ボトムアップな職場づくりは、楽しい職場づくりから!「先生って楽しいな。俺らでも学校を変えられるな」そういう感覚をつくることが大事
埼玉県南部に位置する人口約14万人の戸田市では、近年ICTをはじめとする教育改革を積極的に推進し、次世代人材の育成に力を入れている。
その中でも、デジタル教科書を活用した取り組みを紹介する公開授業を行ったり、「ラーニングモジュール」という朝学習の教材を独自で開発したり、子どもたちの自主学習を促進する「学力ぐんぐんコーナー」に取り組むなど、学校独自の教育活動を盛んに行っているのが戸田東小学校だ。
その特徴は、若手教諭が中心となって進めるていること。今回は若手教諭の発案で始まった独自の取り組みを紹介するとともに、若い先生方の自主性を尊重する戸田東小学校のボトムアップな文化に迫る。
注)こちらの記事は、2020年3月(2019年度)の取材内容です
子どもたちの朝学習を変えた若手教諭発案のラーニングモジュール
戸田東小学校では、若手教諭の発案で始まった独自の取り組みがあると伺いました。
戸田東小学校では、『進取果敢』と『やっちゃえ戸田東!チャレンジを楽しもう』をスローガンに、教職員の「こんなこと、やってみたい」を大切にしてきました。
2017年から始めた「ラーニングモジュール」はまさに当時初任者だった髙橋先生と鈴木先生の発案で始まった取り組みです。
ラーニングモジュールは、週に2日、朝学習の15分(8時30分〜8時45分)を活用して、児童の心身のスイッチをオンにすること、成功体験を積み重ねること、動・静・動の繰り返しを行って集中力をアップすること、コミュニケーション能力の素地を育成することなど、非認知能力の育成を目的に始めた取り組みです。
非認知能力は、学力の基盤になると考えています。
具体的にはどのような取り組みでしょうか?
ラーニングモジュールは、音読(3分)+計算(3分)+フラッシュ(3分)+フリートーク(3分)の4つのパートで構成されています。
音読パートは、動・静・動の【動】の役割を担い、子どもたちが教室前方に映し出されたパワーポイントを見ながら、音読をします。
ポイントは、①大きな声、②リズム・テンポ、③間違えても大丈夫という雰囲気づくりです。
続いて計算パートは、【静】の役割を担い、決められたテキストの計算問題を3分間で解くという時間です。
ポイントは、①問題量を3分間でやり切れる量にすること、②1カ月間同じ問題にすることです。そうすることで、「できた」という成功体験を積み重ねることができます。
続いてフラッシュパートは、【動】の役割を担います。こちらはパワーポイントに映し出されたクイズ(四字熟語、ローマ字、国旗、都道府県、簡単な計算など)に瞬時に答えていくパートです。
ここでも①リズム・テンポを大切にしながら、②分からなければパスOKという心理的障壁を下げることがポイントです。
最後に、フリートークパートですが、こちらはテーマを設定し、そのテーマに対し約3〜4人くらいで輪になり、フリートークをするパートです。
フリートークでは、3つのアイテムを使ってコミュニケーションを楽しみましょうと伝えているのですが、それが【あいづち(意見を受け止める)】と【ナイスパス(話をふる)】【しりたいハテナ(話を深める)】の3つです。
実際の子どもたちの様子も拝見し、子どもたちがイキイキしているのが印象的でした。ラーニングモジュールというのは、どういったきっかけで始められたのでしょうか?
ある研修で登壇されていた長野県にある北相木小学校の松倉先生が、音読・算数・フラッシュカードなどのモジュールを実践されていて、戸田東小でも朝学習の15分にこれをやったらおもしろいのではと、主幹教諭の勝俣先生に話してみたら「じゃあ、やってみよう」と言われて(笑)。
それが初任者だった2017年12月のことです。
そこから、2018年4月には全校的に導入しようという話になり、3カ月間しか準備期間がなく、本当に大変でした(笑)。
発達段階に応じた内容にしないといけないですし、パワーポイントづくりも大変だったのではないでしょうか?
パワーポイントは月替りかつ各学年分を準備したので、常に自転車操業でした(笑)。でも、体力的には辛かったですが、子どもの活動する姿を想像したら楽しかったです。
パワーポイントの作成など教材づくりも大変でしたが、周りの先生方にとっても初めての試みでしたので、巻き込むのが大変でした。
体験してもらえると「楽しそうだね」となるのですが、先生たちのキャラクターやファシリテーション力が必要な取り組みだったので、何度か校内で研修を重ねました。
ゼロイチでやりたかったことを形にするという経験を通して、いかがでしたか?
