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他人と比べず、自分らしいチャレンジを。定年間近のICT主任が語る、どんな挑戦も気楽に楽しむコツとは?

他人と比べず、自分らしいチャレンジを。定年間近のICT主任が語る、どんな挑戦も気楽に楽しむコツとは?

2023年春に退職を迎えた、元秋田県公立小学校教諭の佐藤 博美さんは、常にワクワクのアンテナを立て、新しい挑戦を続けてきた。

GIGAスクール構想により小学校にも一人一台端末が整備されてからは、ICTを積極的に活用。その熱心さは、ICTを真似て、自身のことをOBT(おばちゃんティーチャー)と命名するほど。

長年教員を続けてきてもなお、教育への愛を持ち続け、常に新しいことにチャレンジし続けられる秘訣ついて話を聞いた。

写真:佐藤 博美(さとう ひろみ)さん
佐藤 博美(さとう ひろみ)さん
元秋田県公立小学校 教諭

これまで小学校に32年間、中学校に5年間勤務し、2023年春に退職を迎えた。その後の活動の拠点とする空き家探しに夢中で、ステキな家を見つけては、妄想をどんどん膨らませている。どこかのだれかがしているステキなことを、どこでも誰でも活用できるようにつなげていきたいと思っている。これまでの教員経験を生かして、子ども・保護者・教員が、楽しさ・悩み・さまざまな情報を共有できる居場所づくりをしたいと思い、今年早々のよき日に勢いで起業。これまで全く経験していないこと(事業や空き家のDIYなど)にも興味津々。楽しいことしかしていないから、毎日が幸せ。家族は、私の勢いに巻き込まれたり、傍観したりしている夫と息子が一人ずつ。


自分と他人を比べない


——佐藤さんは小学校に一人一台端末が導入されて以来、子どもたちと一緒にICTをとても楽しんで活用されているそうですね。

はい。端末が学校に届いて以来、私はとにかくICTを使った授業にたくさん挑戦してきました。GIGAスクール構想が前倒しになったときは、「やった!私が定年する前に届く!また新しいチャレンジができる」とワクワクしたのを覚えています。

コロナ禍にあって、さまざまな制限がされましたが、オンラインの勉強会に参加できたことは、地方に住む私にとっては大きなチャンスでした。自宅に居ながらにして、多くの情報を得られ、多くの方とつながることができたのですから。その中でコロナ禍でも楽しめる授業のネタや、ICTの活用方法を探してきました。

元気いっぱいの小学4年生と共に、定年を迎えた佐藤さん


今年度も学習発表会で、完全オリジナルの劇を披露しました。担任をしている小学4年生の子どもたちとドキュメントの共同編集機能を使って、脚本を一緒に練り上げました。子どもたちの年齢と端末活用のスキルが上がったことで、私にとっての初めての試みが大成功。

また、私はCanvaというデザインツールが大好きで、スライドショー作りも子どもたちと一緒に楽しんでいます。最近は国語の「身近な文字を探そう」という単元で、Canvaにあるさまざまなフォントに触れながらスライドショーを作りました。

お題にしたのは、2022年の今年の漢字「戦」。戦争というネガティブな出来事が世間を賑わせたことにより、今年の漢字が決まりましたが、授業では「戦」を使ったポジティブな言葉を集めることに。

子どもから上がってきた「挑戦」「雪合戦」「決勝戦」「接戦」などの単語を、Canvaにあるさまざまなフォントや素材を使ってデザインに表しました。


——すごく楽しそうですね!


楽しかったですよ。デザインするだけにとどまらず、子どもたちの作品を集めてスライドショーにし、そこにBGMをつけたんです。するとたちまち、デジタルサイネージのような作品に変わりました。

さらに今度は、自分たちの作品を他学年の子にも見てもらいたいということで、廊下にモニターを設置し作品を放映することに。

すると、放映された作品を見た5・6年生の子どもたちが「これ、4年生が作ったの?すごいね」と言ってくれて、子どもたちはとても喜んでいました。でも、なんだかんだその作品を一番よく見ていたのは、本人たちでしたけどね(笑)。

電子黒板を活用して、全校中にメッセージを届け始めた子どもたち


その後も、子どもたちとさまざまなお題で、Canvaを使ってスライドショー作りに挑戦。最初モニターで作品を流したときは、自分たちの作品をお披露目する意味合いが強かったのですが、次第に全校に「あいさつをしよう!」と呼びかけるような作品も作るようになりました。

このような活動は、決してやらなければならないものではないのですが、ついつい私はやりたくなっちゃうんです。子どもたちの満足そうな表情が見たくて。だから毎日があっという間に過ぎて、気がついたら今年で退職という感じです。


——新しいものを取り入れるとき、抵抗感はありませんでしたか?


