1. TOPページ
  2. 読む
  3. 【第7回】教育現場で生かせるコーチングの考え方について「質問(問いかけ)」編/そ・・・

【第7回】教育現場で生かせるコーチングの考え方について「質問(問いかけ)」編/その2

【第7回】教育現場で生かせるコーチングの考え方について「質問(問いかけ)」編/その2

なぜ今、教育の世界で「コーチング」や「ファシリテーション」が注目されているのか?

伴走者として、学び手に関わる方々が、学び手の主体的・対話的な学びを加速させるために有効なコーチング(的な関わり)や、ファシリテーションスキルを紹介する連載です。

写真:木村 彰宏(きむら あきひろ)さん
木村 彰宏(きむら あきひろ)さん
復興支援NPO職員、小学校の教師というキャリアの後、株式会社LITALICOに入社してLITALICOジュニア事業部にて子どもたちの発達支援に関わる。その後、人材開発部にて教育に興味関心ある学生や社会人のキャリア支援に従事。2020年4月からは、コーチングを通じて起業家や経営者をサポートする株式会社コーチェットにジョインし、トレーナー兼コーチとして活動。2021年4月からは軽井沢風越学園に参画し、5年ぶりに学校に戻って教育に関わっている。その他、複業として、プロコーチとしての業務、研修・WS設計、ファシリテーション業務、キャリア教育、教員の伴走支援などさまざまな活動を行っている。LEGO®︎ SERIOUS PLAY®︎ メソッドファシリテーター。


この連載では、支援者・伴走者として学び手に関わる方々が、学び手の主体的・対話的な学びを加速させるために有効な、コーチング的な関わりやファシリテーションスキルを紹介させていただいています。

※ 本連載で「コーチング」ではなく「コーチング的な関わり」という表現を使っているのは、私が教育現場においてコーチングのスキルや考え方・マインドセットなどが活用できると考えている一方、子どもたちに対して教育現場の中で行うその関わりは、あくまで純粋な「コーチング」ではないと線を引くためです

さて、第7回となる今回は、第2回・4回・5回・6回目に引き続き、支援者・伴走者として学び手に関わっていらっしゃる皆さまが、現場で生かせるコーチングの考え方やスキルについて、お伝えします。

※ なお、本連載においては、コーチングやファシリテーションの定義や方法論に固執するのではなく、紹介させていただくポイントを参照、実践いただきながら、学びの伴走者として皆さまご自身にとってのコーチングやファシリーテーションの可能性を模索していただければうれしく思います

前回(第6回)は、コーチングやコーチング的な関わり方における「質問(問いかけ)」の目的、コーチングやコーチング的な関わりを行う上で大切にしたいマインドセットについてお伝えしました。今回も、前回に引き続き「質問(問いかけ)」について取り上げます。

今回は、支援・伴走している相手の主体性を引き出したり、相手に自分の力で考え行動してもらう目的でコーチング的に関わる際に、具体的にどのように「質問(問いかけ)」(以下、質問と省略)を考えていけばいいか、目的に応じて質問が上手くできるようになるために、どんな視点を持っておくと良いかについてご紹介します。


意図を持った質問(問いかけ)を意識してみよう

皆さまは、他者に質問をする際に、明確な意図を持って質問をすることができていますでしょうか?

相手の主体性を引き出したり、相手に自分の力で考え、行動してもらう、コーチング的な関わり方での質問が上達していく前提として、質問の意図を意識することが重要になります。

その関わりをすることで、相手の思考や感情にどのような変化がおこるかを予測した上で、質問を投げかけるということです。

「意図を持って質問をするなんて、そんなの当然だろう」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、1回のコミュニケーションの中で、全ての質問の意図をしっかりと意識してみるというのは、これが案外難しいのです。

例えば、支援・伴走している相手とのコミュニケーションを録音して文字起こしをして自分が行った質問一つひとつを分析してみると、その場面でなぜその質問をしたのか、それによって相手の思考や感情にどのような変化を起こしたかったのか言葉に詰まることがあります。

そして、そんな意図を自分で説明できない質問を行った場面では、相手の思考や感情に望ましい変化を起こすことができていないことが多いです。

もちろん、日頃のコミュニケーションから「全ての質問に意図を持たなければ」などと考えると疲れてしまいますが、相手の主体性を引き出したり、相手に自分の力で考え行動してもらう目的で、コーチング的に質問を多く活用するコミュニケーションを行う際には、ぜひ意図を持った質問を意識してみてください

そんな前提を踏まえ、今回は4つの視点で質問の種類やその効果についてお伝えします。


【1】オープンクエスチョン、クローズドクエスチョン

この概念については、『HOPE』を購読されているアンテナの高い皆さまはご存知の方も多いかと思いますが、念のためご紹介しておきます。

質問は、大きく分けると以下の図のように「オープン・クエスチョン」「クローズド・クエスチョン」の2種類に分類できます。

出典:『コーチングの基本』コーチ・エィ(著)


