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【第2回】教育現場で生かせるコーチングの考え方

【第2回】教育現場で生かせるコーチングの考え方

なぜ今、教育の世界で「コーチング」や「ファシリテーション」が注目されているのか?

伴走者として、学び手に関わる方々が、学び手の主体的・対話的な学びを加速させるために有効なコーチング(的な関わり)や、ファシリテーションスキルを紹介する連載です。

写真:木村 彰宏(きむら あきひろ)
木村 彰宏(きむら あきひろ)
復興支援NPO職員、小学校の教員というキャリアの後、株式会社LITALICOに入社し、現在は教育キャリアアドバイザーとして活動中。また、2020年4月より、コーチングを通じて起業家や経営者をサポートする株式会社コーチェットのトレーナー兼コーチとして活躍中。その他、研修・WS設計、ファシリテーション業務、島根県津和野町幼児教育アドバイザー、キャリア教育、教員支援などさまざまな活動に従事。

この連載では、伴走者として学び手に関わる方々が、学び手の主体的・対話的な学びを加速させるために有効なコーチング的な関わりやファシリテーションスキルを紹介させていただいています。

第2回となる今回は、教育現場で生かせるコーチングの考え方について、お伝えしたいと思います。

突然ですが、今まで誰かの目標達成を支援されたことはありますか?

例えば授業、例えば学習支援、例えば部活動、例えば学級活動…。
先生の学校の会員の方であれば、おそらく馴染みの深い関わりなのではないでしょうか。


第1回「なぜ、コーチングやファシリテーションスキルが注目されているのか?」の中では、 ”コーチングやファシリテーションの定義や意味づけは一意的でなく、人や組織によってさまざまな使われ方をされているのが実情です。” と書いたのですが、コーチングという言葉が持つそもそもの意味を目線合わせするために、コーチングの成り立ちを少しだけお話します。

コーチングの歴史を遡っていくと、「コーチ (Coach)」という言葉が最初に登場したのは1500年代のことで、その語源は馬車だと言われています。「大切な人をその人が望むところまで送り届ける」という馬車の役割、そこから派生してコーチングは、「人の目標達成を支援する」という意味で使われるようになったのです。

その後、「コーチ」 は個人や組織の目標達成を支援する存在として、教育、スポーツなどさまざまな分野で発展を遂げることになります。

上記のようなコーチングの成り立ちや、その言葉が持つ「人の目標達成を支援する」という意味を、これからの時代を生きる子どもたちに育みたい力をどう育成していくのかという観点で見てみると、そもそもコーチングというものが、特にこれからの時代の教育と相性の良い考え方だということが分かります。

例えば、さまざまな個性の子どもたちが未来を創る当事者(チェンジ・メイカー)になっていくための教育環境づくりとして、経済産業省「未来の教室」とEdTech研究会が2019年6月に提言した「未来の教室」ビジョンでは、変化が激しく未来が見通しにくいこれからの時代に、子どもに求める力を育むための3つの柱の一つとして「学びの自立化・個別最適化」が挙げられています。

また、「未来の教室」ビジョンの中で、今後求められる9つのアクションの一つとして「知識はEdTechで学んで効率的に獲得し、探究・プロジェクト型学習(PBL)に没頭する時間を捻出」という記載があります。

学びの自立化・個別最適化も、探究・プロジェクト型学習(PBL)も、教育者が一方的に教え込む「ティーチング」だけでは成立せず、そこには目標達成の支援をしながら共に伴走していくコーチング的関わりが求められると言えます。


このように、これからの時代の教育にはますます、学習者の目標達成の支援をするコーチング的な関わりが必要になってくるのですが、今回はその中でも教育現場で生かせる2つの考え方をお伝えしたいと思います。(本当はもっとたくさんお伝えしたいのですが、それはまたどこかの機会で…)

一つ目は、コーチングをする際に持っておくべきマインドセットについてです。

コーチングでは、コーチは「クライアントと信頼関係を築こうとする」「クライアントの可能性を信じる」「クライアントの最大の支援者であろうとする」といったマインドセットを持っていなければいけません。

コーチはクライアントに問いを投げかけることを通して、本人の思考を促し目標達成の支援をしていくのですが、そもそも信頼関係が築けていない相手、もしくは築こうとしているように感じられない相手にいくら問いを投げかけられても、自分の考えや悩みを話そうとは思えませんよね。これは、子どもたちも、そして皆さまも、同じではないでしょうか。

また、コーチがクライアントの可能性を信じきれておらず、「どうせできないだろう」といった考えを持っていたり、心からそう思えていないのに形だけ「応援しています」とメッセージを送っていると、それらの考えは相手に伝わりマイナスの影響を与えてしまいます。

これは、アメリカの心理学者ローゼンタールが、教員からの期待があるかないかによって生徒の学習成績が左右されるという実験結果を報告した「ピグマリオン効果/ゴーレム効果」でも実証されています。

このピグマリオン効果/ゴーレム効果には、「実証されておらず再現性がない」「あくまで教員や指導的立場にある人物の心構えの概念と考えるべきだ」といった意見もあるのが実情ですが、皆さんが何かのチャレンジをしようとしているときに、応援してほしい人が心から応援してくれているか、どうせ無理だと思われているか、どちらが自分のモチベーションになるかを考えれば、伴走者としての望ましいマインドセットについては一目瞭然ではないかと思います。

ぜひ、ご紹介したマインドセットを、「学び手と信頼関係を築こうとする」「学び手の可能性を信じる」「学び手の最大の支援者であろうとする」という言葉に置き換えて、日頃の関わりの中で意識してみてください。


二つ目は、コーチングを通してクライアントの目標達成をサポートする際に非常に重要になる「バックキャスティング思考」という考え方についてです。

コーチングでは、今やるべきことを未来の理想の状態から逆算する「バックキャスティング思考」を用います。これは、現在の延長線上に未来を描く「フォアキャスティング思考」と比べると、より高い目標に意識が向けられることになります。

コーチがコーチングのたびに、バックキャスティング思考を用いて、クライアントが未来の理想の状態を意識できる問いを投げながら、たどり着きたい目標設定やそこに向かう具体的な行動をサポートすることができると、クライアントはフォアキャスティング思考に比べて自分が行きたいと願う「より良い場所」にたどり着いている可能性が高くなるのです。

さて、これを教育現場に転用して考えるとどうなるでしょうか。

もちろん、全ての教育活動の中で、子どもたち自身に目指す理想の状態を考えてもらい、そこから逆算して学習活動を考えることは難しいかもしれませんが、例えば先に紹介した学びの自立化や、探究・プロジェクト型学習(PBL)など、より本人の主体性が求められる学習活動においては、まさにこのような関わりが求められるはずです。

ただし、バックキャスティング思考を用いてコーチングし、クライアントの行動を促す際に忘れてはならないのは、理想の状態や次に取りたい行動は、本人の中から語られ自己決定する必要があるということです。決して、こちらが設定した目標に無理やり連れて行くのではありません。

ぜひ、皆さまが学び手の方の目標達成を支援される際に、このバックキャスティング思考の考え方も生かしてみてください。

いかがでしたでしょうか。今回の内容が、変化が激しく未来が見通しにくい今の時代に伴走者として学び手に関わる皆さまにとって、学び手のより良い成長・変容を行う際の一助となれば幸いです。

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