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フィンランドでインクルーシブ教育を実践している小学校の先生にインタビュー!障がいの有無に関わらず、全ての子どもに特別支援の視点を。

フィンランドでインクルーシブ教育を実践している小学校の先生にインタビュー!障がいの有無に関わらず、全ての子どもに特別支援の視点を。

共生・学び合い・支え合いを意識し、人間の多様性を認め合う社会や個人の基礎を整えるインクルーシブ教育が注目を集めている。

教育先進国フィンランドでは、2000年に障がい児教育法が基礎教育法に一本化され、特別支援学級・特別支援学校に所属する児童生徒が、その障がい種や程度に応じて、可能な範囲で通常の学級に参加できる制度となっている。

また、2015年の欧州難民危機の影響により、難民が多く押し寄せ、フィンランドの外国人人口は2017年には人口の約7%を占めるようなった。

フィンランドで小学校教諭として13年勤務するアンニーナ・ケルビネンさんは、クラスの半数が移民の子どもたちという教室環境で、日々子ども一人ひとりと向き合いながら、子ども、保護者と共にインクルーシブな教室環境づくりを実践されてきた。

そこで、公立の学校現場で多様な教育的ニーズに向き合っているアンニーナさんに、インクルーシブ教育を実現するために日々大切にされていることについて話を聞いた。

写真:Annina Kervinen(アンニーナ・ケルビネン)さん
Annina Kervinen(アンニーナ・ケルビネン)さん
フィンランドの公立小学校教諭/教師歴13年


障がいの有無に関わらず、全ての子どもに特別支援の視点を

——そもそものフィンランドの特別支援教育の仕組みについて教えてください。

一部の子どもだけではなく、全ての子どもに、合理的配慮の上で教育を受けられる権利がある」ということを前提に、フィンランドの特別支援教育には、3段階の支援体制が用意されています。

下段がGeneral support(一般的な支援)、中段がIntensified support(より強化された支援)、上段がSpecial support(特別な支援)です。

フィンランドの特別支援教育には、3段階の支援体制がある

General support(一般的な支援)は、教育を受ける全ての子どもが持っている権利で、日々の通常学級の中で、一時的に特別な支援や少人数でのグループ学習を柔軟に受けることができます。

Intensified support(より強化された支援)では、一般的な支援と比べると、包括的で長期的な支援になります。支援内容は、一般的な支援と同じですが、支援を始める前に、子どもと保護者向けに個別の計画書が作成されます。

Special support(特別な支援)では、保護者と子どもと一緒に個別の教育計画を作成し、より充実した支援を受けることができます。

フィンランドでは、特別な支援を必要とする子どもだけが支援を受けられるのではなく、全ての子どもが通常学級の中で、合理的配慮の上で一人ひとりに合わせた教育を受けることが保証されています。

そして、インクルーシブ教育を学校現場で実践していくには、教員、子ども、保護者がフィンランドの特別支援教育の仕組みについて理解することが大切になります。


——通常学級の環境づくりで大切にしていることはありますか?

障がいの有無に関わらず、全ての子どもに特別支援の視点を持つことです。私の教室には、全ての子どもが安心して学びに向き合えるための教具を置いています。

例えば、聴覚過敏の子どもが音から自分を守るためのイヤーマフ(耳全体を覆うタイプの防音保護具)、多動性の子どもが安心して学べるためのバランスチェア、視覚過敏の子どもが視界に入ってくる情報を減らすための仕切り等です。

これらの教具は、全ての子どもが自由に使うことができます。また、必要であれば、アシスタントの先生の予約を取り、通常学級の支援に入ってもらうこともできます。

フィンランドでは、半分以上の子どもが通常学級の中でこれらの部分的な支援を受けており、全ての子どもに特別支援の視点を持つことを大切にしています。

全ての子どもが安心して学びに向き合えるための教具を用意している


——インクルーシブ教育のゴールとは何だと思いますか?

