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校内研修を牽引するミドルリーダーに、駆け出しリーダーたちが取材!学校における良いチームとは?ミドルリーダーのあり方とは?

校内研修を牽引するミドルリーダーに、駆け出しリーダーたちが取材!学校における良いチームとは?ミドルリーダーのあり方とは?

私たちは、経験年数が5年以上10年未満の現役教員2人と大学院生というチームです。私たち3人が共通して持っているのが「良いチームを作るには?学校の中で必要なリーダーシップとは?」という課題意識です。

昨今、学校現場では経験年数の長さに関わらず学年主任を任されるなど、20代の教員にもミドルリーダーの役割を任されることが多くなっています。

リーダーとしての振る舞いに不安や悩みを抱えながら、それぞれの現場で奮闘してきた私たち。今回はその答えを探るべく、校内研修のあり方を捉え直し「心理的安全性」をテーマに研修を進める中心人物として活躍する、公立中学校教諭の久保田倫代さんに話を聞きました。

写真:久保田 倫代(くぼた みちよ)さん
久保田 倫代(くぼた みちよ)さん
名古屋市公立中学校教諭

塾講師を経て、2007年度より名古屋市の公立中学校で社会科教諭として勤務。出産を機に、子どもの幸せを考えるポジティブ心理学・脳科学・マインドフルネス・システム思考・心理的安全性など多岐にわたる興味・関心をベースに、授業・学級運営を実践している。当時の校長が提案したグランドデザインに共感し、校内研修担当に立候補、現場の先生たちと協働しながらアクティブな現職教育を行っている。


「心理的安全性」を先生たちの共通言語に


——久保田さんは、「心理的安全性」をテーマにした校内研修に取り組まれているそうですね。具体的にどのような研修なのか教えていただけますか?


「心理的安全」を中心に据えた校内研修は2022年4月から始まりました。最初は「心理的安全性」という言葉を先生たちの共通言語にするところから取り組みました。

私が初めて担当した研修は、脳科学の視点から心理的安全性を捉え、心理的安全性の対極にある「心理的危機」の状態を考えるワークです。人間は危険な状態にさらされると「闘争・逃走反応」が起こります。

すると思考がストップしてしまい、冷静な判断やチャレンジができなくなります。このことを説明した上で、先生自身の普段の生徒との関わり方について振り返り、「心理的危機」状態を誘発している関わり方をシェアするワークを行いました。

講師の先生が一方的に話すことが多かった校内研修を、対話形式に変えて、先生の間にも心理的安全性が生まれるように取り組みました。


——なるほど。なぜそのような研修に取り組もうと思われたのでしょうか?


最初は校長先生の提案がきっかけでした。これまで研修は例年、前年度の内容を踏襲し、すでにやることが決まっているというイメージでした。

しかし、校長先生から次年度のグランドデザインの柱としたい候補として「主体的な学びを実現すること」「子どもが自己決定すること」、そして「心理的安全性の高い場を作ること」の3つを提案されました。校長先生の中に、トップダウンで決めるよりも、先生たちと一緒にグランドデザインを考え、それに向けて研修したいという思いがあったようです。

その後、先生たちで話し合い、ベースとなる柱が「心理的安全性の構築」に決定しました。決まってすぐに「これはチャレンジしたい!」と研修担当になることを校長先生に申し出ました。

今振り返ると正直、異動して1年目の私にとっては思い切った挑戦だったと思います。それまでに学んできた「心理的安全性」の学びがこの校長先生の下だったら生かせると思ったことが一番の理由でしたね。

これは後で聞いた話ですが、校長先生は脳科学にも興味をお持ちで、先進的なことに挑戦していきたい、という私の思いを日頃の授業や学級経営などから感じとってくださり、リーダーを任せてくれたようです。


そうですね。「脳科学」や「ウェルビーイング」、「システム思考」など、興味を持って学んできたことが全てつながっているように感じます。

特に知識だけでなく、あり方として私自身が大きく変わったのが「システム思考」の講座です。「問題が起こったときに人のせいにするのではなく、そのシステム・構造に目を向ける」という考え方に共感し、その実践コミュニティにも参加していました。

そのコミュニティで「あなたはどんなチャレンジをしますか?」と問われたことも、研修担当に挑戦した1つのきっかけだったことを思い出しました。


——チャレンジの背景がよく分かりました。これまでとは大きく異なる研修をスタートするということで、実施までの準備期間はどのようなことを考えていましたか?


