ビリギャル、再び猛勉強中! 先生は子どもの能力を引き出すコーチになってほしい
ベストセラーになった書籍「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」(坪田信貴 著)。
高2の夏時点で、小4レベルの学力しかなかった学年最下位のギャルが、ある塾講師との出会いによって難関大学に見事現役合格を果たす物語は多くの人の心を揺さぶり、社会現象となった。
その「ビリギャル」は今、どうしているのかー。
ビリギャルのモデルとなった小林さやかさんに、当時を振り返ってもらいながら今の教育環境について思うこと、そして今後の展望を伺った。
先生が説明できない校則って何なんだろう
――学生時代は先生に反抗していたそうですが、なぜ先生が嫌いだったのですか
私が通っていた高校の先生と話していると、自分の言うことを全て否定されているような気分になって嫌でした。
話しかけられるとすれば、髪が茶色いとか眉毛が細いとかそんなことばかり。まるで警察と被疑者の取締りのようで、逃げることしか考えていませんでしたね(笑)。
「先生だって染めてるじゃん!」という思いもあって。なぜ私たちだけダメなのか質問しても「校則だから」で終わり。先生が説明できない校則って何なんだろうと、余計に不信感が募りました。
――理由がわからないまま、ただルールを守れと言われても納得できないですよね
大人になった今なら分かるんです。
例えばスカートが短すぎちゃダメという校則は、校外で犯罪に巻き込まれないようにするため。まだ判断基準が未熟なうちは、校則という形で生徒を守る必要があるということなんですよね。でも当時の私にはそれが分からなかった。
先生には、“ダメの理由”をちゃんと説明してほしかったなって思います。
そうすれば先生と生徒の間に折衷案が生まれたりして、生徒も納得してルールを守るようになるのに。
校則にも学校にも勉強にも、全てには理由があるのに、多くの先生はその”理由”の説明を抜かしてしまっているように感じます。
――そんな中で坪田先生と出会ったわけですが、坪田先生には抵抗感はなかったのですか
全くありませんでした。
もともとは弟が行くはずだった塾の面談に私が代わりに行ったことで坪田先生と出会ったのですが、話すうちに「何この先生、学校の先生と全然違っておもしろい!もっとしゃべりたい!」と楽しくなってしまって。塾に行く気はなかったのに、気づいたら翌日から通っていました。
――坪田先生のどんなところが学校の先生と違ったのでしょうか
毎日、私にしてくれる話がとにかくおもしろかったこともありますが、私の話を聞いてくれたことが何よりの違いでした。
私が通っていた学校の先生は「化粧落とせ!」と怒りながらメイク落としシートを持って追いかけてくるけど、坪田先生は「そのまつ毛すごいね!どうやって作るの?」と興味津々に聞いてくれました。私に興味を持って質問してくれることがすごくうれしかった。
初対面の面談で2時間近くも話して、最後に「君めっちゃおもしろいから慶應に行ってみたら?」と言われたんです。
当時の私の偏差値は28。高校を出たら大学には行かずに働こうと思っていたので、「この人何言ってんの?!」とまたまた驚いた(笑)。
でも、この人とだったらもっと世界を広げてキラキラした場所に行けるかもしれないと思ってワクワクしました。坪田先生は、私に「もっと広い世界に出る」という選択肢を与えてくれたんです。
今は大学院で「学習科学」を勉強中
――大学卒業後はウェディングプランナーを経てフリーランスに転身し、現在は大学院に通われているそうですね
はい。2019年4月より聖心女子大学院で「学習科学」を学んでいます。
もともとは認知科学から派生している学問で、アクティブラーニングの根本的な考え方となっています。
――日本ではまだ10年ほどの新しい学問分野だそうですが、学ぼうと思われたきっかけは何だったのでしょうか
2つあって、1つは自分が成長し続けることでビリギャルを自分に重ねて頑張ってくれている人たちを応援するため。
もう1つは、なぜビリギャルが頑張ることができたのか。なぜ学校ではできなくて、坪田先生とはできたのか。その学習環境の違いを科学的に分析してデータで示すためです。
これまで講演会やイベントを通していろんな教育環境を覗いてきました。そこで感じたことは、自分が思う以上に“ビリギャル”は大きな影響力を持ったコンテンツになっているということと、子どもの成長や挑戦を意図せず邪魔してしまっているのは周りの大人であることが少なくない、ということでした。
――もっと詳しく教えていただけますか
心理学の「ゴーレム効果」という現象をご存知ですか?
