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【第5回】教育現場で活かせるコーチングの考え方について「承認」編

【第5回】教育現場で活かせるコーチングの考え方について「承認」編

なぜ今、教育の世界で「コーチング」や「ファシリテーション」が注目されているのか?

伴走者として、学び手に関わる方々が、学び手の主体的・対話的な学びを加速させるために有効なコーチング(的な関わり)や、ファシリテーションスキルを紹介する連載です。

写真:木村 彰宏(きむら あきひろ)
木村 彰宏(きむら あきひろ)
復興支援NPO職員、小学校の教師というキャリアの後、株式会社LITALICOに入社してLITALICOジュニア事業部にて子どもたちの発達支援に関わった後、人材開発部にて教育に興味関心ある学生や社会人のキャリア支援に従事。2020年4月からは、コーチングを通じて起業家や経営者をサポートする株式会社コーチェットのトレーナー兼コーチとして活動。2021年4月からは軽井沢風越学園に参画し、5年ぶりに学校に戻って教育に関わっている。その他、コーチング業務、研修・WS設計、ファシリテーション業務、キャリア教育、教員の伴走支援などさまざまな活動を行っている。LEGO®︎SERIOUS PLAY®︎ メソッドファシリテータ。

この連載では、支援者・伴走者として学び手に関わる方々が、学び手の主体的・対話的な学びを加速させるために有効な、コーチング的な関わりやファシリテーションスキルを紹介させていただいています。

※ 本連載で「コーチング」ではなく「コーチング的な関わり」という表現を使っているのは、私が教育現場においてコーチングのスキルや考え方・マインドセットなどが活用できると考えている一方、子どもたちに対して教育現場の中で行うその関わりは、あくまで純粋な「コーチング」ではないと線を引くためです

さて、第5回となる今回は、第2回・第4回に引き続き、子どもたちに伴走される教育関係者の皆さまが、教育現場で活かせるコーチングの考え方について、お伝えできればと思います。

※ なお、本連載においては、コーチングやファシリテーションの定義や方法論に固執するのではなく、紹介させていただくポイントを参照、実践いただきながら、学びの伴走者として皆さまご自身にとってのコーチングやファシリーテーションの可能性を模索していただければうれしく思います

今回取り上げたいコーチングのスキルは、「承認」のスキルです。

前回お伝えした「傾聴」や、次回以降でお伝えしようと考えている「質問」と並び、コーチングに関する参考書などを覗いてみると、よく紹介されているスキルの一つです。

「傾聴」と「質問」は、単語の意味からも想像しやすいのですが、「承認」については人によって解釈が異なる場合があり、「褒めることと何が違うの?」と疑問を持つ方がいらっしゃるなど、比較的理解が難しいようです。

今回のこの記事が、支援者・伴走者として学び手に関わる皆さまが必要に応じて承認のスキルを活用できる一助となれば幸いです。


「褒める」と「承認」の違い

さて、ここでこの記事を読んでくださっている皆さまにも質問をしてみたいのですが、皆さまは「褒める」と「承認」の違いについて説明することができますでしょうか?

「褒める」とは、例えば「凄いね」「偉いね」「上手だね」など、支援者・伴走者側の主観的な評価が入るアプローチです。

一方で、「承認」は、褒めること自体ではなく、「考え感情スキル経験成果(成長)/努力/価値観」など、相手が持つ何らかの属性にスポットを当て、良い悪いの判断抜きに言及することを指します。

例えば、「うれしかったんだね」「今日も取り組めたんだね」「やり遂げたね」「先週よりも1分早くできるようになったね」といった具合です。

上記のような「承認」の関わりは、相手の「認めてもらえた」という感情につながると共に信頼の土台を築き、成長に対する意識や意欲を向上させたりして、自発的・主体的な行動を促します。

コーチングでは、クライアントを褒めるのではなく承認する関わりが大切だと言われているのですが、それは褒めてしまうとそこに「評価する者/される者」という構図が生まれてしまい相手がメッセージを受け取りにくくなったり、ともすればコミュニケーションそのものの目的が「コーチ(コーチング的な関わりをされている相手)に褒めてもらうこと」になってしまうからです。

これは、コーチングのコミュニケーションに限らず、支援者や伴走者の方々が学び手に対して関わる際にも同じことが言えます。

例えば学校や家庭での学習場面において、自分が大好きな先生や親から褒められると、うれしくなって「よし、また頑張ろう」とさらに学習に力が入るかもしれません。短期的にはそれが、教師や親の望む成果につながることもあるでしょう。しかし、何度もその関わりが続いていくと、ともすれば先生や親に褒められること自体が、学習を頑張る目的になってしまいかねないのです。

勿論、学び手が、支援者や伴走者から褒められることを目的に頑張ることが決して駄目だと言うつもりはありませんが、この連載のテーマでもある「学び手の主体的・対話的な学びを加速させるために有効な関わり」として「褒める」と「承認」を比べてみると、支援者や伴走者に求められるスキルとしてはやはり後者が望ましいと言えるのではないでしょうか。


4種類の「承認」

そんな承認ですが、具体的には「存在承認」「行動承認」「成果承認」「成長承認」という4つの種類があります。

「存在承認」とは、相手の存在に気づいていることを伝えることです。具体的には、挨拶や相槌、目線を合わせる、感情を認めるなどがあります。

「行動承認」とは、望ましい行動に気づき伝えることで、「取り組んでみたんだね」「聞いてみたんだね」「調べてみたんだね」など相手の行動に対するフィードバックがあります。

「成果承認」とは、成果や達成について認め伝えることで、「最後までやり遂げたんだね」「目標をクリアしたんだね」などが例として挙げられます。

そして「成長承認」とは、成長や変化を認め伝えることです。「前よりも早くなったね」「前より集中して勉強できるようになったね」などが挙げられます。

いかがでしょうか?

この中で、支援者・伴走者である皆さまが普段学び手の方々に対してよくされている承認はありますでしょうか?逆に、あまり使えていない承認はどれでしょうか?

ぜひ、皆さまが普段関わられる学び手の方々との信頼の土台を築くため、成長に対する意識や意欲向上をサポートするため、そして自発的・主体的な学びや行動を促すためにも、意識して「承認」の関わりを行ってみてください。

ちなみに、「存在承認」「行動承認」「成果承認」「成長承認」の4つの承認に共通して言えることは、その関わりをするためには、そもそも普段から相手のことをよく観察しておく必要があるということです。でなければ、相手の感情や行動、成果、成長を丁寧に認めることはできません。

皆さまは、学び手の方々のことをよく観ることができていますでしょうか?

第4回の記事で書かせていただいたように、4月から学校現場に戻り気がつけば半年が過ぎましたが、「一人ひとりをよく観る」、これは言うは易く、行うは難しだと痛感しています。

ですがそれこそが、この連載のテーマでもある「支援者・伴走者として学び手に関わる方々が、学び手の主体的・対話的な学びを加速させるために有効な、コーチング的な関わりやファシリテーションスキル」の最初の一歩だとも、改めて感じています。

今回の内容が、変化が激しく未来が見通しにくい今の時代に伴走者として学び手に関わる皆さまにとって、学び手のより良い成長・変容に関わる際の一助となれば幸いです。

連載内容について何かご質問等ございましたら、Twitter(@1130kimura)のDMにてご連絡くださいませ。