小・中学校の先生が学校を飛び出してみんなで作った新しい学び場!?1,000人以上を動員した「あそぼっけ まなぼっけ」
2023年10月、学校で働く先生が運営の中心となり、岐阜県内で1,000人規模のイベントが開催された。その名も、「あそぼっけ まなぼっけ」。
「ことば」「さんすう」「おしゃれ」などテーマごとに9つのブースに分かれて、子どもと大人が楽しみながら一緒に学ぶことができるイベントだ。
先生たちは、なぜ学外に飛び出して新しい学び場を作ったのか?イベントを通して、伝えたかったこととは?
このイベントを中心になって企画した3人の先生に、話を聞いた。
岐阜市立中学校 教諭
渡邉 和代(わたなべ かずよ)さん【写真左】
加茂郡白川町立中学校 主幹教諭
岡野 咲子(おかの さきこ)さん【写真右】
瑞穂市立小学校 教諭
先生が学校外で作った、遊びながら学べる場
——「あそぼっけ まなぼっけ」は岐阜の方言で、「あそぼうよ」「まなぼうよ」という意味があるそうですが、これはどのようなイベントなのでしょうか?
一言で言えば、「学校の先生たちが言い出しっぺとなり、地域の多様な人たちと混ざり合って『学び』って何だろう?と探究しあったイベント」です。
岐阜の学校で働く有志の先生たちが学校の垣根を越えて集まり、子どもも大人もワクワクしながら学べる場を作りました。子どもたちが何かを体験するというイメージではなく、フェスみたいにみんなでワイワイ楽しむ場を作りたいと思ったところがスタートです。
おっしゃる通り、イベントのタイトルでもある「あそぼっけ まなぼっけ」は、岐阜弁で「遊ぼうよ、学ぼうよ」という意味です。「まなぼっけ あそぼっけ」ではなくて、「あそぼっけ まなぼっけ」という順番であることも大切で、「遊びの中から学びが生まれる」という考え方なんです。
遊びが先。まずは遊びだよね、遊ぶように学ぼうということで、「あそぼっけ まなぼっけ」になりました。みんなが遊びを通して、新しい人や新しいことに出会ったり、新しい自分に出会ったりする「出会いと発見」の場にしたいという思いでこのイベントの企画を進めました。
岐阜県には「自ら学ぶ教職員応援事業」という、県内で働く先生から応募を受け付けて支給される補助金があります。これは、校務外で自己研鑽のために自主的な取り組みを行う先生に対して助成金が下りるというもので、私たちはこの仕組みを使ってイベントを実施しました。
また、今回は地域の企業や団体の方を巻き込んで開催したのですが、その方たちが「子ども夢基金」という補助金を探してきてくれて、それらのお金を組み合わせることで、このイベントを開催することができました。
「楽しい学びの出会いと発見」をテーマに据えて、今回が初めての開催でした。岐阜県各務原市にある「学びの森」という公園を貸し切り、総勢1,000人の方が来場してくれたんですよ。
——1,000人ですか!すごいですね。なぜこのようなイベントを企画しようと思ったのでしょうか?