新しいものは、私の「ワクワクのアンテナ」に引っかかりやすいのでしょうね。慎重派の皆さんは、新しいことに出会うと、「新しいことだから、できないのではないか」と心配する気持ちが湧いてくることもあると思います。

私も、たまにそういうときがあります。そんなとき私は、「誰もやったことがないということは、誰とも比べられることがないということだ」と思うようにしています。そうすると、気楽にチャレンジができるんです。

子どもたちは、兄弟や姉妹で比べられたりとか、近所の友だちと比べられたりすることってすごく嫌がるじゃないですか。大人だってそうです。それなのに、自分で他人と比べてしまうことで、新しいチャレンジに踏み出せなくなる。私は、自分と他人を比べないようにしているから、チャレンジし続けられるのかもしれません。

何かをゼロから作るには、手間がかかります。でも、協力してくれる人を募って、新しいつながりができるなど、得られる喜びの方が大きいと思います。


どうせやるなら楽しんで


——自分と他人を比較せず、等身大でチャレンジを続けているのですね。


そうですね。それから、どんなことをやるにしても「どうせやるなら楽しんで」という考えも大事にしています。誰かが楽しんでいる様子って、周りの人に波紋みたいに広がっていくじゃないですか。

だから、私がまず楽しんで、子どもや保護者、同僚や関わってくれる方々にも楽しいと思ってもらえるようにする。常に「皆が楽しむためには、どうしたらいいか」という視点を忘れないこと。そうやって仲間の輪を広げていき、たくさんの人に協力していただいています。

私の場合、ふとした瞬間に思い浮かぶ小さなアイデアから、チャレンジが始まることが多いです。思いつきから始まるので、「こんなことをやってみたい!」という私の「わがまま」でもあるんですよね(笑)。

でもどんなわがままでも、自分の考えをしっかり伝えていきさえすれば、受け入れていただけるんです。何かを一緒に作っていくためには対話が大切だと気づいてから、小さな雑談も大事にするようにしています。雑談レベルのやりとりの中から本音が出てくることもありますしね。

カヌー体験の様子。
保護者に撮影を依頼し、写真はGoogleドライブで共有した


——「どうせやるなら楽しんで」、素敵な言葉ですね。いつもワクワクしている佐藤さんのアイデアなら一緒にやってみたくなります。


周りの人を巻き込んだ例はいろいろあるのですが、ICT主任として全校の生徒に端末を自宅へ持ち帰って活用する提案は、これまでで一番たくさんの人を巻き込んだことだと思っています。

当時も現在も秋田県は、端末を自宅に持ち帰る学校は少数派。きっと保護者の中には、子どもが高価な機械を持ち歩くことや、家での活用ルールなどに対して、心配がたくさんあったと思います。

その心配を取り除くために、ICT通信「GIGA NEWS」を発行して、保護者の方に端末配付の経緯や、私の思いを伝えるようにしました。

そして、発達段階を考慮して、複数回の家での活用を実施しました。子どもたちと保護者との共通理解ができたので、端末活用でのトラブルはほとんどなく、積極的な活用につながりました。そうしてきたことで、学級閉鎖になったときもオンライン授業へスムーズに移行できました。

学級閉鎖になったとき、子どもたちと私が相変わらず楽しく授業をしているのを見て、「オンライン授業って、毎日が授業参観みたいですね!」「端末を使いこなしていて、驚きました!」などとメッセージをくれた保護者の方がいました。

子どもたちと私だけでなく、保護者の方も、オンライン授業を楽しんでくれていると感じました。


——新しいことにワクワクして挑戦する佐藤さんの姿が、周囲の人に伝わっているのですね。


そうだとうれしいです。実は私、2019年度に担任した1年生を、これまで4年間持ち上がらせてもらうことができたんです。本当に幸せです。子どもたちや保護者の皆さんもそう思ってくれているとうれしいです。

この子どもたちと、最後の最後までチャレンジしたいという思いがあり、2020年度から参加している「海洋教育パイオニアスクールプログラム」という取り組みで、秋田県の海について研究した成果を全国に向けて、先日オンラインで発表しました。

Canvaでスライドを作り、ドキュメントで発表原稿を作成し…と相変わらず子どもたちと楽しく取り組みました。また、ウガンダ在住の知り合いとのオンライン授業も行いました。全国デビューも海外デビューも果たしてしまいました(笑)。

どんな取り組みも、中途半端で終わらせることなくやり切ってみると、大変だった気持ちは薄れ、楽しい思い出に変わります。達成感を味わうことで、また次もチャレンジしてみようという気持ちも湧いてくる。大人も子どもも一緒ですね。

今現場で奮闘する皆さんには、自分と他人を比べず、あなたらしく教員生活を楽しんでほしいと思います。

自身のことをOBT(おばちゃんティーチャー)と
名づけてしまうほど、ユニークな佐藤さん


私が自分のことを、ICTをちょっと真似てOBT(おばちゃんティーチャー)と名づけたところ、子どもたちからもそう呼ばれることがあります。

間もなく定年を迎え、OBTから「T」の肩書きがなくなり、位置が変わってTOB(ただのおばちゃん)になりますが、これからも先生として活躍する皆さんを応援しています。ぜひ、たくさんのチャレンジを楽しんでくださいね。