ポスト情報社会に必須の「情報活用能力」はどう育てる?!中学・高校の教育課程における情報教育を詳しく解説
学習指導要領に、次の一文があります。
「将来の予測が難しい社会において、情報を主体的に捉えながら、何が重要かを主体的に考え、見いだした情報を活用しながら他者と協働し、新たな価値の創造に挑んでいくためには、情報活用能力の育成が重要となる」
人類は、狩猟社会、農耕社会、工業社会を経て、情報社会を経験しました。そして、ポスト情報社会にあたるSociety5.0では、人間から情報にアクセスするだけではなく、情報から人間が影響を受けて全体が動くような社会になると言われています。そのため、教育課程全体を通して、情報教育を強化し、「情報活用能力」も重視されるようになりました。
一方で、情報教育は、今の大人が子どもの頃にあまり経験したことがないため、現行の教育課程において、情報教育がどのような流れで行われているか、ほとんどの方はご存じないと思いますし、感覚的にもつかみにくいと思います。
そこで、この記事では、初等中等教育における情報教育や「情報活用能力」の扱いについてまとめました。一緒にみていきましょう。
2022年4月より上記アドバイザー業務を兼務しながら、ライフイズテック株式会社官民共創プロモーターとしても従事。情報教育支援プラットフォームELDI事務局員でもあり、ELDIのnote を通じ、情報教育について積極的に発信している。
学習の基盤となる資質・能力としての「情報活用能力」とは
学習指導要領の総則においては、3つの学習の基盤となる資質・能力として、「言語能力」「問題発見・解決能力」と並び、「情報活用能力」が明記されています。そして、情報活用能力は、学習指導要領総則解説において、次のように説明されています。
情報活用能力は、世の中の様々な事象を情報とその結び付きとして捉え、情報及び情報技術を適切かつ効果的に活用して、問題を発見・解決したり自分の考えを形成したりしていくために必要な資質・能力である。 |
情報活用能力は、GIGAスクール構想によって整備された1人1台端末環境を活用し、どのような教科・科目であっても、情報を得たり、整理・比較したり、得られた情報を分かりやすく発信・伝達したり、必要に応じて保存・共有したりといったことにより高めることができます。そして、これらのスキルについて、より深く意味合いを理解するためには、情報教育が不可欠です。
例えば、情報モラル、情報セキュリティ、そしてプログラミングやデータリテラシーなどを学ぶことにより、社会において役立つ力につなげていくことができます。情報教育は、小学校段階でのプログラミング的思考の学習や、中学校の教科「技術・家庭」の技術分野、そして高等学校での教科「情報」の授業などを通じて行われます。
本記事では特に、特定教科の中で扱われていることもあってご存じない方も多いと思われる、中・高での学習内容をご紹介できればと思います。
大学入学共通テストに加わる6つ目の教科「情報」
情報教育のご説明をする中で、多くの方に驚かれるのが、高等学校の教科「情報」で学ぶ内容と、今後科目「情報I」が文系・理系問わず多くの大学受験生に必要になることです。
高等学校新課程初年度の高校生が大学入試を迎える2025年度、大学入学共通テスト(従来の大学入試センター試験)に「情報I」が加わります。そして、令和4年11月9日に大学入試センターから公表された「情報I」の試作問題には、下記のような問題文が掲載されました。
大学入試の問題としてなかなか想像できない方が多いかもしれませんが、「情報」は国数社理英といったいわゆる「5」教科に並列する「6」教科目の教科として出題に加わり、そして国立大学協会が、国立大学を受験する全ての受験生には原則として「情報」を加えた「6教科」を受験する方向性を発表していることは知っておいていただきたいと思います。
「情報」には、科目として「情報I」「情報II」があります。「情報II」は専門性が高く、選択科目になっていますので、ここでは高等学校で必履修科目になっており、大学入学共通テストの科目にもなっている「情報I」のみご紹介します。
「情報I」の学習内容は下記の通りです。
(1)情報社会の問題解決 情報と情報技術を活用して問題を発見・解決する方法や情報モラル、情報と情報技術の適切かつ効果的な活用と望ましい情報社会の構築などについて考察する。 (2)コミュニケーションと情報デザイン 効果的なコミュニケーションを行うために、情報デザインの考え方や方法に基づいて表現する。 (3)コンピュータとプログラミング プログラミングによりコンピュータを活用すると共に、モデル化やシミュレーションを通して問題の適切な解決方法を考える。 (4)情報通信ネットワークとデータの活用 情報セキュリティを確保し、情報通信ネットワー クを活用すると共に、データを適切に取集、整理、分析し、結果を表現する。 ※『大学入学共通テスト新科目「情報」〜これまでの経緯とサンプル問題〜』水野修治 独立行政法人 大学入試センター 2021.6.15 より抜粋 |
