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不登校経験を持つロボット開発者が「人類の孤独の解消」に生涯を捧げるまで

不登校経験を持つロボット開発者が「人類の孤独の解消」に生涯を捧げるまで

分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を使い、たとえ寝たきりや外出困難になっても仲間と共に働ける世界初のカフェ「分身ロボットカフェ」が2021年6月21日に東京・日本橋にオープンした。

このプロジェクトを主導してきたのが、「人類の孤独の解消を目指す」を理念に掲げるオリィ研究所代表の吉藤健太朗さんだ。

吉藤さんは小学5年生から約3年半、不登校で引きこもりを経験している。一時は自ら命を絶ちたいとさえ思った少年が、どのような経緯で寝食を忘れるほど夢中になれるものに出会えたのだろうか。

生涯のミッションに出会うまでの経緯や、人類の究極の課題とも言える「孤独の解消」に取り組む原動力について話を聞いた。

写真:吉藤 健太朗(よしふじ けんたろう)さん
吉藤 健太朗(よしふじ けんたろう)さん
株式会社オリィ研究所 代表取締役 CEO

高校時代に電動車椅子の新機構の発明に関わり、2004年の高校生科学技術チャレンジ(JSEC)で文部科学大臣賞を受賞。翌2005年にアメリカで開催されたインテル国際学生科学技術フェア(ISEF)に日本代表として出場し、グランドアワード3位に。 高専で人工知能を学んだ後、早稲田大学創造理工学部へ進学。自身の不登校の体験をもとに、対孤独用分身コミュニケーションロボット「OriHime」を開発(この功績から2012年に「人間力大賞」を受賞)。 開発したロボットを多くの人に使ってもらうべく、株式会社オリィ研究所を設立。自身の体験から「ベッドの上にいながら、会いたい人と会い、社会に参加できる未来の実現」を理念に、開発を進めている。ロボットコミュニケーター。趣味は折り紙。2016年、Forbes Asia 30 Under 30 Industry, Manufacturing & Energy部門 選出。


「役割」が居場所をつくる重要な役割を担っている

——2021年6月21日に世界初となる「分身ロボットカフェ」をオープンされ大きな反響を呼んでいますが、分身ロボットカフェはどのような場所なのでしょうか?

一言で表現するなら、たとえ寝たきりになったとしても、仲間と一緒に働ける場所です。

今はコロナによって1億総移動困難者時代がきてると私は思っていますが、そういうときに何ができないって、パーティーができないし、仲間と一緒に夜騒いだりすることもできないですよね。学校に行って友達とおしゃべりを楽しむこともできない。

でも、コロナになる以前から寝たきりの人たちは、とにかく移動ができないことに困っていたわけです。「自分は何もできない」と孤独を感じていた。

そんな寝たきりの人たちがどうすれば社会参加できるのかを考えた結果、リアルな場所に参加できるツールとして分身ロボットにたどり着きました。

さらにロボットを通して接客するという「役割」を用意したことで、「ここにいていいんだ」という居場所が生まれるだけでなく、自分の接客で誰かが喜んだり、誰かの役に立つという実感を得ることができます。

「分身ロボットカフェ」では、ALSなどの難病や
重度障害で外出困難な人々が、分身ロボット「OriHime」を
遠隔操作しサービススタッフとして働いている


——「役割」が居場所をつくる重要な役割を担っていますね。

そうです。インターネットなんかで「人同士がつながるツール」はたくさんありますが、居場所にはなり得なくて。

自分が介在することで誰かの役に立ち、喜んでいる姿を見ることができたり、相手のリアクションを得られると、そこが居場所になる。そう考えたときに、「接客」っていいなって思ったんです。

この分身カフェのアイデアは、今は亡き相棒の番田雄太と2016年に思いついたんですね。番田は寝たきりだったけど、「一緒にカフェで働こうじゃないか、お店やろうじゃないか」と。あれから5年かかりましたが、

ようやく常設店をオープンさせることができました。

2021年6月21日に東京・日本橋に常設店がオープン


——「OriHime」は鼻や口もないシンプルな顔だと思いますが、それは何故でしょうか?

人が心地良いと感じる情報量は、人によって異なります。

電話がいい人、メールがいい人っていう違いがあるように、対面がいい人もいるけれども、対面が怖い人も当然いるわけですよね。

ですので、OriHimeをあえて能面的なデザインにすることで、不気味とかわいいの情報を与えておきながら、見る人たちの第一印象に揺らぎを与え、分身ロボットを操作・接客するリモートで働くスタッフの印象で収束させるという狙いがあります。


——おもしろいですね。あえて余白を設けているんですね。

そうですね、若干の物足りなさを残しています。そしてスタッフの皆さんが、各々自分のOriHimeに眼鏡をかけさせたり、服を着せたりして、アレンジしてくれていますね。

ロボットそのものも、私が全部作るのではなく、関わる人たちと一緒に作って完成するような余白を大切にしています。私は役割を独占するのが、とても嫌いなタイプの人間なので。

皆に役割があって、どうすればその人の能力を適材適所で生かせるのかということを日々考えています。孤独の解消が目指す社会像は「適材適所社会」だと思っています。


孤独を解消する方法を一つでも二つでも生み出すことが生き続ける理由

——吉藤さんは「人類の孤独の解消を目指す」を研究所の理念にも掲げていらっしゃいますが、なぜ、孤独の解消に人生を捧げようと思ったのでしょうか?

