高校生の心に火をつけた、フードロスの現場。四條畷学園高校が取り組む「SDGs×探究」を軸とした自分プロジェクト
SDGsの17の目標について、2022年度からスタートする「総合的な探究の時間」の題材として活用してみたいと考える高校の先生は少なくないだろう。
大阪府大東市にある四條畷学園高校では、「自分プロジェクト」と名づけられた総合的な探究の時間を活用し、すでにSDGsに積極的に取り組んでいる。
四條畷市と連携して市の問題に挑むコースや、社会問題の解決に挑むコース、地球環境を良くするためのアクションに挑むコースなど、主に4つのコースに分かれ、活動を進めているという。
そこで四條畷学園高校教諭の蘆田亮介さんに、自分プロジェクトの概要や、印象に残っている取り組みについて話を聞いた。
1986年、京都府福知山市生まれ。2011年より四條畷学園高等学校に勤務。教科は英語。もともとは英語とサッカー指導に教師生活を捧げるつもりだったものの、生徒の成長やさまざまな方との出会いを通して、探究学習のおもしろさや奥深さに目覚める。現在は、日々の業務に加え、さまざまな勉強会に参加しつつ、校内外問わず「教育」にまつわるコミュニティ作りに勤しむ。
4つのコースから選択してSDGsに取り組む自分プロジェクト
——貴校では、自分プロジェクトと名づけて、先行して探究学習に取り組まれているそうですね。
本校は生徒数約1,100名の学校で、「総合キャリアコース」「発展キャリアコース」「特進文理コース」など、さまざまなコースを展開していることもあり、1学年は11〜12クラスで構成されています。
中学校も運営していますので、「6年一貫コース」も設置しており、私は6年一貫コースの担任をしています。6年一貫コースは1学年20人ほどですので、生徒と密な関係を構築して、学習を進められるメリットがあります。
どこの学校でも学習指導要領の改編に伴い、今後探究に力を入れていくかと思いますが、本校では6年一貫コースが中心となって、学校全体の探究学習を牽引してきました。
それが「自分プロジェクト」と名づけて実施している探究学習です。
——具体的に、どのように進められているのでしょうか?
自分プロジェクトの授業時間は週2時間、火曜日の午後に実施しています。
基本的な流れは、毎年4月からプロジェクトが始まり、11月に学内発表会を開催します。自分が何に取り組んできたのか、保護者の方やプロジェクトを通して関わった方の前で発表をします。
本コースの特徴でもある人数の少なさを生かして、昨年から高校1年生と2年生が一緒になって活動を進める形に変更しました。異学年が混じり合いチームに分かれて活動する仕組みになっており、あらかじめ学校側が用意した4つのコースの中から生徒が希望するコースを選択し、チーム編成が行われます。
コースは、四條畷市と連携して市の問題に挑むコースや、社会問題の解決に挑むコース、地球環境を良くするためのアクションに挑むコース、学外のコンテストに挑むコースの4つのコースから選択してもらいます。
どのコースも最終的にはSDGsに結びつく内容です。
——探究学習は先生の介入のバランスが難しいところかと思いますが、貴校ではどのような工夫をされていますか?
探究の活動はやはり生徒のモチベーションがさまざまではあるので、まずは4つのコースから自分の興味関心に沿った内容を自分で選んでもらうことを大切にしています。
その上で、とにかく自分たちで「何を実践したのか」を重視していて、キャッチフレーズとして「ほなやってみよう」をおき、とにかく行動に移すことは口酸っぱく伝えています。
もう1つ「みんなハッピー?」というキャッチフレーズもあり、相手の気持ちになって考えてみることの大切さも伝えています。基本的には生徒の自主性を尊重したいので、例えば農業体験なども生徒たちで行ってもらいます。
自分プロジェクトにおける教員の役割は、「ほなやってみよう」「みんなハッピー?」という軸に対して、生徒がアプローチできているかどうかを見守ることです。
中にはうまく自発的に動けないチームもありますが、強制的に動くような指示はしません。「ほなやってみよう」と「みんなハッピー?」の要素が入るように意識しつつ、一緒に何をするか考えるようにします。
また、自分プロジェクトでは成績をつけたり、評価をすることもしません。
評価制度を導入することも検討しましたが、大人が考えた制度やルールに振り回されてほしくないと思ったので、現時点では、成績や評価について細かくする必要性はないと考えています。
生徒の心に火をつけた、フードロスの現場
——これまで取り組んだプロジェクトの中で、印象に残っているものはありますか?
