事務職員は、「チーム学校」に欠かせないリソース・マネージャー。教員と共にこれからの教育を創造する事務職員、育成の秘訣とは?
学校の教育課題が複雑多様化する現在、教員とさまざまな分野の専門スタッフが連携・協働して課題解決にあたることが必要不可欠となっている。
教員にとって一番身近な専門的スタッフといえば、財務・総務に通じた事務職員だ。
教員と共にこれからの教育を創造する事務職員を育成する方法について、学校組織マネジメントの研究経験もある埼玉県の県立高校で教頭を務める永島さんに話を聞いた。
1999年4月より埼玉県立高校の国語教諭として14年間、教育委員会事務局管理主事として4年間勤務。2017年4月より東京学芸大学教職大学院に派遣(1年間)。学校組織マネジメントについて研究を行う。2018年4月より埼玉県立春日部東高校に教頭として着任。大学院で学んだ理論を現場での実践に生かしている。
リソース・マネージャーとしての事務職員
本校にはICT活用プロジェクトチームという組織があり、教員だけでなく事務職員も活躍しています。
特に新規で採用された事務職員のAさんはチームの一員として本校のICT活用の推進に大きく貢献してくれました。ICTを活用した教育活動を予算面からサポートしてくれたのです。
例えば2020年度、埼玉県立高校では全教室に高速ネットワーク回線が整備されましたが、体育館は対象外となっていました。Aさんは体育館でもICTを活用した教育活動が行えるよう予算をやり繰りし、ポケットWi-Fiを購入し整備。
先生方がAさんに感謝したことは言うまでもありません。
学校の教育課題が複雑多様化する現在、事務職員も専門性を発揮し、課題解決にコミットしていくことが求められています。事務職員の専門性とは「教育・ケアの充実に向けて多様な教育資源(リソース)を獲得し、活かす(※)」ことと言われています。
これからの事務職員には、Aさんのように「リソース・マネージャー」として教員と連携・協働し、「チーム学校」の一員として教育課題の解決にあたっていくことが求められているのです。
しかし、リソース・マネージャーとしての資質・能力を事務職員に育成するにあたって避けては通れない課題があります。それが事務職員の任用・研修上の課題です。
※藤原文雄氏(2017)『事務職員の職務が「従事する」から「つかさどる」へ』学事出版
事務職員の任用・研修上の課題
教員は「学校の先生になりたい」と思い、学び、教員採用試験を受験します。つまり「学校で勤務する」ことが前提となっています。
しかし、事務職員はそうとは限りません。県立高校や特別支援学校等、埼玉県立学校の事務職員は全て「一般行政」試験の合格者であり、「学校で勤務する」ことが前提ではないのです。
Aさんも元々は県庁職員として教育格差の解消に携わりたいと思っており、学校に配属されるとは思ってもいませんでした。この事務職員の任用上の課題は、実は多くの自治体が抱えています。
東京都に至っては、小・中・高・特支、全ての公立学校の事務職員が「一般行政」試験の合格者です。
つまり、事務職員は教員とは異なり、「都庁で働こうと思っていたら学校に配属されてしまった」というように、学校という場所に強い思い入れがないままに配属されているケースも多いのです。
任用上の課題は研修にも影響しています。
例えば、Aさんが新採用段階で受講していた「新規採用事務職員研修」は、財務会計や文書管理等、「一般行政」職員としての内容ばかりで教育や学校に関する内容は全くありません。つまり、「一般行政」職員として採用された事務職員は、研修等を通じてリソース・マネージャーとしての成長を図る機会に乏しいのです。
こうした任用・研修上の課題がある中で、いかにして学校現場でリソース・マネージャーとしての事務職員を育成していけばよいのでしょうか。
私は小・中・高・特支、全ての校種で事務職員を「学校事務」に特化して採用試験を実施し、自治体レベルで教員と事務職員の合同研修を実施している群馬県や、カリキュラムマネジメントに関わることを事務職員の標準的職務としている新潟市等、先進的な取り組みを行っている自治体に赴き、調査を実施しました。
