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子どもが主役の学校って、どんな学校?多数決で決めない、子どもが対話で「ともに、つくる」箕面こどもの森学園

子どもが主役の学校って、どんな学校?多数決で決めない、子どもが対話で「ともに、つくる」箕面こどもの森学園

学校や子どもの学び場において、ついつい大人の都合を優先して決めてしまうこと、子どもの思いを抜きにして話が進んでしまうことはありませんか?

「学校の主役は子どもたちのはず。子どもたちが主役の学校をつくることは難しいのだろうか?」、そんな問いの自分たちなりの答えを見つけたくて、20年近く前から真に子どもが主役の学校を運営しているオルタナティブスクール「箕面こどもの森学園」を取材しました。

子どもたちが主体となり、多数決をしない、話し合いをしていく「集会」の時間を中心に、子どもたちの個性を尊重し、成長を支えるスタッフのあり方や思い、「ともに、つくる」ことを大切にしている学園の考え方を、校長の佐野さんとスタッフの守安さんにお聞きしました。

写真:箕面こどもの森学園
箕面こどもの森学園
佐野 純(さの じゅん)さん【写真左】
箕面こどもの森学園 校長

〜プロフィール〜
私立の中高一貫の進学校で偏差値による序列ができるのを経験し、そこに課題意識を持つ。教育に携わろうと学習塾を運営する企業に就職し一斉指導の講師を務めるが、違和感を覚えて退職。その後『学び合い』を実践する学習塾に出会い、教室責任者として活動しながら、対話の場や子育て支援の講座などを企画・運営。その頃に多様な教育を推進する活動の中で箕面こどもの森学園に出会う。非常勤スタッフとなり、中学部開設準備会メンバーに。2015年、中学部開設時に常勤スタッフとなり、2022年、校長に就任。

守安 あゆみ(もりやす あゆみ)さん【写真右】
箕面こどもの森学園 高学年スタッフ

〜プロフィール〜
ニイルの自由教育を実践した両親のもとで育ち、大学で教員過程を学んだが、学校教育に疑問をもち教師にならず、一般企業へ就職。子どもが「わくわく子ども学校」に入学すると同時に自身もスタッフとして参加。2012年に常勤スタッフになる。2022年に認定NPO法人コクレオの森副代表理事を退任。現在、認定子育てHATマイスター、メンタルファウンデーション認定コーチとして、子育て支援やコミュニケーション講座の活動もしている。


子どもが主体的に生きる自由な場所

——「箕面こどもの森学園」が立ち上がった経緯を伺えますか?

本学園は、もともと大学教授だった前代表理事の辻正矩が、大学生の無気力さや依存的な姿を見て「このままではいけない」と思い、仲間を集めて立ち上げた学校です。
初めは、子どもが主体的に生きる自由な学校をつくりたいという思いのもと、外国の自由な教育の事例調査や現地視察に取り組みました。

そして、フランスのフレネ教育やオランダのイエナプラン教育などの市民性教育を取り入れながら、2004年に前身となる「わくわく子ども学校」を設立し、今年で19年目を迎えます。

——学園の中で、大切にされていることは何でしょうか?

「それぞれの興味関心に沿って学ぶこと」「生活の中で学ぶこと」「それぞれの意見が尊重される環境」を大切にしています。

話し合いの中で少数の意見が取り入れられず、「自分の意見を言っても仕方がない」と感じると、他者への依存や無気力につながっていきます。でも、「どんな意見でも受け取ってもらえるんだ」と感じられれば、「自分でもやってみよう」と主体的になっていきます。

そこで、本学園では「対話」を大切にしています。対話には、平和的に問題を解決したり、新しいものを生み出す力があります。誰かが一方的に決めるのではなく、対等な立場で対話を通して共に作っていくことが、市民性を育むことにもつながると考えています。

インタビューに応じてくださったのは、
校長の佐野さん(左)と、スタッフの守安あゆみさん(右)

——対話を通して自分を大切にされていると感じるからこそ、主体的になれるのですね。

意見を受け取るだけではなく、その子の気持ちを受け止めることを大切にしています。そして、自分のことは自分で決める「自己決定」を大切にすることで、学校が「あなたはここにいていいんだよ」と感じられる、存在そのものを受け止めてもらえる場所になっていきます。

一人ひとりが大事にされることで、大事にされた人は人のことも大事にできるようになり、対話ができるようになる。それが、自己肯定感を育む土台になると考えています。

「全ての学習の場で子ども一人ひとりを尊重する」という思いをカリキュラムの中に織り込んでおり、それがこの学校のあり方なんです。

——具体的なカリキュラムについても伺えますか?