昨年、社会問題の解決に挑むコースでフードロスの問題に取り組んだ生徒たちの活動が印象に残っています。
私も驚いたのですが、日本の食品廃棄物等は年間2,759万トンもあり、そのうちまだ食べられるものは643万トンにもなります。
そのフードロスの問題の中でも、規格外野菜といって、曲がっている、キズがついている、色が薄い、太さが足りない、サイズが大きい・小さいという理由で市場の流通規格に当てはまらない野菜は捨てられているという問題の解決に、そのチームは挑みました。
具体的には、2020年の6月から「規格外野菜の流通先の仕組み作り」に取り組み始めたのですが、実際に自分たちでアポを取って、大東市の農家さんのところに向かいました。そのときに規格外野菜が山積みになって捨てられている光景を見て、心を動かされたみたいです。
そこで一気に生徒たちの心に火がついて、八百屋さんへ行って規格外野菜を取り扱ってもらえないかと相談したり、どんどん行動を起こしていきました。
八百屋さんには「規格外野菜は売れない」と断られてしまうんですが、それでも諦めず、自分たちでつながりを作った農家さんからいただいた規格外野菜を地元の商店街で自分たちで販売してみたら、飛ぶように売れました。1時間半で合計で15,000円分が完売し、売り上げは全て農家さんに還元しました。
たった1日の取り組みでしたが、生徒が本当にいい顔をして帰ってきたことを覚えています。
——自分たちで動いた仮説が、見事成果として現れたんですね。
そうなんです。ただ、その次の課題として、この取り組みだけでは規格外野菜の存在を知ってもらうことができないという課題にぶちあたりました。
そこで規格外野菜の認知度を上げるために生徒がいろいろと考えて、たどり着いた仮説は「ハーバリウムを規格外野菜で作る」でした。
ハーバリウムは「植物標本」のことで、インテリアとしても使われます。
ハーバリウムはたくさん数を作れないし、利益は生み出しづらいのですが、規格外野菜の直売とセットで、ハーバリウムを販売することで、規格外野菜の問題を少しでも多くの方に知ってもらおうと動き出しました。
本来は毎年11月の学内発表会でプロジェクトは一区切りとなりますが、このチームは次のアクションにつなげたい気持ちが強く、活動を続けました。その中で、サポートしてくださる方とのつながりが増えていき、2021年の7月には梅田の商業施設で、規格外野菜とハーバリウムの販売を実現しました。
——実際にハーバリウムは売れたのでしょうか?
販売できる時間が2時間と短かったのですが、1本800円のハーバリウムは用意した30個が完売。
ハーバリウムと一緒に販売した規格外野菜も、たくさん売れました。売り上げは全て農家さんに受け取っていただきました。
実はこのチームは、このプロジェクトを成功させるためInstagramでの発信にも力を入れた結果、フォロワーが2,000を超え、実際にInstagramを見て、来場してくださった方もいました。生徒の頑張りが結果につながったと思います。また、「SDGs QUEST みらい甲子園」というコンテストにも応募して、パナソニック賞をいただくことができました。
このプロジェクトメンバーは現在高校3年生なので、活動そのものは一旦終了しましたが、こういった地道な活動を続けてくれたことの意義が大きいと考えていて、なんとか次につなげていけるよう模索しています。
評価はせず、矢印を自分に向けた振り返りを大切に
——探究学習を通した生徒の声は、どういったものがありますか?
先ほど、成績をつけたり評価をしないという話をしましたが、矢印を自分に向けた振り返りは大切にしています。その中の生徒の声を一部ご紹介できたらと思います。
今の社会の現状を知るために野外活動に行き、いろんな人にインタビューをして今の社会の現状を知れたことは普段の学校生活では絶対に体験できないことだし、とても楽しくて充実してたなと思いました。
活動を通して関わったチームメイト、先生、農家さん、企業の方がみんな心があたたかくて、自分が何か貢献したり、いい影響を与えられたらいいなと思っている人ばかりだったので、「人の笑顔のために」というのを基準に考えるようになりました!!
また行動をし続けたり、発信し続けると、応援・協力してくれる人がいて、少しだけど社会を動かせるんだと自信がつきました!
SDGsというものを全く知らなかったのですが、とても詳しく楽しく学ぶことができました。
自分プロジェクトは自分たちが能動的にアイデアを考え行動をしたため、活動が終わった今でも「こっちの商品を買った方がゴミが少なくて済むかも」「環境に配慮した行動をしてみよう」など、自然と思えるようになりました。
またSDGsに関するニュースなども気になり、今まで全く見なかったジャンルのニュースも見るようになりました。
一部の生徒たちの声になりますが、ご紹介でした。
さまざまな生徒の声を聞いて感じたのは、「チームの重要性」です。何かを集団として進めていくときには、横の関係性はとても重要です。
実際に私が伴走をするときも、関係性がうまく築けているかどうかは気を使います。また、生徒同士の横の関係性だけでなく、私たちとの縦の関係性も重要なので、チームがうまく機能するようにサポートしています。
——これまで探究学習に伴走されて、感じたことがあれば教えてください。
探究的な学びは、絶対に必要なものだと感じています。
探究学習を通して、生徒には「自分がやろうとしていることは、自分だけでなく周りにとってもハッピーなのか」「自分は周りにどんな影響を与えているのか」などを問える人になってほしいからです。
口を動かすだけではなくて、手と足を動かす人になってほしい気持ちもあります。
探究的な活動をしっかりと練っていれば、卒業生も「あのときの活動が今役立っています」って伝えてくれるんです。社会とつながることを考えると、探究は大事だと思います。
また、SDGsは命に関わることなので「人の命」を意識してもらうためにも、SDGsそのものが非常に重要だと考えています。しかし、単にSDGsの各項目を教えるだけでは、深い探究につながりません。
SDGsのような問題に対して、自分で行動して立ち向かえる人を増やせるよう、これからも探究学習に取り組んでいきます。
〈取材・文・写真=西本 友〉