「SDGsは世界最大の社会実験」と語る17歳の社会起業家が目指す共創社会とは?
社会課題に対しアクションを起こす中高生を生み出すために、一般社団法人Sustainable Gameを立ち上げた社会起業家であり、現役高校2年生の山口由人さん。
山口さんは、生後4カ月から中学校入学までの約12年間をドイツで過ごし、人種的マイノリティとして過ごす経験を持つ。
ドイツ在住時、多数のシリア難民が押し寄せ、難民の人たちが置かれた過酷な状況を間近で見たものの、手を差し伸べられない葛藤を抱えたまま日本に帰国。そのような思いから、社会課題を解決していく一般社団法人を立ち上げるに至った。
「愛を持って社会に突っ込め」という理念を掲げる同法人の立ち上げまでのストーリーや、SDGsに取り組む際に大切な視点について話を聞いた。
2004年生まれ。幼少期をドイツで過ごす。帰国後、SDGsの達成に向け取り組みたいと思うものの手段がないことに違和感を覚え「課題発見DAY」というイベントを企画。のちに一般社団法人Sustainable Gameを設立。2020年、Ashoka Youth Ventureに認定される。日本の入国管理局収容所の人権問題の映画制作を行うなど、幅広く活動する。
アクションを起こす若い世代を増やしたい
——山口さんは高校に通いながら、一般社団法人の代表理事としてさまざまなプロジェクトを推進されていらっしゃいますが、どのような事業を展開されているのでしょうか?
社会課題に対してアクションを起こす中高生を増やしたいという思いから、中高生を対象とした3つの事業展開をしています。
1つ目は、社会課題に興味関心を持ってもらうために、Z世代の社会課題解決を目指すロールモデルと同世代のインフルエンサーが手を取り合い、社会課題に本気で取り組んでいくリアリティ番組「SPINZ」をYouTubeで放送しています。
2つ目は、中高生向けに街でのフィールドワークをテーマとした教育プログラムの運営や、中高生と企業の共創をテーマにした企業研修をデザインする事業を行っています。
阪急阪神百貨店さんや不動産会社のいちごさんなど、多種多様な企業の意思決定の場に中高生の意見を反映させる機会を生み出しています。
3つ目は、社会課題に対して関心が高い未成年と企業がオンライン上で共創を行えるプラットフォーム「Flare」です。Flareは2021年10月ローンチを目指し構築を進めています(2021年8月取材当時)。
——一般社団法人を立ち上げたきっかけについて伺えますか?
団体を立ち上げる前段として、「課題発見DAY」というプログラムを中学3年のときに始めました。
というのも、中学1年生のときに外部で参加したSDGsに関する教育プログラムはフィールドワークがないものが多く、課題解決に参加している実感があまり持てないことに物足りなさを感じていました。
僕は「SDGsは世界最大の社会実験」だと思っていたので、社会実験への参加方法を知りたかった。そのためには、まず各自が課題を発見する力を身につけることが大事だと思い、「課題発見DAY」というプログラムを始めました。
ちなみに、法人名である「Sustainable Game」の「Game」は、ゲーミフィケーションという意味を含んでいて、「ゲームのような形で課題を見つけてクリアしていく」というコンセプトがあるんです。
団体の活動は、そういったコンセプトでプログラムを設計しています。
——「SDGsは世界最大の社会実験」という捉え方はおもしろいですね。そう表現する意図を詳しく教えてください。
SDGsの成り立ちを考えると、世界中のさまざまな地域で、小さな部会みたいなものが開かれて、議論して議論してだんだん世界共通の課題が集約され、2015年の国連サミットで2030年までに皆で目標を達成しましょう、と全会一致で採択されました。
世界を良い方向に持っていこうという共通の目的で、世界中の人が参画しながら実験をしていく、一人ひとりに与えられた大きなチャンスだと思うんですね。
だからSDGsは「世界最大の社会実験」だと捉えています。
山口さんが考えるSDGsの本質
——学校で取り組むSDGsをもう一歩深めるには、どういった視点が必要でしょうか?