具体的には、「ことば・かず」「テーマ」「プロジェクト」などいろいろな学習がありますが、全てに「一人ひとりの子どもの自己肯定感が育まれる」要素が含まれています。

自己肯定感が育まれると自然と「対話ができる人」に育ちます。

どの学習においても「一人ひとりの子どもの自己肯定感が育まれる」よう
設計されたカリキュラム

例えば、サークルになって自分が感じていることを自由に話す「ハッピータイム」という時間があります。スクールに向かう道の途中での出来事、昨日の夜の出来事を話す子もいれば、何も言うことがなければパスもOK。

自分のことを皆に話して聞いてもらう時間が毎日必ず保証されています。些細な時間ですが、これが落ち葉の1枚1枚のように積み重なって、腐葉土のようになって、心の豊かさにつながっていると思います。

多数決で決めない、合意形成するまで対話する文化

——「民主的な市民が育つ学校」という理念を掲げていらっしゃいますが、具体的にどのような取り組みがありますか?

いろいろな場面で対話をしていますが、1つに「集会」という場があります。

小学部集会と全校集会や、クラスごとに開く低学年集会・高学年集会・中学部集会があり、週に1回以上話し合いの場面を設けています。その中で、子どもたちが司会やホワイトボードへの書記、ノートへの記録など、役割を担いながら集会を進めていきます。

「集会」で話し合いを進めるのは、全て子どもたち

——「集会」で大切にされていることは何ですか?

民主的といえば多数決のイメージがあると思うのですが、ここでは「多数決はしない」ことが浸透しています。子どもたちの中でも、それをとても大切にしているなという場面に出くわすことも多く、多数決をしたくなる場面でも「この学校は多数決しないんやったね」と別の方法を考える様子が見られます。

少数の意見でも尊重する前提のもと、最終的には反対する人がいない案が出るまで話し合います。一部の「これ、いいね」より「これだったら皆大丈夫」となるまで、時間がかかっても合意形成を図っています。

——多数決で決めないことは大切だと感じる一方で、難しいイメージがあります。

どうしても1人だけが「それは嫌だ」と反対するときもありますよね。そのようなときでも、まずは受け取ることを大切にしています。そうすると、気持ちを受け取ってもらえたら、それで良かったとなることもあるんですよ。話し合いもずっとしていると、結論が出にくかったり、膠着することもあります。

そこで少し休憩があると、反対してた人が折衷案を出してきたり、 周りの人も提案してくれたり、話がまとまることもありました。それができるような余白のある場づくりを意識しています。

また、スタッフはいつも参加者の1人として参加しているので、状況を見ながら意見を混ぜたり、提案したりすることも必要かなと思っています。

箕面こどもの森学園では、子どもたちと関わる大人を
先生ではなくスタッフと呼んでいるそうです

——実際に時間がかかって合意形成に至ったエピソードなどあれば伺えますか?

高学年の修学旅行は、行き先の決定やお金の工面など、何から何まで子どもたちが準備を進めます。今年度もこれから資金調達のためにフリーマーケットを行うのですが、その準備がようやく始まったところです。

1学期に行き先を決めるとき、京都と大分のどちらに行くかで意見が割れてしまったので、対話して行き先を決めるのに多くの時間を費やしました。最終的には、京都に行ってそのまま大分にフェリーで行く案に決定しました。

——子どもたちが自分たちで修学旅行を作っていくのですね。

そうなんですよ。でも、数年前の修学旅行で「子どもたちの準備が間に合っていないからスタッフがつい手助けしすぎてしまったときがありました。

そのとき、スタッフが旅行先で子どもに「次どうすんの?」「次どこ?」と聞かれて、ショックを受けていました。「子どもの修学旅行なのに子どもがスタッフに聞いてくるなんて…」と。それで翌年からは、スタッフが引っ張ってまで修学旅行に行かせることは止めました。

大人としては、修学旅行に行かせてあげたいじゃないですか。でも、ついつい最後の方でちょっと手伝ったら、子どもが依存してしまった、というエピソードがあったんですよね。 

——心配して、つい口を出してしまう気持ち、よく分かります。

心配が大きくなると、どうしても大人が手出しや口出ししたり、ルールを作って管理的な決め方になりがちです。でも、心配することよりも「任せて大丈夫!」と信頼することにしています。

話し合いを重ねた上で「皆が納得してやってるんだったら大丈夫だろう」という信頼ベースの文化があるので、成立しているのかな。
だから、最後まで子どもの主体性を尊重して、最終的に「修学旅行に行けなくてもいい」ぐらいのところまで大人の意思を手放したときに、子どもたちが本当に自分たちで進めていくのだと思います。

一人の人として、子どもたちと共に

——先ほどの話の中でもあったのですが、実際にスタッフの皆さんは何を意識して子どもたちと接していますか?