ある人に対して周囲の期待が低い場合、その人は周囲の期待通りにパフォーマンスが下がってしまう、という心理学効果ですが、この現象が多くのご家庭や教育現場でも起こっているのではないか、ということです。
「ビリギャルのおかげで人生が変わった」と泣きながら感謝されたり、「周囲には無理だと言われていたけどビリギャルの映画や本を何回も見て夢を叶えた」といった声がたくさん届きます。
私には幸い、母と坪田先生という心から信じて応援してくれる強い味方がいたから周りのゴーレム(父とか、学校の先生とか)を跳ね除けてパワーに変えることができたけど、そういう存在が身近にいない子どもたちは苦しんでいて、私に助けを求めに来る。
子どもたちが置かれた環境を変えるためにも、ビリギャルはもっと貢献できるコンテンツにならないといけない。そのためには、私自身が学び、成長し続ける姿を見せる必要があるし、大人も変わらないといけないと思ったんです。
――大人が変わるためには経験談だけでなく、データを使った論理的な説明も必要であるということですね
そうです。私が偏差値28から慶応に現役で入学できた理由を、もともと頭が良かったからとか裕福だからとか、別の要素に求めようとする人もたくさんいます。でも、そうじゃない。
学習環境の違いによるものなんだということをしっかりデータで示せれば、ビリギャルのストーリーにもっと説得力を持たせられると思っています。
先生は、子どもの能力を引き出すコーチになってほしい
――学習科学を学び始めて、何か見えてきたことはありますか
学習科学の世界では、学習者にとって最も重要な環境は「他者との相互作用の中で、それぞれの違いを感じて理解しながら新たな知識を生み出していく」ことだとされています。
その観点で今の日本の学校システムを見ると、正直無理があるように感じます。
――それはなぜでしょう
私たちは物事を内的情報で見ています。
この内的情報はそれまでに育った環境から作られますが、同じ国や地域に住んでいても、育つ環境は人それぞれです。
つまり、子どもたち一人ひとり、物事の感じ方や考え方、学び方が違うということ。
そして子どもたちはそれぞれ自分の中の内的情報を使って授業で学ぶ外的情報を理解しようとします。
それなのに、一人の先生が40人近い生徒たちに、同じ知識を同じやり方と速度でインプットして、同じ効果を求める、という今のやり方はどう考えても無理があります。
これからの学校教育には、単に知識や情報を暗記させるだけではなく、その知識と情報を使って自分がどう感じ、どう考えるのか。それが他者とどう違って、その違いについてどう思うのか。
考え方は人それぞれで、他者と違っていいのだと自覚できる学習環境が求められるんじゃないかと思うのです。
――ご自身の学習環境を同じ視点で振り返ってみて気づくことはありますか
学校と坪田先生のやり方は真逆で、学校の先生はティーチング(teaching)、坪田先生はコーチング(coaching)でした。
ティーチングは、相手に何かを教え込むという意味で、先生から生徒に向かって矢印が一方通行的に出ているイメージ。それでは生徒の能力を引き出しにくく、現に当時の私にも刺さりませんでした(笑)。
対するコーチングは、“大切な人を目的地に連れていく”という語源から来るもので、相手の能力を引き出しながら、ゴールに向かって誘導していく方法をいいます。
坪田先生は私から出る矢印がいろんな方向に向くように、言葉がけを中心としたコーチングをしてくれました。
問題の答えをただ教えるんじゃなくて、「君はこれについてどう思った?」「こういう目線で見ると違って見えてこない?」という具合に、毎日議論をしながら考えさせてくれた。
学ぶことは楽しいと思えたし、モチベーション管理や自分の考えをアウトプットする訓練にもなりました。こうしたコーチング力が、学校の先生にも必要なんじゃないかな。
先生の楽しむ姿が、生徒たちの明るい未来を創る
――今後の展望を教えてください
実は今、海外の大学院への進学を目指して猛勉強中なんです!
“ビリギャル”というコンテンツのモデルとして、今後も日本の教育環境に最大限貢献したい。そのためにも、世界の教育環境を知っておく必要があると思って。
自分に圧倒的な知識とスキルと自信をつけて、何歳になっても学び続ける姿を後輩たちに見せたいし、世界をさらに広げたい。
それに、外から日本を見てみると日本の教育の素晴らしいところがはっきり見える気もするんです。
出てみないと分からないことばかり。だから一度、日本からどうしても出たいんです。かなり高い壁ですが、必ず合格してみせます!
――最後に、現場で奮闘している先生方へメッセージをお願いします
子どもたちって、大人のことを本当によく見てる。中でも親と先生が子どもたちに及ぼす影響ってすさまじいです。
中高生のときは正直、先生って嫌な奴しかいないんだと思ってました(すみません)。
でも大人になってこうして教育を学べば学ぶほど、先生っていう職業は誰にでもできるものじゃないし、誇り高くて素晴らしい職業だということを身にしみて感じています。
学校は子どもの未来を創る場所。先生は子どもの未来を明るく照らす人。
先生たちこそ、子どもそっちのけで楽しんじゃってください。大人こそ学び続ける。そしてそんな大人の姿を見て、学ぶって楽しくてワクワクするものなんだ!ということを、子どもたちは勝手に悟ります。
それこそが本当の英才教育だと私は信じています。