任されるって育つな、と(笑)。
企画から教材づくりまで、全て自分たちで形にしたので大変でしたが、今では学校を代表する取り組みとなり、実際の様子を見てみたいと視察に来られる方もいらっしゃいます。
先日は外部の教員向けの研修でも取り組みを発表をさせていただきました。このような経験ってなかなかできないですよね。
基本的にやりたいことに対してダメと言われないので、伸び伸びやらせてもらえる環境に感謝しています。
教材づくりを終えて、最初の研修を終えたときはうれしくて泣きました。それくらい無我夢中でした。
そして、ラーニングモジュールの取り組みが一つのロールモデルとなって、その翌年には私たちの後輩が「イングリッシュモジュール」をイチから企画し、2019年4月よりラーニングモジュールに加え、イングリッシュモジュールも朝学習の時間で実施されるようになりました。
イングリッシュモジュールですか?
ラーニングモジュールの英語に特化したバージョンです。
私たちが1年目の9月頃に「やってみたら?」と声を掛けていただいて(笑)。12月くらいから準備に取り掛かりました。
英語も得意ではなかったですし、何から始めればいいのか分からなかったため大変でしたが、勝俣先生に助けていただき、乗り越えることができました。
2年目のお二人から見て、戸田東小学校はどのような職場ですか?
皆さんの意欲がすごいと思います。やる気に満ちている感じですね。
校長先生が話を聞いてくださり、やりたいという思いを受け入れてくださいます。
主幹の勝俣先生や小代校長先生の影響は大きいと思います。若手もベテランも打ち解けあって何でも気さくに話せる楽しい職場です。
若手の基準を変えてしまえば、学校はスムーズに変わる
若手の兄貴分として頼りにされている勝俣先生に伺いたいのですが、若手の先生の「やりたい」に伴走される上で大切にされていることはありますか?
心的安全性を確保することですね。
でもこれは、校長先生のおかげだと思います。私自身も安心してチャレンジできていますし、失敗もできます。
またスローガンに表現されている通り、チャレンジすることに価値を置いてくださっているので、チャレンジすると称賛されるという文化が、心的安全性につながっていると思います。
10年以上教員をやっていて、私は、これまで「出る杭はきっちり打たれる環境」に身を置いてきました。
すごく生きづらかったですし、何をやるにもこそこそやっていました。悪いことはしていないのに悪いことをしているようなモヤモヤした気持ちを抱えていました。
自分が苦しい若い時代を過ごしたので、若い人たちには苦しまないで、仕事は楽しいという感覚で働いてほしいです。
「持っている能力、全部出し切っていいから。」と。
次世代を育成する学校現場において、新しい挑戦が称賛され、変化を積極的に受け入れていく姿勢は大切ですよね。
私のテニスの師匠曰く、「人間の脳は、種の保存をするために、新しいことを拒む性質がある」そうです。
多くの先生方はそれに従っていると思うのですが、それを壊さないと学校教育は変わっていきません。私自身、主幹教諭という立場で、これまでの当たり前を壊していくことに挑戦していますが、なかなか難しいですね。
でも、若手の基準を変えてしまえば、学校はスムーズに変わるので、今は若手の育成に力を入れています。若手にどんどん権限委譲して任せていくことで、仕事の楽しみ方を教えていく。
「先生って楽しいな。俺らでも学校を変えられるな」、そういう感覚を作ることが大事だと思っています。
若手の先生方へ、ぜひメッセージをいただきたいです。
自分のやりたいことを突き詰めていってほしいです。他人にどう思われようと、しょせん他人の人生。
自分の人生で、自分の好きなことをやって、自分がしたいようにやってみてほしいです。その上での失敗でしか、糧にはならないと思います。
先輩たちが言っている基本は、これからの基本ではないかもしれない。
やはり若い人なりの感性があるので、その感覚の方に価値があるのだと思います。自分の感覚を大切に、自分のやりたいことをやってほしいと思います。
どんどんチャレンジしてください!
子どもの未来を想像できない先生に、子どもがワクワクする授業は創造できない
小代校長先生にぜひ伺いたいのですが、ボトムアップな職場をつくるために、どのようなことを大切に学校経営をされてこられたのでしょうか?
先生方がやりたいこと、チャレンジしたいことがあれば、まず、よく話を聞くように心がけています。頭からダメとは言いませんし、話の途中でダメとも言いません。
話を聞いて、こんな時はどうするの?こんな問題が起きないか?具体的な予算は?等について質問をします。
単に夢や希望を語るのではなく、具体的、現実的に考え、問題点の解決方法までしっかり思考してくれていると熱意が伝わってきます。
たとえ希望通り実現できなくても、その半分でも、10分の1でも実現させてやる努力を私自身がすることが大切だと思っています。
何を言っても動かない校長じゃ、ボトムアップは無理だと思います。
「出る杭は伸ばしてやる」くらいの気持ちでいたいですね。
チャレンジすることを積極的に推進されてきたのは、なぜでしょうか?