特別な支援が必要な子どもが教室の中で目立たないようにすることです。

私の学校は移民の子どもや特別支援が必要な子どもが同じ教室で一緒に学んでいます。フィンランドでは、障がいの有無に関係なく通常学級の中で、一人ひとりがその子に合わせた教育を受けられる教育システムがあります。

インクルーシブ教育は、教員一人の力ではなく、学校全体の仕組みが重要になります。

日本では、担任の先生一人で30〜40人の子どもたちを学級経営している、という話を聞いたことがありますが、クラス規模が大きい環境では、子どもたち一人ひとりのニーズに向き合うことは難しいと思います。

私は、特別な支援が必要な子どもたちが目立たないように、一人ひとりに合わせた環境を子どもと一緒にデザインすることを大切にしています。

バランスボールもフィンランドの教室ではよく見かけるアイテムの1つ


「今の自分」に満足せず、学び続ける

——インクルーシブ教育を行う中で、日々ご自身が大切にされていることはありますか?

毎日、少しずつ学び、挑戦し続けることです。

大学院を卒業して学校現場に入ると、子ども一人ひとりをより理解し、サポートしていくために少しずつ学び続け、変化していく必要性を感じました。

例えば、私のクラスにはADHDの子どもがいます。ADHDの子どもの特性やどのようにサポートしていけばいいのかが分からず、学校現場で働きながら、大学で特別支援の資格を取得しました。

そして、私自身も13年間の教員経験を経て、最近少しずつ教員としての準備ができてきたと感じるようになりました。フィンランドでは、学び続けるために、先生のための生涯学習の機会が設けられています。

例えば、市が提供する研修では、教員は学校を休んで他の先生が代わりに授業を行い、研修を受けることができます。また、フィンランドでは平日は16時に勤務が終わり、夏休みは10週間ある等、学び続けるための時間と環境が十分に確保されています。

子ども一人ひとりをより理解し、サポートするためには、
学び続け、変化していく必要性があると語るアンニーナさん


——日々子どもと向き合うときに大切にされていることはありますか?

自分が正しいというプライドを捨てることです。

私は教員として13年間勤めてきましたが、教員として準備ができたと感じることはありませんでした。教員は、専門家として学び続け、子どもと向き合うけれど、唯一の正しいやり方はなく、目の前の子どもたちを知ることがもっとも大切だと考えています。

例えば、私の教室でも子どもが「分からない」「分からない」と授業中に言うことがあります。このときに、私たち教員は「同じやり方で、続けなさい!」と伝えることはできないでしょう。なぜなら、子どもは一人ひとり、興味関心、学びへのモチベーション、理解度が異なるので、必要な支援等も変わってきます。

私たち教員は、毎日目の前の子どもと向き合いながら、目の前の子どもに合った方法を模索し続けていかないといけないのです。

もし、私が「今の自分」に満足して、教員としての考え方をアップデートしていなかったら、私は子どもたちに「ただ座って、じっと話を聞きなさい」と伝えていたと思います。そのような考え方のままでは、全ての子どもに機能しなかったと思います。

私は授業を行う前に、「その子に合う授業」の準備はしますが、授業中であっても、準備したものがうまくいかないときは「このやり方は、あなたには合っていないのね。別の方法でやってみよう!」と、子どもと対話しながら、学習環境を一緒に模索し続けることを意識しています。

アンニーナさんが受け持つクラスの教室


——保護者との信頼関係を構築するために大切にしていることはありますか?

日常のコミュニケーションです。日常のコミュニケーションを通して、保護者にインクルーシブ教育を理解をしてもらうことはとても大切です。

保護者の信頼を得るためには、インクルーシブな教育環境の中で、子どもたち同士がどのように学び合っているのか、また、学校における学び合いの仕組みについても理解してもらうことが重要になります。なぜなら、保護者が受けてきた教育と、今子どもたちが受けている教育は異なっているからです。

実際に私のクラスでは、What’s up(LINEのようなメッセージ送受信アプリ)等を活用して、非公開の保護者用のグループを作っています。ここでは、子どもが学校で何を学び、子ども同士でどのように学んでいるのかを伝えています。

またあるときは、放課後の時間に、親子で一緒にキャンプファイヤーをしました。そこでは、保護者とソーセージを食べながら、学校での子どもの様子を率直に話せる時間を作りました。

子ども同士が一緒に遊んでいる様子を見て、障がいの有無に関係なく、どのようにしてお互いを理解しているのかを知ることにもつながりました。

保護者への情報共有、対話も欠かせない


目の前の子どもに合った教育を模索し続けられる先生に

——先生同士の信頼関係を構築するために取り組んでいることはありますか?