SDGsの本質というのは、その問題自体を知ることよりも、「その問題の裏側にどういった人たちがいるのかを理解する力を養うこと」だと思うんです。
だからこそ、SDGsを教科書の歴史のように、「この点から始まって、この点がゴールである」と断片的に学んでも意味はなく、問題の当事者が誰なのか、彼・彼女らは何を思って行動をしたのか、あるいは時間を経てどういった思いに変わっていったのかを学ばないと、本当に大事なところが抜け落ちてしまうんじゃないかと思うんです。
実際に自分の手を動かしながら、自分の中の理想だけではなく、当事者の理想を理解することが大事だと思います。ですので、学校の授業ではぜひ「社会問題の当事者に着目したプログラム」であってほしいですし、それこそがSDGsを知るだけでなく、どのように自分が参加できるかを知るきっかけになると思います。
——指導する先生方も、SDGsについての理解を深める必要がありますね。
僕は先生があらゆる分野に精通していて、常に教える立場でいるべき、とは考えていなくて、皆が先生だと思って教え合うことが大事だと考えています。
SDGsをよくプログラミングに例えるんですが、僕は昨年からプログラミングを初めたばかりのビギナー。一方で、うちの団体の中学生エンジニアは、既に7年くらいのプログラミング歴を持っています。
学習歴が異なれば、知識やできることに差があるのは当然です。
僕の学校でも年配の先生が、PCやプロジェクターの使い方が分からないというときに、生徒が先生みたいになって教えることもあります。逆に先生もそれを寛容に受け入れているという状態です。
だから、先生や生徒といった立場に関わらず、「分からないことをお互い教え合う」というスタンスがより重要になると思います。
——なるほど。お互い教え合うっていいですね。
はい。先生方には、SDGsという言葉が生まれる前から学校で教えてこられたことをシェアしてほしいです。
僕は、「弱者に優しい社会をつくれば皆に優しい社会になるだろう」と信じているんですね。そんな風に社会を見ていくと、SDGsの枠を意識しなくても、自然とテーマが浮かんでくるし、自分ごと化もしやすいと思います。
分からないことや解決策は、周りに相談しながら皆で一緒に考えていけばいいと思っています。
5年程前ですが、ドイツにいたときに、家族旅行でギリシャの小さな島に行ったんですね。とても小さな空港なのに、当時すでにSDGsのCMが流れていました。小さな島でさえもそういう認識だったのに、その頃の日本では、SDGsの言葉が一つも言われていなかったんです。
日本全体が遅れを取っている、と焦りを感じたことを覚えています。 今からでも遅くないので、教え合って日本のSDGs達成を前進させていただきたいです。
「愛を持って社会に突っ込め」その原動力とは?
——山口さんの中で、社会問題の裏側にいる人たちに目を向けるというきっかけは、ご自身がドイツで過ごされた経験からきていますか?
はい、ドイツでの生活も今の自分に影響を与えていると思います。
ドイツにいた小学校時代に差別的な行為や嫌な行為を受けたことがあります。ドイツ語が完璧ではなかったことと、アジア人は現地でマイノリティだったので。
ちょうどその頃、シリア難民の方がドイツに多く押し寄せてきていて、彼らは僕よりも、もっと辛い立場に立たされていました。難民が多く乗ったバスが爆破される事件まで起きたこともあります。
彼らの痛みは分かるものの、僕は怖くて何もできなかったんです。そんなモヤモヤを抱えて日本に帰国しました。
——それは強烈な原体験ですね。
はい。帰国してからふと、「今、日本の街中でシリア難民の人たちとすれ違ったとしたら、彼らの存在に気づけるのかな?」と考えたとき、彼らも日常的にスマートフォンを使っているし、服装や見た目だけでは気づかないだろうと思いました。
これからは「目に見えることだけではなく、社会課題の本質を捉え、そこに関わる人たちにエンパシーを持って課題解決に挑める人材が必要だ」とすごく感じたんです。
そういった仲間を一人でも増やしたくて、一般社団法人を立ち上げるきっかけとなった「課題解決DAY」をスタートさせました。
——一般社団法人の理念「愛を持って社会に突っ込め」がとても素敵な言葉だなと思いました。どうしてその理念にされたのでしょうか?
「愛を持って」というところは、愛だけで課題解決をしていく人がいてもいいんじゃないか、それだけで回る世界があってもいいんじゃないかと、過去の体験や出会いを通して、そんな風に思うようになりました。
「社会に突っ込め」という部分は、オンラインでさまざまなことが可能になった世の中だけど、ボタンひとつで解決できることはほぼないわけです。
だから、ちゃんと問題に突っ込むフィジカルな要素が必要で、ラグビーのタックルのように果敢に取り組んでいく人たちを増やしたくて、「Social Tackler」という造語を最初に作り、その和訳として「社会に突っ込こめ」としました。
——山口さんのようにsocial tacklerになりたいと思いながらも、一歩踏み出せない人は、どのように変わっていけばよいでしょうか?
そこは僕もずっと考えているところですね。
例えば、東京にいたら電車や街の看板で電子公告がたくさんあって、自然に好奇心を刺激されたり、課題に気づく機会があふれているけど、そういったものがない地域もあります。
家庭によっては、社会問題やお金に関する話題がタブーな場合もあります。日本全国に出かけて、現地の同世代と直接話す中で、何らかの制限、地域格差があることをものすごく感じています。
先日福岡に行ったときに、ある高校に通っている同世代と話す機会があったんですね。
「起業したり、新しい取り組みに挑戦したいと思いますか?」と聞いたら、「何か行動を起こしたいという思いはすごくあるけど、地元ではなかなか難しいから…」と思っている人たちがたくさんいました。
「ノブレス・オブリージュ(高貴なる者の責任と義務の意)」という言葉があるように、こういう活動をさせてもらえる環境にいられる僕だからこそ、「新しく取り組みたい」と思った人たちが行動を起こせる環境を整える責任があると思うんです。
責任を果たしていきたいと思っています。
——最後に、高校卒業後の進路はどのように考えられているのでしょうか?
まだまだ迷ってはいますが、今はオランダの大学に興味があって、ブランディングを学びたいと思っています。
社会問題に取り組んでいる団体は、よほど大きな団体ではない限り、広告を打てないし、寄付も集まりにくい。ソーシャルセクターの人たちって、目の前にいる助けたい人たちに、全てお金を使って、助成金などで何とか食いつないでいる人たちがたくさんいるのが現状です。
だからブランディングを学んで、将来そういった活動をする人たちを応援したい。もっともっと社会貢献ができる人間になりたいです。
〈取材・文=中庭 廣子/写真=ご本人提供〉