基本的には、子どもたちの考えや気持ちを大切にして、それを受け止めるようにしています。ただ、スタッフも感じたことや思ったことは伝えるようにしています。

集会でもスタッフ会議でも言いたいことがあれば、そのときに伝える。あとから「本当はこう思っていた」はないようにしています。その場の参加者の責任として、思っていることは伝える。それは子どももスタッフも同様で、もちろん言い方やタイミングは考えますが、そのような姿勢を大事にしています。

ただ、最初から大人がバンバン進めていくと子どもたちの話にならないので、ある程度待ってみたり、様子をうかがったりしつつ、そのときの雰囲気やスタッフによっても関わり方は異なりますね。

——スタッフの共通意識は、どのように醸成していますか?

ここはみんなでつくった理念をもとに運営する学校なので、一人ひとりが目の前のことに対して、理念に立ち返り考えて行動しています。もちろん判断に迷うことがあれば、誰かに相談したり、スタッフ会議で皆で協議することもあります。

また、自分たちが大切にしていることを「9つのエッセンスと11のガイドライン」という20の項目に文章化しています。そういった立ち返る大きな軸を共通で持ちながら、スタッフに権限移譲しています。

9つのエッセンス

11のガイドライン

参考資料:https://cokreono-mori.com/user/media/kodomono-mori/pdf/guideline_child.pdf


——理念をもとに集まったスタッフだからこそ、共通意識のもと任されているのですね。

前提として大事なことは、「スタッフである前に、一人の人である」ということです。

どうしても教員・先生として子どもたちの前に立つと、「先生を演じる」みたいなことはよくあることかもしれません。でも、ここのスタッフは「スタッフだからこうしないといけない」ではなく、1人の人として「どう感じるか」「どう思うか」を大切にしています。

スタッフが感じたことがあれば、それを伝えていいし、表現していい。自然体な自分でいるという「あり方」を大切にしています。

変わり続ける学校でありたい

——今後、日本の教育はどうなっていけばいいとお考えですか?

1つは、小さな学校という形で、市民が自分たちの想いをもとに作る学校が増えていくことが大事だと思います。私たちの大切にしていることが、実際にカリキュラムなどを通して子どもたちに伝わり、市民の想いとして実現している学校の1つのモデルになれたらうれしいです。

そういった学校が、私たちのスクールだけでなく、日本で当たり前になるような社会になったらいいなと感じます。

——市民の想いが実現できる学校がどんどん増えていくといいですね。

とはいえ、制度論に詳しい方に聞いたところ、制度を変えることはとっても難しいようです。しかし、その中でも変化のフォーカルポイント(注目される場所)をつくっていくことが大切だとも聞きました。

小さい取り組みでも「これ、いいね」「ちゃんとできているね」と多くの人に知ってもらえると、大きく変わっていくきっかけになります。

箕面こどもの森学園が、その変化のフォーカルポイントになれるような学校になれたらいいなと思いますし、そのために自分たちも変わり続けていきたいと思います。その時々の社会や目の前の子どもたちによって、これからも変わり続ける学校であり続けたいですね。

——「変わり続ける学校」って、素敵です。

新しいタイプの学校が増える一方で、今ある学校にも良い影響を与えられたら…とも思っています。最近は、大人向けの講座も開催しており、クラス単位でも実践していただけるようなプログラムや取り組み、先生のあり方をお伝えしています。

外側からだけでなく、今ある学校もより内側から。少しずつでも、子どもたちがより幸せになるような関わりを増やしていくお手伝いがしたいです。

——箕面こどもの森学園は、これからどのように進化していきたいですか?

私たちは子どもの主体性を育み、対話を大切にする2校目を作るプロジェクトを進めています。ただ学校を作るのではなく、地域やまちづくりともリンクさせた形で取り組んでいます。

学校が中心となって、そこの街がまた元気になる。そんな学校になることを目指しています。ぜひ応援してください。

〈取材・文=Kチーム/写真=箕面こどもの森学園提供〉