これからの高校生は「皆」、この「情報I」を学び、社会に出ていくことになります。
「情報I」の源流は、中学「技術・家庭」の技術分野にあり
高等学校の「情報I」の学習内容につなげるのが、中学「技術・家庭」の技術分野での内容になります。技術分野では、下記の4つの領域を学習します。
A.材料と加工の技術 B.生物育成の技術 C.エネルギー変換の技術 D.情報の技術 |
「Society5.0」という単語は、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」と定義されています(内閣府資料より)。
この定義からも、テクノロジーの発展が社会を変えていることが読み取れます。そして、テクノロジーの大切さを理解し、テクノロジーを活用して「問題発見・解決能力」を育む大切な教科が、「技術・家庭」の技術領域である、と言えます。
学習指導要領で目指す技術分野の資質・能力は下記の通りです。
情報教育は「D.情報の技術」において展開されます。ここで何よりも大事なのは、上記資料の通り、問題の解決を実践することです。皆さんの中にも、技術の授業で木材を使って棚を作る、などの経験をされた方が多いと思いますが、これが「プログラミング」の実践に置き変わると考えるとよいと思います。
「家のコンピュータで役立つアプリケーションをプログラミングしている」と、上記資料にはあります。このような中学生の姿が想像されています。そして高等学校では、上述の通り、「コンピュータとプログラミング」において、「モデル化やシミュレーションを通して問題の適切な解決方法を考える」という、より高度な「プログラミングを通じた問題解決」を学び、実践します。
これらの教育課程を踏まえ、大学入学共通テストの問題が作られていく、と想像していただければと思います。
全ての教科において「情報活用能力」を高めることを意識しよう
Society5.0においては、私たちが中高生の頃には学んだことのない情報教育を行い、問題発見・解決能力を育もうとしていることがお分かりいただけたかと思います。
一方、大きな課題として、中学の「技術・家庭」の標準授業時数は中1:週2時間、中2:週2時間、中3:週1時間(「家庭」分野もありますので、「技術」分野はこの半分の時間となります)、高等学校の「情報I」の標準授業時数は、高1〜高3のどこかの学年で週2時間、と、内容のボリュームに比して決して多くはないことです。とりわけ「問題発見・解決能力」を育む「実践」をするためには、不十分、と言えるのではないでしょうか。
そこで、本記事の冒頭の内容を振り返ってほしいのです。学習指導要領上、「情報活用能力」は3つの基盤となる資質・能力とされているわけですから、「技術・家庭」や「情報」だけで高める能力ではなく、小中高全てを通じ、全ての教科で高める資質・能力だということです。
まず、GIGAスクール構想によって整備された1人1台の端末環境をフルに活用することがあります。文部科学省のサイト「StuDX Style」では様々な端末の活用事例が紹介されているので、ぜひ参考にして、小学校段階から情報活用能力を育み、中学校・高等学校での様々な教科の学習を通じても情報活用能力を高められるよう試みてほしいと思います。
他に、総合的な学習の時間・総合的な探究の時間を活用する方法もあります。
数研出版の教科書「情報I」には、「問題解決のプロセス」という項があり、(1)問題の明確化 (2)情報の収集 (3)情報の整理と分析 (4)解決案の立案 (5)解決案の実行 (6)評価、と紹介されています。これはまさに探究活動であり、「情報」と総合的な探究の時間の親和性を感じさせる部分です。
1つ事例を紹介します。
私が事務局員を務める情報教育支援プラットフォームELDI(エルディー)が関わっている香川県立観音寺第一高校では、総合的な探究の時間を利用して、データの見方・考え方を深める活動をしています。そして2021年には第5回和歌山県データ利活用コンペティションに「地域をつなぐ ウェルネスツーリズム ~新たな観光形態に着目した広報戦略~」として応募するチームが現れ、見事協賛企業賞を獲得するまでになっています。
「技術・家庭」や「情報」を通じた情報教育は、「見方・考え方」を深めていくことに大きく寄与します。そしてその内容は、「情報活用能力」を普段から磨き続けていることを前提として組み立てられています。先生方にはぜひ意識していただければうれしく思います。