やりたいことができるワクワク感もありましたが、正直不安の方が大きかったです。教職員の数も60人を超える大きな学校ですし、まだ赴任して1年目でしっかり話したことのない先生もたくさんいました。

しかも、話し合いによって決まったとはいえ「心理的安全性」というテーマに対して、「何それ?」という方もいました言葉の持つイメージから「私たちが心理的に安全な場を作ってないってこと?」と、テーマへの抵抗感をもっている方もいました。

そのような中で研修をやることに不安だけでなく怖さもありました。だからこそまずは「心理的安全性」が先生たちの共通言語になるよう、言語の共通理解をするところから始めたいと思ったのです。

また知識として理解するだけでなく心理的に安全な状態の場づくりを先生たち自身が体験することも大切にしたいと思い、対話形式の研修を企画しました。


正解より、納得解を。


——心理的安全性」に関する研修を始めた当初、先生たちの反応はどうでしたか?


この研修が始まって一番最初に取り組んだワークが、心理的危機状態についてを考えるというものでした。ワークの中で先生方は「突然子どもを指名する」とか「常に怖い雰囲気を持って子どもと接する」という意見を出してくれました。

その一方で、「一昔前は、今出てきているような関わり方や声掛けが多かったよね」という声もあり、これまで親しんでこなかった新しい概念や考え方を取り入れることに、戸惑いを感じている先生も少なからずいたと思います。

実際に、心理的安全性について学んで実践しようとしてみても、いつの間にか元の関わり方に戻ってしまうという先生もいました。「具体的にどのように行動したら良いのかが、研修で見えてこなかった」とか「どのような行動をとるのが正解か知りたい」という声もあり、先生方が研修の場に正解を求めて参加していることも分かってきました。


——新しい考え方に、戸惑う気持ちもすごく分かります。戸惑ったり正解を求める先生たちと、久保田さんはどのように関わってこられたのでしょうか?


正直「心理的安全性をどう作るか?」という方法に、正解はないと思うのです。だから正解というより、納得解を出すことが大事だと思っていると日々伝えていて。


先生たちと対話をして、皆が納得できる答えを考えていきたいし、納得解を出すために試行錯誤するそのプロセスが大切だと思うんですよね。

正解かどうかは分からないけれどもやってみる。それをやってみて、違ったら何が違ったのかを考えて修正していく。そういうチームにしていきたいと思って、先生方と関わっています。


——先生方のチームの変化を感じた瞬間はありますか?


チームの小さな変化としては、職員室内で「これは心理的安全性をおびやかしているよね」「心理的危機だよね」という、先生たちの会話が聞こえてきたときに感じました。「心理的安全性」という言葉が、職員の間での共通言語となり、仲間が増えたような気がして、うれしかったですね。

私は研修とは別に、生徒と幸せについて探究する放課後活動「ウェルビーイングサークル(WBC)」を校内で立ち上げています。立ち上げたときに、活動の目的に共感した1人の先生がすぐに、「一緒にやらせてくれませんか?」と声をかけてくれました。

彼女と二人三脚で活動を進めました。それを見ていた別の先生が、「僕も参加してもいいですか」と話しかけてくれました。3人の先生と、有志の子どもたちと一緒に歩んだ半年間でした。WBCの活動に共感して仲間になってくれた先生たちの存在は、心強かったですし、何よりすごく嬉しかったです。


リーダーの合言葉は、「怖いはGO!」


——共通言語、共感して仲間になる。いいチームを作るためのヒントをいただけたように感じています。久保田さんはさまざまなことに率先して取り組まれていますが、リーダーとしてどのようなあり方を大切にしているのでしょうか?


私が大切にしているあり方は、これかなと思ったらまずは私がやってみること、変わり続けること、挑戦し続けることです。

そう考えるようになった大きなきっかけは、出産でした。私が産休と育休を終えて、先生と親の2つの立場を背負って学校に戻ってきたとき、改めて「私がどのような姿でありたいのか?」ということを考えるようになりました。

たくさん考えた結果、「私は自分が変化したり、挑戦したりすることを通して、背中を見せていきたい」と思ったんです。


——そうだったのですね。学校には、自分とは異なる考え方や意見を持つ人たちもいると思うのですが、そういう人たちとはどのように関わっていますか?