コーチングやコーチング的な関わりを行う際には、クローズド・クエスチョンはあまり使いません。

連載第6回でコーチングやコーチング的な関わりにおけるマインドセット、「答えは相手の中にある」「相手のために質問をする」をご紹介しましたが、クローズド・クエスチョンを使用しすぎる関わりは、そんなマインドセットの意に反して、質問者に主導権があるコミュニケーションになるためです。

皆さまも、支援・伴走している相手の主体性を引き出したり、相手に自分で考え、意思決定や行動をしてもらう目的でコーチング的に関わる際には、意図的にオープン・クエスチョンを活用してみてください。


【2】限定質問と拡大質問

【1】で取り上げた「オープン・クエスチョン」は、さらに「限定質問」と「拡大質問」に分類できます。

限定質問とは、「いつまでに?」「どこで?」「誰と?」など、ものごとを特定していく質問です。こちらは、相手の行動プランをより明確にしたり、目標を具体的に設定したりすることをサポートする際に有効です。

一方、拡大質問とは「一番望んでいることは?」「どのような結果になるだろう?」「どんな可能性がありそう?」など、相手の考えを広げたり、深めたりすることをサポートする際に活用していきます。

コーチングやコーチング的な関わりを行う際には一般的に、1回のコミュニケーションの中の序盤や中盤には、拡大質問を多く使って相手にじっくり考えてもらう時間を取り、終盤になると限定質問を使って、ここから先の行動計画の設定などを行うことが多いです。


【3】深める質問、広げる質問、意味を問う質問

【2】で紹介した「拡大質問」は、さらに分類すると「深める質問」「広げる質問」「意味を問う質問」に分けられます。

深める質問には、「例えば?」「具体的には?」「というと?」「どんな気持ち?」などがあります。これらの質問は、相手が認識している内容の解像度を高める効果があります。

広げる質問には、「他には?」「何でもできるとしたら、何がしたいの?」「もし時間が巻き戻せるとしたら、どうしてみたい?」などがあります。これらの質問には、相手の視野を広げたり、見ている視点を変えたりする効果があります。

意味を問う質問には、「どうしてそれが大切なんだろう?」「あなたにとってどんな意味があるの?」「根っこには、どんな願いがあるんだろう?」などがあります。

これらの質問を組み合わせ、相手の考えやその背景にある思い・願いを整理するサポートをしたり、理想を言語化するサポートをしたり、そこまでの道筋を明確化するサポートをしたりするのが、コーチングやコーチング的な関わりにおける、コーチや支援者・伴走者の大きな役割になります。


【4】質問、発問、問いの違い

【1】~【3】と、質問の種類やその効果についてお伝えしてきたのですが、最後にお伝えしておきたいのが以下の図で説明している質問・発問・問いの比較整理の視点です。

出典:『問いのデザイン』安斎勇樹(著)塩瀬隆之(著)


この記事の序盤で、「質問」を「質問(問いかけ)」と表現していたのは、コーチングやコーチング的な関わりにおける質問は、比較整理でいうところの「質問」とは異なるものだと区別がしたかったからです。

私はこの連載の第1回から、コーチングやファシリテーションの共通点について  “ティーチングやコンサルティングのように専門家が答えや知識を与える関わりではなく、伴走者が学び手に問うことや引き出そうと働きかけることを通じて、学び手が自分自身で考えや意見、また答えを見出していくことをサポートする関わりである” とお伝えしてきました。

そんな定義も踏まえてお伝えしたいのは、コーチングやコーチング的な関わりに用いる質問とは、比較整理でいうところの、相手が既に自分で知っている情報を引き出すトリガーとしての「質問」ではなく、それを投げることによって相手がまだ自分でも知らない答えを考えるきっかけとなる「発問」や「問い」であることが多いということです。

皆さまが、意図を持って相手に質問し、支援・伴走している相手の主体性を引き出したり、相手に自分で考え、意思決定や行動をしてもらう目的でコーチング的に関わる際には、ぜひ、質問の種類やその効果に加えて、自分の関わりが比較整理でいう「質問」ではなく「発問」や「問い」になっているかどうかも意識してみてください。

今回は、支援・伴走している相手の主体性を引き出したり、相手に自分の力で考え行動してもらう目的でコーチング的に関わる際に、具体的にどのように「質問(問いかけ)」を考えていけばいいか、目的に応じて質問が上手くできるようになるためにどんな視点を持っておくと良いか、について紹介しました。

本記事の内容が、変化が激しく未来が見通しにくい今の時代に伴走者として学び手に関わる皆さまにとって、学び手のより良い成長・変容に関わる際の一助となっていれば幸いです。

連載内容について何かご質問等ございましたら、いつでもTwitter(@1130kimura)のDMにてご連絡くださいませ。