制服に、誰一人取り残さないワクワクする選択肢を。「ミライの制服プロジェクト」が目指す未来
兵庫教育大学の准教授として、特別支援教育を主な研究対象とされている小川修史さんが、2021年3月からゼミ生と、一般社団法人日本障がい者ファッション協会と共に力を入れて取り組んでいるプロジェクトがある。
性別や障がいの有無に関わらず、全ての人がワクワクするような制服を作り、制服の選択肢を増やす「ミライの制服プロジェクト」だ。
制服の選択肢を増やすだけでなく、オシャレであることにもこだわる小川さんのプロジェクトに懸ける思いについて、話を聞いた。
日本障がい者ファッション協会(JPFA) 副代表
兵庫教育大学大学院学校教育研究科・准教授(兼任:兵庫教育大学情報処理センター・准教授)、博士(工学)、専門は教育工学で、主に特別支援教育領域におけるICT活用について研究。2019年12月より一般社団法人日本障がい者ファッション協会(JPFA)副代表。「オシャレするのを諦めた」という車椅子ユーザの声をきっかけに、障がいの有無や性別を問わず全ての人がオシャレにアクセスできるファッションを開発しており、来年秋のパリコレ(Paris Fashion Week s/s 2023)でのファッションショー開催を目指して活動している。2021年3月に「ミライの制服プロジェクト」を立ち上げ、感覚過敏、身体の麻痺、ジェンダー等に配慮した制服を開発している。Twitter(@ogatti21)では、誰もが魅力を感じることができる次世代のユニバーサルデザインについて発信。
全ての人が障壁を感じないオシャレな制服を作る
——「ミライの制服プロジェクト」を始められたきっかけは何だったのでしょうか?
もともと一般社団法人日本障がい者ファッション協会の代表理事である平林景と共に、男性がはけるオシャレなスカートを制作する過程で、男性も着用できるセーラー服を作っていたのですが、制服に関してはプロジェクトとして進めた方がさまざまな展開ができるのではないかと思い、2021年3月に兵庫教育大学の私のゼミが中心となって、プロジェクトとして始めました。
世の中にはジェンダーに関する悩みを持つ人や、見た目では分からない障がい、例えば感覚過敏といって服の素材を痛く感じてしまい、服を着ることが辛くなってしまうなど、さまざまな困りごとを感じている人がいます。
そういった人たちは中学や高校などで「制服」で苦しんでいる。この現状をなんとかしたいと思ったことが、プロジェクトを立ち上げたきっかけです。
私自身はスカートをよくはきます。スカートをはくと目立つことも多いのですが、男性がスカートをはくことに対して、抵抗のない感覚を若いときから持てる社会をつくりたいと思っています。
「全ての人が障壁(バリア)を感じない制服を作る」ことを目指しています。
——小川さんのゼミ生が中心となってプロジェクトを進めているのでしょうか?
私のゼミ生は全員で4人いて、主に関わっているのは2人です。4回生の学生がプロジェクトのリーダーを務めてくれています。
最初はゼミ生だけで制服を作っていましたが、「もっといろんな人を巻き込みたい」という考えがゼミ生の中で出始めました。障がいのある方や性的マイノリティの方など、当事者の声を聴く必要があると感じたためです。
そこで、プロジェクトに関心のある高校生・大学生・大学院生をTwitterで募集したところ、なんと約40人が集まってくれました。そこで集まった40人がアイデアを出し合って、これまで制服を開発してきました。
パタンナーや縫製はプロの方にお願いしていますが、デザインはプロジェクトメンバーが考えて、プロのデザイナーさんの力を借りることはしていません。
メンバーそれぞれが自分の強みを生かして制作する過程は、見ていてすごくおもしろいなと感じます。
——これまで制作された制服は、ポンチョ型になっていたり、どれもオシャレで着てみたいと思うような制服ばかりですね。
プロジェクトのスローガンとして「選択肢にオシャレな制服を」を掲げています。制服に選択肢を増やすことはもちろんのこと、オシャレであることが重要だと考えています。
制服は、学校生活を憂鬱にさせることも、充実した気持ちにさせることもできるほど、生徒にとっては大きな存在です。現在は選択肢が少ない故に、制服一つで中高生を憂鬱にさせてしまっているので、その状態を解消したいと考えています。
その際に大切なことは、皆が着たいと思えるオシャレな選択肢を作ることです。さまざまな選択肢から、自分が着たい制服を選べる状態を作っていきたいと思います。
制服に、選べる選択肢を準備する
——プロジェクトを進める中で、手応えは感じられていますか?
はい、すごく感じています。
正直なところ、まだまだ社会の理解を得ることが難しいフェーズにあると思ったので、SNSなどで炎上することも覚悟はしていましたが、想像以上に多くの方からポジティブな反応や応援をいただいています。制服について興味や関心がなかった方からも応援されることが増え、私としてはうれしく感じています。
最近ではTwitterのダイレクトメッセージで「プロジェクトに関してお話を伺いたい」と、高校生から連絡をいただくほどです。また、メディアに取り上げられる機会が増え、少しずつ注目度が上がってきているので、この調子で制服に選択肢が必要だということを学校に啓蒙していけたらと思っています。
——まさに学校や教育委員会に、制服の選択肢の少なさに問題意識を持っていただき、一緒にアクションできるといいですよね。
現状、制服には選択肢がない状態ですよね。そこに「選べる選択肢を準備する」ことが、このプロジェクトの使命だと思っています。
今の時代の制服はオシャレなものも多く、テーマパークに行くときに制服を着たいと考える中高生がたくさんいます。制服は学生時代の象徴なので、全員がそうとは言いませんが、「制服を着たい」と思っている中高生は多いと思います。
ただ、その制服に選択肢がなく困っている人たちがいるわけです。私服を着たいと思う生徒がいれば私服の着用を認めるように、選択肢の提示が重要だと考えています。
単に「私服」という選択肢を用意して満足するのではなく、制服の中にもいくつかの選択肢を用意し、選べる状態にすることが必要です。
「選択肢を準備したけど、選ばれなかった」は、言い換えると「選べる状態になったから、選ばない選択ができた」と言えますよね。この状態にすることがこのプロジェクトのゴールだと考えています。
——最後に、読者の方に向けたメッセージをお願いします。
まずお伝えしたいのは、「制服が原因で不登校になっている子どもは多い」ということです。
表立って「制服が嫌」とは言えず、隠している子どももたくさんいます。この点は、教員の皆さまに認識してもらえたらうれしいですね。
また、制服を強制されることの辛さも、認識していただけたらうれしいです。
何かを選べることは、これからの時代にとても大切です。「選択肢」は教育におけるキーワードになると思っていて、選択肢があることが当たり前の時代になっていくでしょう。
制服に対する考え方を180度転換できるよう、そのきっかけを私たちが作りたいと思います。
性別や障がいの有無に関わらず、全ての人がワクワクする制服を作ることができたら、誰もが学校生活を楽しめるはず。ミライの制服プロジェクトは、決して特別な制服を作るプロジェクトではなく、誰もがワクワクする選択肢づくりをしていることを知っていただけたらうれしいです。
学校の制服に選択肢を用意したいと考えている学校、先生方、ぜひご連絡くださいね!
〈取材・文=西本 友/写真=ご本人提供〉
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