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保護者と学校の距離を縮めるのに一役買う、噂のアプリ。開かれた学校づくりに、『Hi!(ハイ!)』どうぞ!

保護者と学校の距離を縮めるのに一役買う、噂のアプリ。開かれた学校づくりに、『Hi!(ハイ!)』どうぞ!

近年、ますます重要性を増している、学校と保護者・地域との連携や協働の動き。

地域や保護者に開かれた学校づくりを行うにあたって目指したい理想の形は、学校側も、学校活動に関わる保護者側も、お互いに負担感なく、やらされ感からくる不平・不満なく、快く手をつなげるような協働関係ではないだろうか。

そんな関係構築の選択肢として、テクノロジーの力を借りるのもアリかもしれない。

テクノロジーで社会を楽しく、より良くしたい。そんな思いでアプリ開発会社OpenDNAを経営する安東裕二さんが、自身の子どもが通う小学校のPTAの空気を変えるために開発したのが、グループ運営アプリ「Hi!(ハイ!)」だ。

このアプリが、開かれた学校づくりを目指す学校現場でどのように役立っているのか、話を聞いた。

写真:安東 裕二(あんどう ゆうじ)さん
安東 裕二(あんどう ゆうじ)さん
株式会社OpenDNA代表

ソフトウェア開発会社、コンサルティング会社を経て、テクノロジーで社会を楽しくしたいとの思いから、2007年にアプリを開発する株式会社OpenDNAを創業。
グループ運営アプリ「Hi!(ハイ!)」やディスレクシアの傾向があるかをチェックするアプリ「読めてる?」などを開発。


テクノロジーの力を借りて、前向きな心持ちで参加できるPTAにしたかった


Hi!」は2021年2月にローンチして以降、おかげさまで少しずつ存在を知っていただき、現在導入いただいている学校は50を超えました。もともとは我が子が通う調布市立の小学校PTAに活用いただくために開発したアプリでしたが、PTA改革の文脈でさまざまなメディアで紹介されたこともあり、今では全国各地からたくさんのお問い合わせが来ています。

中には山梨のワイン会からお問い合わせをいただいたことがあったり、最近では大阪府箕面市立西南小学校が新しく取り組み始めた「スクールサポート事業」からもご相談をいただき、アプリの仕様を少しカスタマイズした上で2023年度からご利用いただくなど、用途も広がってきました。


もとを辿れば、コロナがきっかけでした。世界中が大変な中で、国家レベルから民間企業レベルまで、テクノロジーを使って厄災を乗り越えるようなアプリを作る動きが方々で見られましたよね。私自身もテクノロジーの力を使って、身の回りの困りごとや課題を少しでも解消して、社会をより便利に楽しくできたらいいなと思っていました。そんなときに、子どもが通う小学校におけるPTA活動の課題を耳にし、何か役に立てそうだなと感じて作ってみたのが「Hi!」です。


PTA活動には交通安全の旗振りなど、本当にいろいろな役割があります。これは私自身がPTA会員として感じたことですが、役割の中には本当に必要な仕事なのか疑問に感じるものもありました。もちろん自発的にやっている方もいますが、多くの会員さんは義務的に渋々やっている様子でした。

当校のPTA会員は1人につき2つの仕事を受け持つというルールがあったのですが、PTA役員側も、その割り振りや日程調整にものすごく時間がかかり大変だということでした。仕事がないときは、わざわざ仕事を作ることもあったようです。

この他にも、PTAの仕事を極力避けたい人がいる一方でもっとやりたいという人もいたり、子どもが通らないような道の旗振り担当になることがあったりと、そこかしこに無駄を感じました。

こうしたPTAの運営に負のオーラを感じた私は、テクノロジーの力でどうにかできないかと考えたというわけです。だって、もったいないですよね。子どもたちのための活動なのに、保護者からの積極的な協力が得られないというのは。もっと効率化・合理化することで負担を軽くして、やりたい人がやりたいことをやる、自発的に参加できる活動になれば良いのにと思いました。


少し遊び心があって、皆がなるべく楽しい気持ちで参加できるコミュニティになったらいいなと思っていたので、「Hi!」については“やりたくない人の目線”で設計していきました。具体的に置いたポリシーは次の4つです。


操作も至って簡単で、掲げられた募集に対して応募したいと思ったら、画面上にある手のひらのアイコンをポチッとタップするだけで完了します。

また、保護者間の直接やり取りが発生するとなると、それなりに気遣いなど心理的な負担もかかると思ったので、双方向コミュニケーションという要素はカットして、とにかくできることをシンプルにしました。

ちなみにアプリの名称は、やりたい人が、やりたいことだけに自発的に参加するコミュニティになることをイメージして、「はい!」と手を挙げて立候補するような響きからきています。


ペーパーレス化によるコスト削減や、不要な仕事を廃止するなど大幅に効率化が進み、負担が軽減されました。PTAに対する保護者のまなざしも柔らかくなり、雰囲気も良くなったように感じます。

特に、学校行事のお手伝いに来てくださる保護者は、「Hi!」で手を挙げて望んで協力しているので、皆さん笑顔なんですよ。大人が笑顔だと、子どもたちもうれしいし楽しいですよね。朝の旗振りをする人も、にこやかに子どもたちを送り出す風景が見られるようになりました。

もちろん、アプリだけの力で全ての課題が解決したわけではなく、運営側が何度も呼びかけることで埋まっていくような場面もあります。ただ、その場合も以前のような「本当はやりたくないけれど仕方なく…」という姿勢ではなく、「必要なんだ。じゃあやろうかな」と理解を伴う前向きな気持ちで立候補されているんじゃないかと感じます。