スウェーデン発の野外教育「野外で算数」という、2〜8歳向けの子どもたちを対象にした、身近なものを起点にして数に親しみ、算数の基礎を理解するという楽しい学び方があることをご存知ですか?このフェスのきっかけとなったものの1つが、「野外で算数」でした。
私はこれに出会って、世界には知らないだけで多様な学び方やコンテンツがあるんだと気づきました。それと同時に、きっと先生たちは楽しい学び方を知ってはいるのだけれど、実践しているという話はあまり耳にしない点に疑問を感じたんです。
どうしたらもっと楽しい学びを先生たちと実践できるだろうか?先生たちが学んでいることが、もっと子どもたちに還元されるだろうか?と考えた結果、「学びのフェスをやろう!」というアイデアが浮かんできました。
音楽フェスみたいに、野外でみんなで集まれるような場を作ったら敷居も低いし、みんな気軽に来られるだろう。場所を広い公園にしたのも、みんなが集まりやすい場所にしたいという理由からでした。
——先生たちが学んでいることを子どもたちに還元するために、学校外でのイベントを企画されたのですね。チラシを見ると、学ぶ場所が9つのブースに分かれていたそうですね。
はい。「ことば」「おしゃれ」「うんどう」「ともだち」「こころ」「おんがく」「しぜん」「さんすう」「アート」という9つのブースを設けていました。
そして各ブースを「〇〇ブラボー」と名づけ、各ブラボーを担当するスタッフがさまざまな学びを実践しました。
例えば「ことばブラボー」では、小学校の先生と高校生ラッパー、地域の大学生が集い、ラップを使った言葉遊びを。「おんがくブラボー」では、地域のミュージシャンがウクレレや手作りの楽器などを持ってきてくれて、集まった人たちで即興音楽会を開催しました。
「さんすうブラボー」では、ロープを使って自然の中から1mピッタリのものを探す「1mをさがせ!」や、大きさや重さといった数の概念に基づいたお題を出し、公園の中にある自然物からお題に合ったものを探す「しぜんの中から見つけ出せ!」といった、自然の中で体を動かしながら学べる場を作りました。
9つのブースに分けるというアイデアは、心理学者のハワード・ガードナーが提唱した「多重知能理論(Multiple Intelligences)」に着想を得ています。
この理論は、人は1つの知能だけを発揮して生きているのではなく、主に8つある全ての知能を働かせて生活しているという考え方です。
オランダのとある小学校の教室では、言葉・音楽・味覚などといったように、部屋ごとに異なる知能が働くような環境が用意されているということを、あるとき知りました。「これだ!」と思い、私たちなりにアレンジをして、9つのブースを作ったというわけです。
多重知能理論では、一つひとつの知能を「〇〇スマート」と表現します。すると「ことばスマート」「おんがくスマート」という言葉になるのだけど、なんだかしっくりこなくて。
いろいろとアイデアを出す中で「ブラボー」に決まったんです。この「ブラボー」という言葉が、実はすごく大事だったと思っています。なぜかと言うと、会話の中で「ブラボー」と自然に発するじゃないですか?
やりとりの中で、自然とポジティブな言葉が散りばめられるってすごくいいなと思って。当日集まってくれていた子どもたちも、「ブラボー!ブラボー!」とずっと言っていて、会場が明るい雰囲気に満たされていたなと思います。
遊びながら学ぶことで、変化するのは大人
——「ブラボー!」があふれる学び場、すごく楽しそうですね。イベントに参加した人の反応はどうでしたか?
イベントが始まってすぐ、4歳ぐらいの女の子が「おしゃれブラボー」に来てくれていました。来たはいいものの最初は何をしていいか分からず、2〜3種類のオリジナルコーディネートを作るのに午前中3時間ほどかかっていたり、困ったことがあっても周りのスタッフに声を掛けられなかったりしていたんです。
そんな子が、午後になると知らない家族連れに向かって「ここではこんな遊びができて、こうやってやると楽しいよ!」と自信満々に伝えてくれていました。自分が経験したことは自信を持って話せるし、自分が経験したことを他の人に伝えられたことは、その子にとってうれしいことだったと思います。
私は「さんすうブラボー」に来てくれた高学年の子のエピソードが印象的ですね。
公園の中にある自然物からお題に合ったものを見つけてくる「しぜんの中から見つけ出せ!」に、弟と一緒に参加してくれていたんですが、最初は全然乗り気じゃなさそうで。そんな中で出されたお題は、「小さい石を見つけ出せ!」。
そうしたらそのお兄ちゃんが、砂よりも小さい石を持ってきたんです、私には見えないくらいの(笑)。そのとき周りにいた子たちはその石を見てみんな「えー」ってびっくりして。そのお兄ちゃんが、帰るときには誰よりも楽しそうだったんです!
教室で一見つまらなさそうにしている子も、本当はスイッチが入ったらこの子のようになるんですよね。その子がスイッチを入れられる環境を用意すればいいだけ。
このイベントで遊ぶ子どもの姿を見て、「こんな姿、これまで見たことなかった!」という大人もいましたね。そういう意味では、イベントに参加した大人にも変化があったんじゃないかなと思います。
——大人の変化ですか?