教員自身が変化することを楽しむ必要があると思ったからです。
新しいことにチャレンジすることは、変化しようとすることであり、それを楽しむことが大切だと思っています。
教員は変化を嫌う人が多いように感じています。未だにチョーク&トークで10年前と同じ様な授業を行なっている先生もおられるようですが、それは変えていかないといけないと思っています。
なぜなら、社会が劇的に変化しているのに、教育は取り残されていると感じているからです。
私は子どもの未来を想像できない先生に、子どもがワクワクする授業は創造できないと思っています。
未来に活躍する子どもの姿を想像した時、現状の教育活動では十分ではありません。教育そのものが変化しなければならないはずですが、危機感が感じられません。
どのようなきっかけでその思いがより強くなったのでしょうか?
外部の方といろいろお付き合いするようになり、世の中の変化の速さを身をもって感じたからです。
学校外の方を招いて特別授業などをしているうちに、お付き合いがどんどん広がり、最近では、マイクロソフトの教育機関向けソリューション「Microsoft365 Future Ready skills」の実証校にも選ばれました。
その成果発表の場に、若手と一緒に私も参加しましたが、先進的な教育を目の当たりにすることができ、本当に刺激的な時間を過ごしました。
もっと積極的に変化しなければダメだと感じると共に、教職員一人ひとりにも目を向けさせることが必要だと思いました。
外部にも目を向けられたらいいのですが、実際は難しいので、本校では校内研修に力を入れています。
外部の方を招いての校内研修が多いのでしょうか?
そうですね。校内研修では、学校の中では出会えない人とのつながりを生むことを大切にしています。
外部の方に来てもらうと、私たち教員とは視点が違うし、いろいろと学ぶことがあります。
最後に、先生方へメッセージをお願いします。
言われたことや決まったことをやるだけの教育活動で満足して、小さくまとまらないでほしいです。教員となって何を行うかが大切で、教育に夢を持って取り組んでほしいです。
教員は学校に来ると、学校の中で仕事が完結してしまいます。異なる文化や他職種の人と触れ合う機会はまずありません。これは教員の視野を狭め、人としての器を小さくしてしまう元凶だと思っています。
「学校の常識は、社会の非常識」とも言います。
教員としてはもちろん、社会人として、人としての成長も願っています。
そのためには、学校から外に出て教員以外の人たちと交流し刺激を受けることが大切だと思います。そうすることで幅の広い、応用の利く先生に育つのではないでしょうか。
最後に…戸田東小学校の名物「学力ぐんぐんコーナー」について、プロジェクトリーダーの下山先生に聞きました!
「学力ぐんぐんコーナー」とは、どのような取り組みでしょうか?
子どもたちの自主学習を促進する取り組みです。
廊下に「学力ぐんぐんコーナー」を設けて、自主学習用のプリントを子どもたちが好きな時間に取りに来て、自主的に学習を進められるようにと始めた取り組みです。
それだけで子どもたちは積極的に自主学習を進めるのでしょうか?
ただ置いておくだけでは難しいため、学力向上プロジェクトメンバーで、「学力ぐんぐんコーナー」をイベント化することで、子どもたちが楽しみながら飽きずに自主学習に取り組めるようにしました。
例えば、段ボールでガチャガチャを作り、自主学習したプリントを何枚かためるとガチャガチャができる、というようなイベントを実施しました。
ガチャガチャの中身はポケモンのキャラクターを印刷して入れて、獲得したポケモンは、廊下に掲示しているポケモン広場と題した台紙に貼ることができるようにし、どのクラスが1番ポケモンをゲットできるか、といったような子ども心をくすぐる仕立てにしました。
特に低学年の子どもたちは、夢中で取り組んでいましたね。
おもしろいですね。
校長先生を絡めたイベントも企画させていただいたこともあります(笑)。
中学年は、自主学習プリントの点数で競い合うこともやっていたのですが、その上位の子には校長先生とお茶会ができるチケットを発行しました。
高学年は、自主学習プリントを100枚ためられたら、1日校庭をジャックできるといったイベントも企画しました。
子どもたちの反応はいかがでしたか?
担当している1年生のクラスでいうと、最初はこちら側が参加を促すと取り組むといった状態でしたが、年度の後半は子どもたちが自主的に取り組むようになりました。
ただ高学年は課題が残っていますね。
それぞれやりたいことがあったりするので、どうしても優先順位が下がってしまいます。
これからも試行錯誤していきたいと思っています。
この1年間、プロジェクトリーダーを取り組まれていかがでしたか?
最初は大変な気持ちの方が大きかったですし、人手も時間も足りず大変でしたが、プロジェクトメンバーにも恵まれ、楽しいという気持ちに変わってからは、得られるものがありました。