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今こそ、子どもに対する見方を変えるとき。イエナプラン教育を参考に始めた「異年齢の学び合い」で起きた変化とは?

今こそ、子どもに対する見方を変えるとき。イエナプラン教育を参考に始めた「異年齢の学び合い」で起きた変化とは?

ドイツで始まりオランダで広がった、一人ひとりを尊重しながら自律と共生を学ぶ「イエナプラン教育」をご存知だろうか。日本でも公立・私立問わずイエナプランスクールが開校し、注目を集めている。

また、イエナプランのコンセプトを実践している学校現場も増えており、岐阜市立則武小学校もその一つだ。月に1回、異年齢学級を編成し、まる1日をかけて学習、遊び、給食等を行う「なかジャンスクール」を2021年7月にスタートさせた。

この実践の考案者である校長の松岡猛さんに、なぜイエナプランのコンセプトを学校に取り入れようと考えたのか、詳しく話を聞いた。

写真:松岡 猛(まつおか たけし)さん
松岡 猛(まつおか たけし)さん
岐阜市立則武小学校 校長(取材当時)

岐阜県生まれ。小学5年生時の担任の人間性に憧れ、教員の道を志す。平成2年度より小学校と中学校の教諭、中学校と高校の教頭、教育委員会では幼児教育から生涯学習まで担当する。2020年度より則武小学校長に就任。新型コロナ臨時休校時に、イエナプラン教育と出会う。学校教育目標を「自律・共生・創造」と再設定し、自由進度学習や異年齢学級の学び等、イエナプランのエッセンスを取り入れた学校改革にチャレンジしている。好きなことは、スポーツ観戦や高校の同級生とサッカーをすること。


異年齢で過ごす月に1回の「なかジャンスクール」


——イエナプランのコンセプトをベースに、月に1回、異年齢学級で過ごす「なかジャンスクール」を行っていらっしゃるとのことですが、具体的に「なかジャンスクール」とは、どのような取り組みでしょうか?

まず、なかジャンスクールの「なかジャン」は、「なかよしジャングル(縦割り遊び)」の略語になります。月に1回、学習、遊び、対話等を、小学1〜3年生、4〜6年生の異年齢学級で行っています。

なぜそういった学級構成にするかというと、大きな目的は「みんな違って、みんないい」ということを子どもたちに体感してもらいたいから。

1-3年生が円になって対話する様子


「違いはあって当たり前」であることや「違いがあるから、協働することが必然」であることを学んでほしいと思います。

そして、違いを受容しながら、その中でみんなで幸せを作っていく感覚を味わってほしい。また、何よりもこの生活の心地よさを感じてほしいと思っています。



——とても素敵な取り組みですね。イエナプランのコンセプトを参考にして始められたのですね。


そうです。イエナプランの学びの特徴として、異年齢集団でのグループ編成や、4つの基本活動に基づいた時間割があります。その4つというのが、「対話(サークル対話)」「遊び」「仕事」「催し」です。

この4つの基本活動を、なかジャンスクールでも取り入れ、「遊び」は体育の授業、「対話」は国語の授業、「仕事」は算数の授業に位置付けて実施しています。

サークル対話では、日頃子どもたちが感じている素朴な疑問、例えば「友達ってたくさんいた方がいいの?」とか「お小遣いって、どう使う?」といったテーマで、15分ほどでそれぞれが好きなように対話していきます。

ただし、人の意見については批判をしない。それを約束ごとにしています。

お話を聞いた校長の松岡猛さん


——子どもたちの反応や様子はいかがですか?


この取り組みを始めた当初は、緊張する様子が見られましたが、対話を繰り返すうちに徐々に心を開いているようでした。3学年のコミュニケーションがうまくとれていくと、どんどん子どもたちは楽しくなっていきます。

これは大人社会の構造と同じだと思うと同時に、幼児期から児童期にこそ、異年齢とのコミュニケーション力を身につけておく必要があることを実感しました。特になかジャンスクールでは、3年生と6年生が各グループの最高学年になるわけですが、同じ学年や学級の中ではおとなしい子も、異年齢の集団の中ではリーダーシップを発揮したり、下級生に優しく声をかけるなど思いやる姿が見られるようになります。

それを見て驚いているのは、誰よりも先生たち。「〇〇さんがリーダーシップを発揮していたよ」「思いやりのある姿を見せてくれたよ」など、子どもの新しい一面について職員室でうれしそうに共有してくれるんです。

4〜6年生の対話の様子


このような発見を繰り返すことで、先生たちの中にある「教えないと子どもは育たない」という固定観念が溶けて、「子ども同士で学び合える、子ども同士で成長し合える」「子どもたちの力って、すごい」ということを実感を伴って分かってくるんです。

だからこの取り組みは、先生たちにとって良いOJT(On the Job Training)の場になっているように思います。


学びがピタッと止まってしまったコロナ禍での問題意識


——そもそもイエナプランを学校現場に取り入れようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?