コ・ティーチング(Co-teaching)です。私の学校では、子どもの多様なニーズに応えるために「コ・ティーチング」を取り入れています。コ・ティーチングとは、教員一人の目で一つの学級を見るのではなく、複数の目で学級を見ていく仕組みになります。

私の学校では、2人の教員で2つの学級を見ています。

コ・ティーチングを取り入れる前は、教員同士のコミュニケーションは少なかったのですが、導入後は教員同士のコミュニケーション量が増えて、対話を通して、子どもたちのニーズに応えるためのアイデアを共有、実践、振り返る習慣ができました。

最近では、朝の対話の時間で「いいアイデアを思いついたわ!」とアイデアを持ち込み、共有しています。そしてそれぞれの学級で実践をしてみて、休み時間に実践の共有をして、よりよい教育を一緒に考えるチームにしています。

フィンランドの職員室では対話のできる空間が多い


——国も「教員一人ひとりを信頼している」と聞いたことがあるのですが、実際に教員として働きながら感じることはありますか?

目の前の子どもを一番理解しているのは担任の先生です。

フィンランドでは、先生一人ひとりに「自律性」が求められています。子どもたちに教えなければならない内容は国のカリキュラムに書いていますが、どの教科書を使って、どのように教えるのか等は具体的に書かれていません。

これは、国が教員一人ひとりを信頼して、子どもへの指導法を任せているからです。ですから、教員は常に研究を続けることが求められており、私自身も日々の実戦の中で、目の前の子どもたちに合わせた教育方法を模索し、さまざまな教授法の中から選択して授業をしています。


——多様性を歓迎する学級づくりで新学期に行っていることはありますか?

お互いを知る学級活動です。

フィンランドの学校は、2カ月の長い夏休みが明けると新学期が始まります。私の学級では、クラスの半分が移民の子どもなので、安心して教室で過ごせる雰囲気作りが大事になります。そこで、最初の週は皆で集まって「お互いを知る時間」を作っています。

具体的には、子ども同士が協働で行う活動を通じて、クラスの中に「結束」を作るようにしています。子どもたちは、お互いに助け合うことを通して、クラスという1つの集団に所属していることを感じます。そして、子どもたちは活動を通して、お互い一人ひとりが違っていることを知るでしょう。

私たちは、見た目や、考え、行動等が異なることを活動を通して理解し、違いを認め合い、協働する仲間になっていきます。そして、子どもたちが目標を達成したとき、彼らのうれしそうな姿を見ることができます。

すると、ポジティブな気持ちが教室の中に広がります。子どもたちは、1日の中で落ち込んだり、悲しいと感じることもあるけれど、ポジティブな教室の雰囲気が安心して過ごせることにつながっています。

アンニーナさんが担当するクラスの半数は、移民の子どもたちという教室環境


——今後、どのような学級を作りたいと考えていますか?

お互いのことを尊重し合える学級を作りたいです。

子どもたちには、教室の中でお互いに尊敬し合うことを学んでほしいと思っています。これは、年間を通して心掛けていることでもあります。また私の教室では、いじめはありません。私たちは、教室でのポジティブな行動について子どもたちと話をします。

例えば、子どもたちに、教室ではお互いに励まし合うこと、誰かを笑ってはいけないこと、お互いのいいところを共有すること等を伝えています。子どもたちは一人ひとりに良いところがあるので、私はポジティブカードを活用して、子どもの良いところに目を向けて声掛けするよう努めています。

しかし、教室では、ポジティブなことだけではありません。教室を動き回る子どもや、授業中に叫ぶ子どももいます。そのときは、その子どもと全体に、対話を通して働きかけるようにしています。

どんなときも、私が子どもと関わるときに心掛けているのは、子どもたちは、一人ひとりに価値があって、一人ひとりが大切であることです。

同じ教育者として、「目の前の子どもに合った教育を模索し続けられる先生」が増えてほしいと思っています。日本の先生と、インクルーシブな教育の実践をシェアできることを楽しみにしています。

キートス(フィンランド語でありがとう)。

〈取材・文=地下 智隆〉