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学校中が熱のこもったプロジェクトであふれる、軽井沢風越学園のアウトプットデイ。前日準備と当日の様子を、密着レポート!

学校中が熱のこもったプロジェクトであふれる、軽井沢風越学園のアウトプットデイ。前日準備と当日の様子を、密着レポート!

皆さん、こんにちは!「先生の学校」編集部の岩田 龍明(いわたつ)です。
今回、先生の学校編集部は、2024年10月に軽井沢風越学園で開催された「アウトプットデイ」に参加してきました。

アウトプットデイとは、子どもたちがプロジェクトで学んだことを、学校の仲間たち、スタッフ、保護者や地域の人、プロジェクトを通じてお世話になった人に対して発表し、フィードバックをもらうことで、つくり手として新たな学びや気づきを得る時間です。

学校中で繰り広げられる子どもたちの熱のこもったアウトプットに対して、立場も年齢も超えてフィードバックし合う姿に、驚きっぱなしの1日でした。

前日準備から取材に出かけたので、準備からアウトプットデイ当日の様子まで、たっぷりとレポートしていきます!

写真:
岩瀬 直樹(いわせ なおき)さん【写真左】
軽井沢風越学園 校長

井上太智(いのうえ たいち)さん【写真中央】
軽井沢風越学園 スタッフ

栗山梓(くりやま あずさ)さん【写真右】
軽井沢風越学園 スタッフ


途中の作品にもフィードバックを得られるように

アウトプットデイ前日。
校長の岩瀬直樹さんが出迎えてくださいました。

学校の中には、発表直前まで自分のプロジェクトを進めたり、プレゼンのリハーサルをする子どもたちの様子が見られました。「テーマプロジェクト」「マイプロジェクト」どちらのプロジェクトについても、学びを披露する機会があるようで、準備に大忙しの子どもたち。

そんな中「どんなプロジェクトをしているの?」と声を掛けると、とても丁寧に、そして目をキラキラと輝かせながら「自分がやっているプロジェクト、おもしろいでしょ!」と言わんばかりの表情で話してくれました。

アウトプットデイを当日運営するのも、つくり手である子どもたち。子ども実行委員会の子どもたちと岩瀬さんがマイプロジェクトで「プログラム」として実施している「ファシリテーショントレーニング」(以下、ファシトレ)で、ファシリテーションについて学んでいる有志の子たちが、事前準備も含めて協力しているそうです。

前日に近隣地域に住んでいる参加者向けオリエンテーションのリハーサルをしていた、ファシトレのメンバーであるちーちゃんに、話を聞きました。

アウトプットデイを見てもらうと分かるのですが、学校中がとにかくプロジェクトでいっぱいになります。

小さい子でも難しいことをやっていたり、自分が思いつきもしないことにもいっぱい出会うから、とにかく自分の世界を広げられている感じがするんです。

今回のアウトプットデイで私は、全体のファシリテーションを担当しています。もともとはあまり人前に立つのが好きだったわけではないのですが、校長のゴリさん(岩瀬さんの愛称)が開いてくれたファシトレがきっかけで、段々としゃべれるようになってきました。

今でもアドリブとかはやっぱり苦手ですけどね(笑)

今回の取材は、岩瀬さんが「アウトプットデイだけでなく、前日の準備の時間の様子もぜひ見てほしい」とお声掛けくださったことがきっかけで実現しました。

前日準備の様子から見ていただけてよかったです。当日の子どもたちはとても輝いていますが、それまでにどれくらい泥臭く準備してきたかも知ってもらいたいと思っていたからです。

特にマイプロジェクトの時間には、途中で『やりたいことが見つからない』と停滞してしまうこともあります。でも9年生とかに聞くと、『今振り返れば、やることがない時期って大事だったよね。あの時期はやることが決まらなくて、すごくモヤモヤしたけど』と言っていて。

子どもにとって、停滞して立ち止まるような時間が大事になってくるのであれば、大人もその時間を大事なものとして捉えられるかがポイントになってきます。

プロジェクトが止まってしまったとき、必要とする関わり方は人それぞれ違う。変わる機会さえあれば自分で突破できる子もいれば、ちょっと背中を押した方が突破できる子もいます。

マイプロジェクトのアウトプットは、発表するかしないかを自分で選べるエントリー制なのですが、当日までに完成しない子もいる。

そこで昨年度のアウトプットデイからは、子どもたちから出てきた『途中の作品にもフィードバックを得られるようにしたい』というアイデアを取り入れ、製作中の作品を展示し、フィードバックをもらえる場として『とちゅうのてんじ  ま〜い〜プロ展』という展示が誕生したんです。