本校がイエナプランのコンセプトをベースにした学校改革を行うに至った背景には、私が指導主事時代に、幼児教育について学んだことが大きく影響しています。

幼児の遊びは、まさに探究的な学びの連続です。遊びの中で学んでいく幼児の姿を見る一方で、この後に入学する小学校では画一的な学びが展開されている現状を少し残念に感じることがありました。

小学生も、もっと遊びの中での学びを続けてほしいという思いが湧いてきたんですよね。


そのような中で私が則武小に赴任したのは2020年4月なのですが、着任してすぐに新型コロナウイルスの感染拡大による臨時休校に直面しました。これまで何十年も「子どもたちが自ら学ぶ力を育てる」というテーマで授業研究してきたにも関わらず、臨時休校に入ったら子どもの学びがピタッと止まる。

「今までやってきた学校教育はなんだったんだ…」と思いました。どこにパイプの詰まりがあったのかを考えてみると、授業の仕組みも含めた学校の仕組みに問題があるのではないかと思うようになりました。


——これまでに経験したことがなかったような有事に直面し、学校の存在意義や学びの本質を問い直したときに出会ったのが、イエナプランだったということですね。


そうですね。そんな問題意識から何かできることはないかといろいろリサーチする中で、イエナプランやドルトンプランを基にした「学び合い」や「学びの共同体」の実践に目が留まりました。

気になって学びを深めていく中で、これは素晴らしいと。それからしばらくして、中央教育審議会の答申で令和の日本型学校教育についての方向性が示されました。

そこでは、「アクティブ・ラーニング」「主体的・対話的で深い学び」「個別最適化」「協働的な学び」といった新しいキーワードが登場し、これはイエナプランの目指す「自律」や「共生」と同じなんですね。これからの学校教育の役割は、自律し協働する子どもたちを育むことであると確信し、今の実践に至ります。


ただ、私はイエナプランの学校を作りたいと思っているわけではありません。国が目指す方向と、コロナを通して私が目撃した子どもたちの実態を総合的に考えたときに、推進すべき方向性やビジョンの参考にイエナプランのコンセプトが参考になったということです。

自ら学習計画を立て、学び、ときには協働して課題解決にあたる。このサイクルを繰り返し行うことのできる資質・能力を社会は求めていて、その育成が今後の学校教育に求められていることだと受け止めています。


今こそ「子どもってこういうもの」という見方、概念を変えるとき


——イエナプランのコンセプトの中で、松岡さんが特にいいなと思われたポイントはどこでしょうか?


イエナプランでは「ブロックアワー」と呼ばれる個別学習の時間があります。ブロックアワーでは、一人ひとりの子どもたちが週の計画を自分で立て、自己をコントロールしながら学習を進めるのですが、それが特に印象的でした。

今の日本の教育は、学ぶスピードは本来みんな違うはずなのに、同じ年齢であれば同じ能力が求められ、先生の授業のスピードについていける子が高い評価を得られる仕組みですよね。そこに違和感を持っていたので、「みんな違う」という前提に立ち、違いを肯定した学び方に共感しました。

日本でも自由進度学習に取り組む学校が少しずつ増えてきていますが、そういった流れからも、イエナプランを導入しようと思いました。



——「なかジャンスクール」を導入するにあたり、先生方からの反対などはなかったのでしょうか?


最初から「なかジャンスクール」を導入したわけではなく、最初の一歩として、子どもたち同士で学ぶ「学び合い」の手法を先生たちに提案しました。

異年齢の子どもたちが集まって遊びを考えている


しかし当初は、「教えないとできないのではないか?」と、ほとんど賛同を得られませんでした。その中でも何人かの先生が興味を示してくれて、2020年7月から当時の5年生に対して「学び合い」の授業を始めました。

すると、子どもたちが一瞬にして変わったんですよ。たった3カ月で、45分の授業内容を30分くらいで終えて、残りの時間で発展問題に取り組むという状態になったのには驚きました。

そこで他の先生たちにも「学び合い」の授業を2時間見てもらいました。するとどの先生も一様に「ここまでできるのか!?」と驚いていたんです。「算数楽しい!」という子どもたちの声や、「何か新しいことをやっているらしいね」と保護者間や地域で少しずつ話題になっていったことも影響して、それ以降、多くの先生に取り組みの輪が広がっていきました。

ある学級のアンケートでは90パーセント以上の子どもたちが「学び合いが良い」と回答していました。子どもたちの反応が、何よりの証拠だと思います。



——子どもの姿を通して先生方が気づき、教育観が変化していったのですね。



今回の取り組みを通して、我々教員の「子どもってこういうもの」という見方や概念を変えていかないといけない、そう強く確信しました。

子どもはそもそも自分の力でできる存在で、これまでの学校の仕組みが子どもたちの成長の伸びを抑えこんでいたのだとすると、その事実に今こそ気づくべきだと思います。


先生方が悪いわけではなく、仕組みが盲目的にさせていたと思います。

今後は、子どもたちが自分で週の学習計画を立てて、自由進度で学んでいく「マイプラン学習」にも取り組んでみたいと思っています。また、保護者や地域の方とも一緒に成長できるような場を作りたいと考えています。

改めて、私は子どもと互いに学び合えるこの先生という職業が大好きです。生まれ変わっても、きっと先生という職業を選ぶと思います。まだまだこれからも挑戦を続けていきます!



〈取材=岩田 龍明/文=菅谷 雅紀/写真=西村 真由〉

先生の学校YouTube番組「となりの学校見学」でも、
則武小学校の「なかジャンスクール」を取材させていただきました!