小規模特認校って、どんな学校?地域と保護者、みんなで見守り、みんなでつくる三島市立坂小学校の「あったかさ」
「小規模特認校」と呼ばれる小規模かつ、特色のある教育を展開し、学区外からの入学も可能な学校があることをご存知だろうか?
児童数が減少している小学校において、小規模の良さを生かした「特色ある学校運営」を進める場合に限り、自治体全域から児童を集めることが認められる「小規模特認校制度」を、文部科学省が1997年に制定したことから始まった。今は、この制度を用いた小規模の小学校、中学校が全国に広がっている。
その結果、通学区の大規模校等で自分らしくいられなかった子どもたちが、自己肯定感を高め、成長を遂げた例がたくさんあるという。
富士山の麓、静岡県の三島市立坂小学校も小規模特認校の一つだ。
現在、全校児童約70人のうち4分の1が学区外から入学している。「地域と保護者と共につくる学校」を目指しているという鈴木校長と宇津木教頭に話を聞いた。
宇津木 智如(うつぎ ともゆき)さん / 三島市立坂小学校 教頭【右】
三島市立坂小学校は、箱根西麓にある三島市で一番小さな学校。三島市唯一の小規模特認校で、三島市に住所があれば、学区に関係なく坂小学校に入学できる。小規模の特長を生かし、一人ひとりにきめ細やかな指導・支援を行っている。
学校の将来を危惧したPTAと地域が「自分ごと」として行動した結果
坂小学校の特色を教えてください。
ずは、立地ですね。校舎からは、富士山も駿河湾も箱根の山も見渡すことができ、自然にあふれた恵まれた環境です。
そしてやはり小規模特認校の特長である少人数であることで、先生の目が行き届きやすく、一人ひとりの児童にきめ細かな指導や支援ができるということです。地域の方も保護者の方も協力的で、温かい皆さんに囲まれています。
本校は、三島市内に住所があれば学区を超えて入学できます。本校のカリキュラムや学びにご賛同いただき、毎年市内全域から入学者を迎えています。
現在は何人くらいの児童が通われているのでしょうか?
令和3年度現在の全校児童数は71人で、小規模特認校の制度を利用した児童が18人。多くのご家庭が入学前に、市の広報などでこの制度を知り、入学されています。
親御さんが送迎したり、バスで通学する子もいます。71人の児童に対して、教職員は25人で、そのうち6人が担任です。
どのような経緯で坂小学校は小規模特認校になったのでしょうか?
少子化によって、平成11年度に児童数が101人となり、当時の試算では4年後の平成13年度には71人と、大幅に減少することが分かりました。
児童数が減少すれば複式学級、学校の統廃合につながっていくのではないか、坂地区の理想的な教育環境が保たれないのではないかと、地域の方々が大変危惧されたそうです。
そこでPTA会長を中心に町内会長さんたちが集まり、PTA活動として特別委員会というのを発足しました。
地域の方が危惧され、行動を起こされたのですね。
そうですね。そこでいろいろな話し合いがもたれ、安心して子育てできるまちづくりを目指し、地域や保護者で組織する実施委員会が運営する放課後児童クラブ(学童保育)が誕生しました。
低学年を預かる学童保育が主流だった当時としては珍しく、1年生から6年生までを預かり、保護者の方も運営に携わり、通常より遅い時間まで預かったそうです。
そうやって子育て家庭の支援を地域全体で行いながら、坂地区活性化のために協議会が発足するなど活発に議論された末、小規模特認校制度の存在を知り、平成16年度に認可されたと聞いております。
地域の方の貴校への熱い思いを感じます。
本当にそうです。本校の強みは、地域の方が本校を本当に大事にしてくれていることですね。当時、PTA会長や町内会長さんたちが集まったときも、「もう学校だけの問題じゃないよ」と。
「地域の問題として、地域の住民みんなで、坂小学校をどうしていこうか」っていうことを真剣に話し合いながら進めていった」と聞いています。今もなお、保護者の方も地域の方も本当にあったかいです。
強みは、少人数。一人ひとり丁寧に関わり、環境を整える
現在は、毎年70人ほどで児童数は推移されていますね。
そうですね。多いときは約20人ほどが学区外から入学してくださり、合計で毎年70人程度の全校児童数となっています。
やはり学区外から通うのは不安なこともあると思うんですよ。そういった不安を払拭するかのように地域の方や、在校生の保護者が温かく迎え入れてくださるんですね。我が地区の、我が学校のように接してくださる。
そのように地域や保護者と学校をつくっていくことが、これからの理想の学校ではないかと思います。
地元の坂地区から通う児童・保護者だけでなく、特認校制度を利用して学校に来ている児童・保護者も含め、教職員、地域の方も含め、みんなで見守っていける、つくっていける学校を目指していきたいです。
その結果として、坂小学校が教育の機関として、皆さんに、子どもたちに、ご家族の方に、喜びを与えられるんだったら、こんなうれしいことはないって思ってるんです。
小規模であること以外にも、貴校ではさまざまな取り組みをされていますよね?