常に子どもが学校の真ん中にいる風越学園。

子どもが、自身を「つくり手」と自覚し、常に「この学校がどうあったら、皆にとって居心地がいいか?」を考えて行動していることが伝わってくるエピソードでした。


ゴールすら、子どもと一緒につくる

プロジェクトの学びに手探りで取り組んでいるのは、子どもたちだけではありません。スタッフとして働く大人たちも、毎日が試行錯誤の連続だそうです。

公立中学校での勤務を経て、開校準備から同校で働く井上太智(いのうえ たいち)さんに、プロジェクトのおもしろさとはどんなところにあるのか、聞いてみました。

結局プロジェクトの学びって、僕たちも子ども時代に経験していない学びなんですよね。大人も子どもも経験していないことを一緒につくっていけるところに価値があると思っています。

僕の専門教科は理科ですが、教科の時間は教える授業にしていないつもりでも、僕の土俵の上に立っている感じになりがちなんです。

でもプロジェクトでは、ゴールすら子どもと一緒につくっていけて、大人側にも発見があって、子どもと一緒に『おもしろいね!』と楽しめる。気づいたら『こんな景色のところにきちゃったよ!』みたいな感じがおもしろさですね。

時には苦しさもありますが、常に実験的に授業をしているような感覚があります。

常に子どもと一緒に学びや学校をつくっている風越学園では、日々「教員とはどんな存在なのだろう?」という問いと向き合っている感覚があると、井上さんは語ります。

自分の中で『教員と呼ばれる人たちの役割や存在とは何か?』を日々問うているのですが、これは風越のスタッフだけが向き合っている問いじゃないと思います。

僕はもともと公立中学校で働いていましたが『教員ってどんな存在なのか?』『教室が子どもたちにとってどういう場であればいいのか?』ということを常に自分に問いかけていました。

この問いに向き合い続けることは、風越でも公立学校でも大事なことだと思いますし、そういうあり方で過ごすことができれば、公立学校でもおもしろいことがきっと起きると思っています。

開校して5年経った現在も、同校のプロジェクトの学びは日々変化しているそうです。実際に2022年度までマイプロジェクトは「わたしをつくる」という名前の授業だったとか。

名前が変わったのは、「『わたしをつくる』の時間だけで私がつくられているんじゃなくて、風越での経験の総体がわたしをつくっているんじゃないの?」というある子の声がきっかけだったといいます。

この過渡期に風越学園にジョインし、マイプロジェクトを探究するチームに参加したのが、スタッフの栗山梓(くりやま あずさ)さん。栗山さんが同校で働く中で見えてきた「いいプロジェクト」とは、どのようなものなのでしょうか?

私が見ていて『いいマイプロだな』と思うのは、子ども自身がメラメラ燃えている感じのものです。

今年のマイプロは、子どもたちの興味関心からスタートしたものもあれば、校長のゴリさん主催のファシトレのように、スタッフが提示するものを選ぶようなものもあります。

プログラムのように、スタートはスタッフから『これやってみない?』と手渡されたものであっても、マイプロの枠を超えて『やってみたい』『休み時間に練習しよう』『課題がある、急がなきゃ』と熱中している感じが見えてくると、『いいプロジェクトだな』って思います。

子どもたちは、風越が授業やテーマプロジェクトをつくるときに大事にしている『身体性』『当事者性』『コミュニティ』という観点に基づいた6つの視点から、日々のプロジェクトを振り返っています。

6つの視点とは次の通りです。

・五体(体のどの部分を使ったか?)
・五感(五感のどこで味わっている?)
・マジか(マジになってる?)
・自分に対する新たな発見(マイプロを通して見えてきた「新たな自分」とは?)
・深まり(一緒にプロジェクトを進めている仲間と協働している?)
・広がり(仲間を増やしたり、専門家と関わったりしている?)

この振り返りは、評価のためというよりも、自分のマイプロが今どんな状態なのかをチェックするような項目で、それぞれ5段階のレーダーチャートになっています。

特に子どもたちがそのプロジェクトにどれくらい本気になれているかを問う『マジか』については、本気度を自分自身で振り返れるのがいいなと思って、その項目の数値をきっかけにやりとりすることが多いです。

大人も子どもも答えの分からないことに、本気になって取り組むプロジェクトの学び。当日の「マジ」な子どもたちの様子に出会えることを楽しみに、学校を後にしました。


学校に「自分のままでいられる安心感」が生まれた理由

アウトプットデイ当日。この日は9時20分からお昼休憩を挟んで14時20分まで、さまざまなプロジェクトの発表が学校中で行われていました。

1年生から9年生のそれぞれのテーマプロジェクトや、30を超える数のマイプロジェクトの発表を見学することができました。印象的だった場面をいくつか紹介します!