PTAというコミュニティへのイメージがポジティブなものに変化する上で、「Hi!」がお役に立っているのかなと思います。


箕面市立西南小学校の「箕面スクールサポーター」の取り組みでフル活用

認知がじわじわと広がっている「Hi!」は、PTA活動での利用以外でも、学校と保護者の協力関係を構築する上で役立っている。

大阪府箕面市立西南小学校においても、2023年度より「Hi!」の導入を開始し、日頃の授業サポートに保護者が入るボランティア活動の円滑な調整に一役買っているという。学校と地域ボランティアをつなぐコーディネーターである河原畑さんと有吉さんに話を聞いた。


河原畑さん:
西南小学校では、2022年度より「西南小スクールサポート(通称:西南スクサポ)」という取り組みをスタートしています。

これは箕面市が進める「学校支援地域ネットワーク事業」の一環で、地域の力を活かして、子どもたちの細かなサポートと、開かれた学校づくりの実現を目指したものです。

具体的にはスクールサポーターとしてボランティア登録された保護者や地域の皆さんに来校していただき、低学年の給食のお手伝いや習字や家庭科の実習のサポート、九九の暗唱テストの聞き役や社会科見学の付き添いといった形で日々の授業に入り、先生をサポートしています。

この取り組みにおいて、スクールサポーターさんを募り、いつの授業に何人入ってほしいといった各種連絡・調整をする上で、「Hi!」を活用しています。


有吉さん:
私はスクールサポーターの皆さんに、いつどの授業に入っていただくかのシフトを組む担当をしているのですが、まだ「Hi!」を導入していなかった頃はこれがなかなか大変で…。

学校からサポートを募集してほしいリストをエクセルファイルでもらい、それをもとに、河原畑さんが一件一件募集の発信をし、応募があれば、私がその方と個別に連絡を取って日時調整して決定する、という作業をしていたんです。多いときは月に何十件レベルのコーディネートをするので、手間も時間もかかり、持続可能なやり方ではないと感じていました。

どうにかうまいやり方がないかと模索していたところ、友人から「Hi!」が紹介されている記事を教えてもらったんです。その記事には、旗振りの課題を解決した事例などが紹介されていて、全然違う地域の保護者も同じような悩みを抱えているんだと知り、とても共感しました。そこで安東さんに問い合わせを入れ、「Hi!」の導入を決めたというわけです。


河原畑さん:
作業量が劇的に減って楽になり、今は快適にボランティア作業ができています。
私は学校から依頼を受けたものをサポーターの皆さんに配信する役目なんですが、毎月1〜2時間かけて作業するような状態だったのが、「Hi!」を使い始めてからは、同じ作業が2〜3分で済むようになりました。


河原畑さん:
はい。これについては、アプリ開発者の安東さんにリクエストを出して、CSVで一括登録の上、配信ができるように仕様をカスタマイズしていただきました。また、学校の先生にも依頼内容をCSVに直接入力していただけるよう協力をお願いしました。先生の負担は増えないように、でも期日は守っていただきながらなど、対等な関係性のもとに運用しています。

有吉さん:
私も同様です。調整などはアプリがやってくれるので、さまざまな保護者と個別にやり取りする必要もなくなりました。双方向のやり取りが敢えてできないようにしているという「Hi!」の特徴が、心地よい使い方を生み出していると感じています。

また、学校側からは、例えば子どもたちにとって初めての習字の授業では、保護者の人手があることで助かっているという先生方からの声が上がっていたり、サポートを受けた子どもたちからは、「たくさん褒めてもらえるのでやる気が出た」「分からないことは先生に質問の順番待ちをしなくてもサポーターさんにすぐ聞けるようになった」など、プラスの影響が出ているようです。

教育委員会による過去のアンケート結果では、スクールサポート導入校において、「褒められ経験」を多く実感する児童が増えたそうです。

普段からいろいろな保護者が学校に出入りして、授業参観とは違う日常の子どもたちの様子や環境を知ることは、学校にとっても保護者にとってもプラスになることがあるんだなと改めて思いました。


学校と保護者・地域を温かくつなぐツールであってほしい


安東さん:
このアプリ自体は、そんなにすごいものではありません。Googleフォームなど他のツールを使えば同じようなことはできます。ただ、それだと少し事務作業的になってしまって味気ないし、楽しくもないですよね。

「Hi!」は、募集中の内容の枠が埋まると「満員御礼」と出るんです。少しあたたかみがある感じがしませんか?自発的に学校に関わる保護者を増やしたいという思いが出発点にあるので、前向きな気持ちで捉えていただけるように、ちょっとした遊び心を感じられるところがいいかなと思っています。

有吉さん:
確かに、「Hi!」の心をくすぐるような今っぽさがあるデザインは、保護者の方々からは好評です。保護者に興味を持っていただくという観点では、今どきのおしゃれ感だったり、かわいい、ワクワク感があると思えるデザイン性にするアプローチも大事だと思っていて、私は「Hi!」を見たときに、これは皆さんに受け入れられそうだと感じました。


安東さん:
今後も、「Hi!」がさまざまな団体で使われて、いろいろな使い方が発明されて、そのアイデアが共有されることで利用が広がっていったらいいなと思っています。また、「Hi!」を媒介にして地域にあるコミュニティ同士がつながれるといいですね。例えば、子どもの卒業に伴って学校のPTAは卒業しても、今度は同じ地域の別のコミュニティに「Hi!」を通して参加するなどの動きを期待しています。地域コミュニティの力はとても大切だと思っているので、そんな地域があればぜひご一緒したいですね。


〈取材・文:先生の学校 編集部/写真:ご本人提供〉