農事体験は本校の特徴ですね。坂地区の地域の協力を得て、トウモロコシやジャガイモ、スイカ、ダイコン、ブロッコリーなどいろいろな農作物を育て、土に触れるようにしています。
かなり広い畑ですが、日ごろの畑の管理は地域の方に協力いただき、子どもたちは種まきや苗植えをし、途中の草取りや観察をして、最後に収穫をさせていただきます。
昨年は、スイカを1人1個持って帰るとか。でも昨年は日照が厳しくて思うように育たなかったものもあり、なんとか活用できないかということで、1年生・2年生はスイカ割り大会を楽しみました。収穫したものは給食にも出します。地域の方には本当にお世話になって、ありがたいです。
他にも、ICTの活用にも力を入れられているそうですね。
令和元年度にプログラミング教育の市の指定発表がありまして、そのときに、本校は授業公開などをしています。ですので、プログラミング教育についても先進的な事例がありますね。
現在はGIGAスクール構想の実現でどの学校でも力を入れていらっしゃるかと思いますが、先駆けて取り組んでいました。
本校の強みは少人数なんですよね。一人ひとりに丁寧に関わりながら、子どもたちがゴールを見据えて見通しをもって学習できるように環境を整えています。
今年はICT支援員さんも入っていますが、それ以前から教員自身が中心になって、教育プログラミング言語Scratchを取り入れるなど、率先して取り組んでいます。
PTA総会の出席率は9割!みんなで見守り、みんなでつくる学校を目指して
特認校制度を利用されている方は、実際に貴校のどんなところに魅力を感じて入学を希望されるのでしょうか?
一番は、きめ細やかに見てもらえるだろうという点です。それに付随して先ほどご紹介した特色に魅力を感じてくださる方が多いように思います。
実際に特認校制度を利用されて入学された児童の保護者にアンケートをとらせていただいたこともあったのですが、「自然に囲まれて元気に楽しく学校に通っている」とか「日常生活の中で自然と他学年との交流ができてすごいと思った」、「少人数で落ち着いていて学習に取り組める。本人の知的な関心も広がっているようでうれしい」、「農事体験で収穫したジャガイモのおいしさに感動。野菜嫌いの子がいても、克服できるのではないか」など、さまざまな観点で声をいただいています。
特認校制度を利用されて途中転入される方もいらっしゃいますか?
そうですね。途中転入は数としては少ないのですが、いらっしゃいます。その場合には、1週間から2週間の期間で本校を体験していただいているんです。
一番我々が心配なのは、良いところばかりを見て本校に決めてやっぱり嫌だとなってしまったときに、お子さんがダメージを受けますし、ご家族にとっても意を決して途中転入されるのは大変なことだと思いますので、そこを体験を通してしっかり見極めていただきたいという願いがあります。
また、通学区の学校に通わないことによって、その地域との希薄になるさが生まれる可能性も否定できません。そのあたりのお話も保護者の方にはさせていただいています。
きちんと準備期間を経て、本当にお子さんにとってよりベターな学び場であるかを検討いただきながら、一緒に相談しながら、利用を決めていただいています。そういった仕組みも評価いただいて、安定した人数に制度を利用いただいているのかなと思います。
この小規模特認校の存在は知らない方も多いので、もっともっと広報は積極的に行っていきたいと思っています。
保護者の方からは、学校に寄せる期待など、どんな言葉がかけられていますか?
最近でも児童数の減少などを保護者に説明する機会がありましたが、「子どもの育ちにはとても良い環境で、どうにか存続させてほしいと強く願っている」とか「他の学校では経験できないことがたくさんでき、温かい学校だと思う」とか「この学校の良さをもっとみんなに知ってほしい」といった声がたくさんの保護者から寄せられています。
本校のPTA総会は、出席率が9割を超えているんですよ。地域や保護者のみなさんの応援やつながりが強くて、みんなで育てようという雰囲気を感じますよね。
今後どのような学校をつくっていきたいとお考えですか?
地域、そして保護者と共につくる学校をつくっていきたいですね。
地域があったかいですよね。「みんなで育てよう、つくろう」という雰囲気をいっぱいいっぱい感じます。先生方も当然あったかいですからね。よく頑張ってる。
だから地域と共に、保護者と共に、みんなで見守っていける、みんなでつくっていける学校を目指していきたいと思っています。それがやっぱり一番ですかね。
〈取材・文=鈴井 孝史/写真=小野 瑞希〉