなぐシンボル・ランドマークになればと思いました。子どもたちがFeel度WALK(なんとなく気になるモノやコトを追い求めて歩き、写真に収めてくる活動)で集めてきた素材から、保護者の方のご縁でつながったオランダ在住のデザイナー・嶋野ゴローさんが原画を作ってくれました。

チョークで絵を描く時点から、本当に子どもたちがいい表情をしていて。普段カメラを恥ずかしがるような子が堂々とピースを向けてくれたり、できあがった絵を見て満足そうにしたりする様子を見せてくれました。

私は図工において「場の開放」と「心の解放」という2つの「カイホウ」があるといいなと思っています。こんなに広い場で、思いっきり活動できたことで、私が大事にしている2つの「カイホウ」も達成でき、うれしかったですね。

また、この取り組みをプロジェクトとして取り組めたことの良さは、多様な人・もの・コトに触れ、自分がどう関わるか自己選択・自己判断をし、自らが決めたことを実行できたという点です。ペイントアートの際も、最後にはゆっくり沈む夕日をバックに、学校も地域も企業も垣根なく、談笑しながら色を塗り切りました。

地域のアートフェスティバルへのインスタレーションとしてお披露目を設定し、たくさんの方の目にも触れ、感想をもらうことができました。そんな子どもたちの達成感や満足感を感じている姿を見て、「一緒にやってきてよかった」と心から思いました。

特に活動の中で驚いたことは、ゴローさんが初めて原画を見せてくれたとき普段とんでもなく元気な子たちが「わー」も「きゃー」もなく、息を飲んで一言もしゃべらなかったんです。その姿に、私たち教員もとても感動しました。

道路にペンキで絵を描く前に、チョークで実際にアスファルトに描く体験によって、思いっきり絵を描く楽しさを味わうこともしました。

私たちが楽しそうに描いていると、低学年の子たちが「僕たちも描きたい!」と声を掛けてくれたり、保護者の方や地域の方が様子を見に来てくれたりして、1つのプロジェクトにいろいろな人がどんどん巻き込まれていく感覚がありました。


皆で作っていけば、大きなことが変えられる

プロジェクトは必ずしも「やらなければならないもの」ではなく「やってもやらなくてもいいもの」です。始めるときは、正直、孤独感もあります。

でも全校でツリーハウスプロジェクトに取り組めるようにスキームを構想することで、自分の視野を広げられたようにも思います。これまでは成果物を作ることに主眼がいっていたのですが、現在は完成までのプロセスで、どれだけの人たちと出会い、楽しめるかな?と考えるようになりました。

それにより、肩の力がすごく抜け、よりポジティブな思考に向かえるようにもなりました。いかにプロジェクトの過程で、たくさんの人が笑顔になれるかと考えてみる。そうすることで、皆で一緒に進んでいく楽しさを感じられるようになっていると思います。

実は先ほどお話したシティリペアに取り組んだ子たちが、現在の6年生なんです。そんな子たちが「もっといい学校にしたい」と動いて、ツリーハウスプロジェクトが生まれたのですが、「あの絵を描いたから、学校を変えたいと思えるようになった」と言ってくれたことはとてもうれしかったです。

子どもが「自分たちにも学校・社会のためにできることがある」「自分たちの言葉や行動で、少しでも世の中を変えることができるのかもしれない」と気づくきっかけを作れたことが何より喜ぶべきことだと、今振り返ると感じています。

子どもも先生も1人でできることは限られているけれど、皆で作っていくことで大きな力を生み出し、今よりちょっとでも世の中を良い方に変えられるかもと思っていて。

子ども同士、子どもと先生、子どもと地域の人、各分野のプロフェッショナルという形で、頼れる人が増えたことにより、その人たちと共創で一つのことを生み出せる楽しさを感じられたことは、子どもにとっても、先生にとっても大きな変容かなと思っています。

私自身も変わったと思います。やっぱり学校にいると、子どもも先生も限られた人にしか会わない。でもプロジェクトによって本当にいろいろな人と関わる機会を得られます。そこからの学びは多いと思うんですね。

人がどんどんつながるということは、それだけ世界には思いに共感してくれる人がいるということ。それを小さな地域でも感じ取れる瞬間があることに、うれしさを感じました。

先生にもいろいろな考えの人がいる中で、少しずつこのプロジェクトを自分ごとに捉えて、関わりを持ち始めています。これからツリーハウスの建築に関わっていく先生もいるだろうし、できあがってからそこを活用する先生もいるだろうし、濃淡はあれどどこかで関わっているのが理想かなと。今は周りから静観をしている先生がいるという点も、それはそれでいいのかなと思っています。

ツリーハウスの模型ができたとき職員室で、「先生方はどんなツリーハウスにしたいですか?」と聞いたら、先生たちもワクワクしながら「ハンモックつけてよ」とか「ボルダリングができるようにしてほしい」とたくさん意見を言ってくれたんです。

「じゃあボルダリング担当をお願いします!」とか「あなたはハンモック担当で!」と、冗談を交えながら言ってみたんですね。そうやって意見を言えたことによって、先生方にも当事者意識が生まれたように感じました。

プロジェクトのおもしろさは、一つの中心の渦が始まると、わたあめみたいにどんどんいろいろなものを吸収して、大きくなっていくところだと思います。

このような取り組みをしてはいますが、決して「プロジェクト型学習をやろう」「越境学習を極めたい」と考えているわけではありません。単純に人との出会いが楽しくて、そんな出会いをあえて表現するなら「越境」かなと思っているだけで、プロジェクトをやろうというよりは、おもしろがっていたらいつの間にかプロジェクトになっていた、という方がしっくりきます。

変に無理やり生み出そうとは思っていなくて、何かに夢中に楽しんでいると人をどんどんと巻き込んでいって、渦ができちゃうともう止まらないみたいに生まれるのが、プロジェクトな気がします。

今回のインタビューで「小林さんにとって『プロジェクトとは?』」と問われ、しばらく考えましたが、私にとってプロジェクトとは「夢中になって挑戦する『遊び』」かなと思います。

遊ぶからこそ見えてくる学びを大切に、これからも学校で遊び尽くしたいと思います。

〈取材・文:先生の学校編集部/写真:ご本人提供〉