私はそういう先生たちと話すとき、対立することを恐れずに、思い切って私から話しかけに行くようにしています。

じっくり何度か話し合いを重ねる中で気づいたことがあります。それは、一見、考え方や手段が違う先生だったとしても、目指したい・創り出したい世界に大きな差はないのかもしれないということです。これが、私に対話の重要性に気づかせてくれた出来事です。

以前の私は、考えが対立する状況に対して「違うから仕方がない」と諦め、異なる考えを持つ人との間に、無意識に壁を築いていたと思います。でもそれだと私自身が分断や対立を作り出しているということに気がついて…。

自分が変わることでしか世界は変わっていかないという視点に立ったときに、橋を架けにいこう!自分が分断や対立を作り出すのはやめよう!と思いました。


——久保田さんはリーダーとして、対話をすごく大切にされていると感じました。


すごく大事にしています。私たちは同じ学校にいながら、案外お互いのことをよく知らないと思うのです。対話の時間を意図的に設定することで、それぞれの先生の好きなこと・得意なこと・嫌いなこと・苦手なことを知ることができます。

お互いの強みをもっと生かすためには、お互いのことをもっと知る必要があるし、対話を通して自分自身の強みや弱みを相手に知ってもらう必要があると思います。たとえ時間がかかっても、それぞれの先生が大切にしている価値観を知るための対話の時間を、とても大事にしています。


——久保田さんが対話を大切にされている理由がよく分かりました!私たちもこれから学校現場でリーダーになっていきますし、読者の方には現在リーダーとして奮闘されている方もたくさんいらっしゃいます。最後に、私たちや読者の方にメッセージをお願いします。


合言葉は「怖いはGO!」です。失敗するのが怖くて迷っていたとしたら、行動することをオススメします。

「大丈夫!やってみようよ!転んだとしても、また起き上がればいいんだから。やってみたい気持ちを大事に行動しよう!」と伝えたいですね。

私自身、校長先生から常々、「走りながら考えればいい。100%完璧じゃなくていい。やってみればいいよ!」と声をかけてもらっていました。この言葉に、いつも私は勇気づけられてきましたし、今も私の支えとなる言葉です。そんな言葉のバトンを手渡したいです。

こんな私も、つい最近まで、挑戦の先は成功か失敗かの二者択一だという考え方をしていました。心理学や脳科学を学び、成功も失敗も同じ一本道にあるということ、やりたい気持ちから起こす行動は、高いモチベーションを持続させるということを知り、「やってみたい」を大切にできるようになりました。

また、やりたいことに挑戦することは、自分を大事にすることと同義だと思います。だからこそ、「挑戦したい」という気持ちを大事にしていただきたいです。自分を大事にできてこそ、相手を大事にできます。ご自身の気持ちをまずは大事にしましょう!

チャレンジしようと考えて周りを見渡すと、絶対に皆さんの仲間が見つかります。転んだら手を差し伸べてくれる人が、必ず1人はいます。「チャレンジ=怖い」と感じたときこそ、立ち止まらずに「怖いはGO!」とにかくやってみましょう!

一緒に研修を作った先生から見た、久保田さんのリーダーとしてのあり方



2021年度の2学期末に新たに学校のグランドデザインを策定する際、何を教育活動のベースにするか職員会で提案し、話し合いをしてもらいました。その結果、心理的安全性をベースにすると決まり、グランドデザインを達成するための脳科学を学ぶ研修を設計していました。

そこに久保田さんが「心理的安全性に関する研修なら、役に立てるかもしれません!やりたいです!」と、リーダーを志願してくれました。授業でも学校づくりでもどんどん新しいことに挑戦する彼女ならやってくれるだろうと、任せることにしました。

久保田さんは「皆さん、これが心理的安全性です」と言葉や考えをただ伝えるだけではなく、「こんなことをやると子どもたちはこうなりますよ」と、自ら実践した具体例で示しながら職員に伝えてくれました。

子どもたちを前に新しい挑戦をするとき、子どもたちがすごく彼女を信頼して一緒に活動する姿がとても印象的で、子どもたちが楽しんで活動する姿を見て、他の先生も「なるほど」と、その挑戦の良さを少しずつ理解することにつながっていました。

これからも学び続けて、校内で新たなことに挑戦する仲間の輪をどんどん広げていく存在であってほしいと思っています。

前校長・大矢忠史(おおやただし)


<取材・文:チーム良いチーム/写真:先生の学校>