テーマプロジェクトでは、子どもたちがポスターセッションのような形でブースを設けて、探究した内容を発表していました。子どもの熱いプレゼンに真剣に耳を傾ける参加者。大人も子どもも混ざり合って対話する姿が印象に残っています。

学校の至るところで行われているマイプロジェクトの発表。ここでも、実にさまざまな年齢の人々が、発表に耳を傾けていました。小さな子たちが、お兄さん・お姉さんの発表を真剣に聞き、フィードバックをする場面もありました。

また、アウトプットデイが一旦クロージングを終えてからも「お月見会」という名のマイプロジェクト発表会が行われていました。

ここでは子どもたちが、ピアノやヴァイオリンなどの楽器演奏や、落語を披露。それぞれの発表を、食い入るように見つめる子どもと大人たち。発表が終わると、学校の中心に配置されたステージから、学びのプロセスや成果を盛大に祝福する拍手が、学校中に響き渡っていました。

アウトプットデイを1日見学して、互いの発表を否定する様子は一切なく、学校全体に温かく寛容な雰囲気があふれていました。子どもたちの寛容さの背景にあるものとは一体何なのか。岩瀬さんに聞いてみました。

去年くらいから学校の中に『自分のままでいられる安心感』みたいなものが生まれてきたように感じています。このような文化をつくる条件として外せないものとして、異年齢の仲間の存在が大きいと思います。

3歳から15歳という圧倒的に違う人たちと徹底的に一緒に暮らしていると、寛容にならざるを得ないんです。

例えば、中学生くらいになるとホーム(1~4年生、5~9年生の異年齢グループ)のようなコミュニティに入れない子がいたとしても、それをネガティブに捉えていない。むしろそれを見て『価値観が揺さぶられる』とすら話す。

そして『そういう時期あるよね』という寛容なまなざしでその姿を受け止めつつ、『無理矢理入れても仕方がないから、どうやったらあの子が入りたくなるか考えよう』と問いを立て始めるんです。

これは、同学年の子ども同士だと起きない感覚ではないでしょうか。またプロジェクトの学びも、子どもたちの寛容さに影響していると思います。

プロジェクトって本来、さまざまな関心とか強みから学びをつくるものだから、一番インクルーシブな学びの場なんですね。

アウトプットデイでは、異なる年齢の子ども同士がさまざまなプロジェクトに触れますし、外からきた人に自分のプロジェクトを価値づけてもらう機会も得られます。

外部の大人からはもちろん、校内の上の学年からもフィードバックをもらい、年齢関係なくお互いに価値づけ合う場では、他者との比較が生まれず『お互いのやっていることがすごくて、おもしろい』と言い合うようになっていくんです。

1・2年生の子たちが一生懸命しゃべると、上のお兄さん・お姉さんたちが、関心を持ってフィードバックをする。

そうすることで子どもたちは『自分がやっていることっておもしろいんだ』『他者からおもしろいと思ってもらえるんだ』というように、『自分の探究には価値がある』と思えるようになるんです。

そういうのって、一番エンパワーされるじゃないですか。それこそが探究の学びの価値を実感できるタイミングだと思うんですよね。


アウトプットデイの取材を終えて

終日アウトプットデイに参加し、子どもたちの本気の取り組みや、多様なプロジェクトに触れることができました。彼らの真剣な姿勢や情熱は、とても印象的で、たくさんの学びを得ることができました。

今回の取材では、「先生の学校」編集部とともに、ライターの土井夢津子さんに記事執筆をご協力いただきました。取材の振り返りとして、土井さんと私、岩田がそれぞれ感想を共有します。

アウトプットデイの前日、「釜戸を土から作った」というのが衝撃的で、この学校のプロジェクトは絶対におもしろい!と確信しました。当日は、できるだけたくさんの子どもの声が聞きたくて、当日配布された「マイプロジェクトマップ」片手に、校内をあちこち動き回ってしまいました。

子どもが発表して、質問に答える。うまくいかないときもあるけど、一生懸命に考えて話している姿が印象的でした。参加者は、発表者に感想を書いた付箋を渡したり、クロージングでその日良いと感じた相手に手紙を書いたり、フィードバックを大切にしていると感じました。

岩瀬さんは取材をしている私たちと話している間も周りの様子をよく見ていたことからも、スタッフと子どもの距離感が絶妙だということに気づきました。

この取材を通して感じたのは、子ども同士が互いの存在を心の底から大事にしているような、寛容さ・温かさが学校中を漂っているということ。

プロジェクトの学びが持つ力はもちろん、学校という存在そのものの可能性をたっぷり感じることができ、取材を通して私自身がエンパワーされました。


〈取材・文・写真:先生の学校編集部、土井 夢津子〉