【第3回】教育現場で生かせるファシリテーションの考え方について
なぜ今、教育の世界で「コーチング」や「ファシリテーション」が注目されているのか?
伴走者として、学び手に関わる方々が、学び手の主体的・対話的な学びを加速させるために有効なコーチング(的な関わり)や、ファシリテーションスキルを紹介する連載です。
この連載では、伴走者として学び手に関わる方々が、学び手の主体的・対話的な学びを加速させるために有効なコーチング的な関わりやファシリテーションスキルを紹介させていただいています。
第3回目となる今回は、ファシリテーションについてです。
細かい方法論を扱ってしまうと字数が足りなくなってしまうので、そのスキルの大枠や考え方について知っていただくことを通して、日々の学び手との関わり方について再考するきっかけをお届けできれば幸いです。
第1回目「なぜ、コーチングやファシリテーションスキルが注目されているのか?」の中でも書いたように、経済産業省が展開する「未来の教室」では、今後の教員に求められるスキルの一つとして、明確に「ファシリテーションスキル」が挙げられており、その重要性がうかがえます。
ファシリテーションとは何か?
皆さんも「ファシリテーション」や「ファシリテーター」という言葉自体は、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
では、ファシリテーションとはそもそも何を指す言葉で、具体的にはどのようなスキルが求められるのでしょうか。
この点については、団体によって異なる解釈や定義を使うことも珍しくないのですが、例えば日本ファシリテーション協会では、ファシリテーションやファシリテーターについて「ファシリテーション(facilitation)とは、人々の活動が容易にできるよう支援し、うまくことが運ぶよう舵取りすること。集団による問題解決、アイデア創造、教育、学習等、あらゆる知識創造活動を支援し促進していく働きを意味します。その役割を担う人がファシリテーター(facilitator)であり、会議で言えば進行役にあたります。」と定義をしています。
もう少しファシリテーションに対する理解を深めるためにその歴史を遡ると、例えば体験学習や教育系のファシリテーションについて言えば、1960年代にアメリカで生まれたエンカウンターグループと呼ばれるグループ体験によって学習を促す技法に行き着きます。
この中で、メンバーやグループが成長するために働きかける人が、ファシリテーターと名づけられました。
また、ほぼ同時期に、アメリカのコミュニティ・デベロップメント・センター(CDC)で、コミュニティの問題を話し合う技法としてワークショップやファシリテーションが体系化されていきました。
さらには、1970年代あたりから、ビジネス分野での応用もアメリカで始まりました。こちらは、会議を効率的に進める方法として開発され、やがて「ワークアウト」と呼ばれるチームによる現場主導型の業務改革手法に応用されていきました。
このように成り立ちにも複数の文脈があるファシリテーションは、図の様に、今では本当に多様な分野でその言葉と手法が応用されています。
私の場合は、図らずも学生時代やファーストキャリアでの東日本大震災の復興支援活動を皮切りにファシリテーションについて学ぶこととなり、その後のキャリアチェンジを通して「社会系」「人間系」「組織系」と転用する機会が増えていきました。
結果、現在もいくつかの団体やコミュニティ、またはご依頼いただいた場でファシリテーションを行っており、分野や使用目的によっても、意識するポイントや使用するスキルは少しずつ異なると感じています。本稿では、一例として日本ファシリテーション協会が掲げるファシリテーションスキルを紹介させていただきます。
心の底にある本当の思いを引き出す
日本ファシリテーション協会の場合は、一般的な話し合いでのファシリテーションスキルについて、「1.場のデザインのスキル ~場をつくり、つなげる~」「 2.対人関係のスキル ~受け止め、引き出す~」「3.構造化のスキル ~かみ合わせ、整理する~」「4.合意形成のスキル ~まとめて、分かち合う~」の4つがあると紹介しています。
中でも今回は「 2.対人関係のスキル ~受け止め、引き出す~」に焦点を当ててみましょう。
日本ファシリテーション協会ホームページでは「 2.対人関係のスキル ~受け止め、引き出す~」について「ファシリテーターは、しっかりとメッセージを受け止め、発言者を勇気づけ、心の底にある本当の思いを引き出していかなければなりません。」と表記されています。
確かに、集団の中で参加者一人ひとりが、心の底にある本当の願いを出せるからこそ、日本ファシリテーション協会のファシリテーションの定義である「集団による問題解決、アイデア創造、教育、学習等、あらゆる知識創造活動を支援し促進していく働き」が可能になるのでしょう。
しかし、複数のフィールドでファシリテーションをさせていただいている私個人としても、心の底にある本当の願いを出すということについては、まさに「言うは易く行うは難し」だと痛感します。
例えば、「この場ではなんでも自由に話してくださいね」と言葉で伝えるだけではそれができる心理的安全性が担保されない方もいらっしゃいますし、参加者の方の発言を受け止めているつもりでも、おっしゃっていることにこちらが勝手な解釈を加えてしまうこともあります。
また、参加者の方の中から引き出そうと積極的に問いを投げることによって、逆に参加者の心理的安全性を奪ってしまったり、モチベーションを削いでしまうこともあります。
ファシリテーションは、対集団へのアプローチになるからこそ、その中の一人ひとりにフォーカスを当てた際に「聴いているつもり」「受け止めているつもり」「引き出しているつもり」でいても、相手にとってはそうではない状況が多く発生します。
この連載を読んでくださっている皆さまは、伴走している学び手の方々のメッセージを受け止め、一人ひとりの本当の思いを引き出すことができているでしょうか?また、そのために普段どんな工夫や関わりをされているでしょうか?
もちろん「心の底にある本当の思いを引き出す」上で必要な条件は、ファシリテーター個人のスキルやマインドセットのみに起因するものではなく、場の環境設定や、参加者側の要因など、複数あると考えるのですが、今回は「ファシリテーター」的役割を担いながら現場で奮闘していらっしゃる、もしくは今後そうなられる皆さま側への問題提起として「受け止め、引き出す」というスキルについて取り上げ考えさせていただきました。
今回の内容が、変化が激しく未来が見通しにくい今の時代に伴走者として学び手に関わる皆さまにとって、学び手のより良い成長・変容を促す際の一助となれば幸いです。
連載内容について何かご質問等ございましたら、いつでもTwitter(@1130kimura)のDMにてご連絡くださいませ。