私自身が孤独になりたくないからです。

不登校だった小学5年生から中学2年生の3年半が、あまりにも辛かったんですよね。生きることが辛くて、むしろ死んだ方がいいんじゃないかと思ってしまう精神状態にありました。

もし皆さんの友達とか親友が死にたがっていたら、どうにかして引き留めようといろいろ考えるじゃないですか。だから私も、「死にたがっている自分をどうしたら引き留められるのか?」をずっと考えていました。

そんなとき、アメリカで開催されている科学フェアに行く機会を得て、そこに参加していた高校生と交流をした際に、「俺はこの研究をするために生まれてきた」と言っていて、それってすごくいいなと思ったんですよ。

生きる理由に対して悩まなくていいし、「命の使い方を決めてしまおう」と決意したのが17歳のときでした。

オリィ研究所の理念に「人類の孤独の解消を目指す」を掲げる吉藤さん


——命の使い方を決めるという発想、したことなかったです。

別にこれが正解というわけではなく、私が自分を死なせないためには一番この方法がいいなと思ったわけです。

そして何なら命をかけられるかと考えたときに、「自分が将来、どうなりたくないのか?」と自分に問いかけたら、また不登校みたいな状態になって、誰からも必要とされてない、むしろ社会の荷物であるというような状態に自分がなってしまうことは絶対に嫌だなと。

それが、孤独の解消に人生を捧げるきっかけになりました。

とにかく死ぬまでに、この世の中に孤独を解消する方法を一つでも二つでも生み出すということを生き続ける理由にしています。


——何を解決すれば、孤独は解消されるのでしょうか?

私の考えではありますが、そもそも孤独は「移動」「対話」「役割」という3つの障害を克服することで解消できるだろうと考えています。

具体的には、移動の克服においては、車椅子やOriHimeを開発したこと、対話の克服においてはOriHime eyeというALSの患者さんの意思伝達装置を製作したこと、役割の克服においては、肉体労働をテレワークで可能にする分身ロボットカフェの設立など、行動に起こしてきました。

ただ、誤算だったのは、世の中って意外と変わりにくい、ということ。なので、これからは孤独の解消に向けたコミュニティづくりの研究に取り組もうと思っています。

例えばスナックがあったとして、どういう条件なら人が集まる状態を再現できるのか?孤独なお年寄りがいる一方で、人が周りに集まる楽しい老後を過ごしている方もいて、その分岐点は何なのか?じゃあ孤独な状態からどうすれば抜け出せるのか?といったことを研究していきたいです。

分身ロボットカフェは、孤独の障害となっている
移動・対話・役割を克服


すごくいい人との出会いが人生をつくる

——吉藤さんはご自身の不登校の経験から、悩んでいる子どもたちのヒントになればと2015年から学校での講演活動にも力を入れているそうですが、どのようなことを伝えていらっしゃるのでしょうか?

私が不登校だった頃、「世の中は常に正しくて、私が間違っている」と思い込んでいたんです。当時「こうあるべき」と言われるのがすごく辛かった。

でも実際は、「こうあるべき」なんてことはどこにも存在しなかった。そしてロボットとの出会いや憧れの人との出会いを通して、少しずつ状況が変化していきました。

そういった経験から、好きなものだけではなく憧れの人であったり、こうなりたいという目標が見つかることで、今の苦しみや、頑張っている意味が分かってくることもあります。

どうか少しでも心の動くものや人に出会ったら、会いに行ったり、触れてみてほしいと伝えています。


——不登校のお子さんを持つ保護者の方や学校の先生、子どものやりたいことをどう見つけてあげたらよいのかなど、「子どもとの関わり方」に悩んでいる方に何かアドバイスをいただけますか?

不登校の理由や状況は一人ひとり異なるものなので、一言でコレというアドバイスはできません。

ただ、好きなことを見つけるための手伝いは、やっぱりした方がいいと思っています。

あとは、すごくいい人との出会いが人生をつくると、私は信じているタイプです。その人に合う友人であったり、恩師であったり。

大人だって、一人で立派になった人っていなくて、きっと影響を与えた「誰か」との出会いがあったはずなんですよね。その誰かに出会える確率を上げていく手助けをすることが大人の大事な役割ではないかなと思います。

吉藤さんは小学5年生から約3年半、不登校で引きこもりを経験


——いい人との出会いが人生をつくる。私にも心当たりがありますね。

私自身も、母が申し込んだロボットの大会で、久保田憲司先生という、後に私が進学する工業高校の恩師と出会ったんです。

勉強したいとか、学校に通いたいという思いはなかったのですが、「どうしても久保田先生のところで学びたい」という、先生への強い憧れの気持ちが生まれました。先生の圧倒的な物作りの力に惹かれたんですよね。

そんな憧れる人との出会いがあったから、「じゃあ受験しなきゃ、勉強しなきゃ」となって、少しずつ学校に戻ることができました。

さまざまな体験を通じて、子どもたち自身が好きなもの、熱中できること、憧れの対象を見つけていくので、大人が「正しい選択肢は何か」を考える必要はない。

ただ彼らが喜ぶような「リアクション」をすることで、いい循環が生まれるはずです。

私は「リアクションが人を育てる」と思っているので、そんな風にわれわれ大人は、次の世代と向き合い続けていければいいなと思ってます。

〈取材・文=先生の学校編集部/写真=ご本人提供〉