そして至った結論は、「新規採用段階での教員との出会いや学び」が大きく影響するということでした。
教員との出会いや学びが大きく影響する
私が埼玉県立春日部東高校に教頭として着任した2018年4月、Aさんも新規採用事務職員として本校に配属されました。
学校という場所に特段思い入れのなかったAさんをリソース・マネージャーとして育成するため、私は事務長と協力しながらさまざまな働きかけをしていきました。
教員からAさんに講話を行ったり、あるいはAさんから初任者の教員に対して学校予算・施設管理について講義をしたりする等、教員との学びの機会を多く設けました。
するとAさんは、例えば、学校徴収金の督促において知り得た情報を担任と共有する等、学校の教育課題に積極的にコミットするようになっていきました。
そして、いよいよAさんがリソース・マネージャーとして活躍する機会が訪れます。
それがICT活用プロジェクトチームです。2019年度、本校ではICT機器を活用した授業を推進するべくプロジェクトチームを発足させました。とはいっても当時、ICT機器を活用して授業を行っている教員は4割程度しかいませんでした。
こうした状況の中、Aさんはプロジェクトチームのメンバーと協議し、限られた予算の中で落としどころを探り、重点的に取り組むべき方策について提案しました。それが書画カメラの導入です。
書画カメラは撮影したものをそのまま外部出力する機器で、スイッチ一つで簡単に操作できます。また、パワーポイント等のデジタル資料を作成することもなく既存の資料をそのまま映し出せばよいというツールです。
書画カメラの活用を推進することで、教員のICT機器に対する「不安感」や「負担感」を解消していけるのではないかと考えたのです。
Aさんは予算をやり繰りして書画カメラを13台購入し、教員に活用を呼びかけていきました。すると、「これなら自分にもできそうだ」と徐々にICT機器を活用した授業に挑戦する教員が増えていき、2020年度初めには7割近くの教員がICT機器を活用して授業を行うようになりました。
2020年3月から5月末までの約3カ月間、新型コロナウイルス感染拡大に伴う臨時休業が続きました。本校ではYouTube動画とWebテストの配信でこの期間の学習を保障していくこととしました。
Aさんが取りそろえてくれた書画カメラは動画撮影も可能です。本校の教員の多くが手元の教材に書き込みをしながら解説を行い、それを書画カメラで撮影するという方法で動画を作成しました。
また、先ほども紹介した通り、臨時休業明けもAさんは予算面から教育活動をサポートしてくれました。Aさんがいなければコロナ禍の本校の教育活動は成り立っていません。
Aさんはリソース・マネージャーとして尽力し、活躍してくれました。
教員と共に、「令和の日本型学校教育」を創造する事務職員
2021年度、Aさんは県立図書館に転勤し、後任として新規採用事務職員のSさんが本校に配属されました。Sさんも元々は県庁職員として医療福祉に携わりたいと考えており、やはり学校に配属されるとは思ってもいませんでした。
そこで、Sさんにおいても早速4月に初任者の教員との合同研修を実施し、以後、ICT活用プロジェクトチームの一員として次年度からの一人一台iPad導入について教員と共に準備を進めてもらっています。
AさんやSさんの変化を見ていると、やはり新規採用段階での教育職との出会いや学びがリソース・マネージャーとしての成長に大きく影響していると感じます。
2021年1月に出された中教審答申「令和の日本型学校教育の構築を目指して」では、「日本型学校教育」の良さが再認識される一方で、情報化への対応の遅れといった課題が示されています。
この課題に対処するため、答申では、事務職員に校務運営へのより一層の参画、特にICTを活用した教育への参画を求めています。
「令和の日本型学校教育」を実現するためには、ますます教員とリソース・マネージャーである事務職員が連携・協働していくことが欠かせません。
私は自分の実践を踏まえ、その重要性を今後も発信していきたいと思います。