まずは、スタッフがすごく楽しんでいたよねと、来場者の方に言われました。
私は学生時代の友達をイベントに呼んだのですが、「このイベントでスタッフをしている先生の表情が、普段自分の子どもを通して見ている学校の先生とすごく違った」と言うんです。「あそぼっけ まなぼっけ」では、子どもたちが遊ぶ姿を信じて任せることを、スタッフの間で共通認識として共有してきました。
そうしたらその友達が続けて「先生たちも本当はこのイベントでやっているみたいに、子どもたちを認めたいんじゃないか、先生たちだって学びを楽しみたいんじゃないかと思った。先生たちも本当は楽しいことが大好きなんだと気づいた」と言ってくれました。
実は、私も今回の企画をしたことによる学びがすごくありました。
今回参加してくれたスタッフは総勢60人で、すごくいろいろなタイプの人がいたんです。それぞれのブラボーには、やりたいことを持った人たちが集まってくれたこともあって、「子どもを信じて任せる」という考え方と、「大人がやらせたい遊びを提供したい」という考えで対立することもありました。
でもそれを「趣旨とは違うからやらなくていいよ」と言うのではなく、その人たちの願いも聞きつつ、私たちが大事にしたいことを伝えてすり合わせることに一番時間を使いました。その時間にとても学びが詰まっていて、違う価値観を持っている人同士の、同じ部分を見つけることがすごく大事でおもしろいと思ったんです。
「信じて委ねる」をたくさんの大人と一緒に感じたい
——「あそぼっけ まなぼっけ」は子どものためのイベントというだけでなく、むしろ大人のためのイベントのようにも感じました。
そうですね。イベントの約束だった「子どもを信じて任せる」ということを、遊びの中から大人が学ぶ場でもあったと思います。これまできっと、子どもに何かしてあげなければならないと思っていた人が、信じて任せるという考え方に触れたことで、「こんな風でもいいんだ」と感じられたと思うんです。
イベントの中でもそのような気づきがたくさん生まれていて、大人が信じて任せる感覚に気づいたとき、子どもたちが伸び伸びと遊ぶようになったと感じた参加者もいるほどです。
信じて任せたら、子どもたちはよく考えるようになる。そうやって遊ぶ遊びは、絶対に楽しいはずです。それを体験するのが、このイベントのミッションだったとすごく思います。
子どものためでも、大人のためでもあるイベント。答えは定まっていないのが「あそぼっけ まなぼっけ」なんです。
ある先生が「今日見た子どもの姿は、いつも教室で見る姿と全然違いました!」とお話されていて。これってつまり、「あそぼっけ まなぼっけ」で取り組んだことを、教室の中でもできるようにすれば、子どもたちの学びがもっと豊かになって、幸せが広がっていくということだと思うんです。
例えば「さんすうブラボー」のような「野外で算数」の実践を、指導要領などと結びつけて、算数の授業での活用事例をまとめたりとか。
「ことばブラボー」のラップ遊びだったら、国語のこんな場面で使えそうという感じで、本のような形でまとめて、学校現場で使ってもらえるような形にして届けたいというのは、今後取り組んでみたいことの1つですね。
——「あそぼっけ まなぼっけ」で実践したユニークな学びや、ここで感じた「信じて任せる」感覚を、学校現場でも生かせる先生を増やしていきたいですね。
今回、職場の同僚に当日のスタッフをやってもらったのですが、「始まる前は不安で仕方なかったけど、すごく楽しかったし、子どもたちを信じて任せることが楽しいって分かりました!また来年も参加したいです」と言ってくれました。
学校外で「信じて任せる」感覚を実際に一緒に体験できて、とてもうれしかったですね。同僚が参加してくれたことで、学校内に「信じて任せる」ことを伝えられる人が増えたので、学校にこの考え方をさらに広げていきたいと思います。
私はイベントを通して先生たちの力をすごく感じました。当日運営に関わっていた先生たちをよく見ていると、子どもと学び、子どもと子ども、子どもと大人をつなげる役目を自然と担ってくれていたんです。
普段から先生は関係性をつなぐことはやっているから、まずは先生たちにその力があることを自覚してほしい。そしてその力を学校内だけにとどめずに、学校外で役立ててほしいなと思っています。
実は私、産休を7年半取った経験があるんです。その間に、子育てのためのサークルをやったり、イベントをやったり、社会とつながる時間を過ごしました。産休が終わった後は、一度退職して非常勤として働きながら、ガーナに住んだ経験を生かしてガーナカレー屋さんをやった経験もあって(笑)。
先生が学校外に出ることで、新しいつながりが生まれたり、新しい考え方が入ってきます。そういうことを、これからも多くの先生と一緒に体験したいです。
〈取材・文:先生の学校 編集部/写真:岩田 龍明〉