1. TOPページ
  2. 読む
  3. コロナをきっかけに、子ども中心の学級づくりに舵を切った小学校教諭の挑戦。学校を「・・・

コロナをきっかけに、子ども中心の学級づくりに舵を切った小学校教諭の挑戦。学校を「学びを楽しむことのできる、自立した学び手を育てる場」に

コロナをきっかけに、子ども中心の学級づくりに舵を切った小学校教諭の挑戦。学校を「学びを楽しむことのできる、自立した学び手を育てる場」に

学校も時代に合わせて変わる必要がある。学校の可能性を理解しているからこそ、既存の教育システムに違和感を持つ方も多いのではないだろうか。その一方で、実際に学校変革のアクションを起こすには、何から始めたらいいのか分からないという声も多い。

そのような中で注目を集めているのが、ピーター・センゲ氏の著書「学習する学校」だ。現在の教育システムの根本的課題を捉え、教室・学校・地域コミュニティでの改革指針が示されている。

神奈川県にある逗子市立久木小学校の大窪昌哉さんも「学習する学校」に関心を寄せる教員の一人だ。コロナ休校をきっかけに自律した学び手を育てる意識を改めて強くした大窪さんは、担任を務める6年1組で、プロジェクト学習やワークショップ型の授業を始めた。

日々、子どもたちとの対話を大切にしながら、子どもも大人も学びを楽しむ学校づくりにチャレンジしている大窪さんに、実践中の学級経営について話を聞いた。

写真:大窪 昌哉(おおくぼ まさや)さん
大窪 昌哉(おおくぼ まさや)さん
逗子市立久木小学校 教諭

1975年、神奈川県横浜市生まれ、横浜育ち。大学卒業後、一般企業の経理部に7年間勤務し、小学校の先生になるため30歳で退職。通信大学で小学校の教員免許を取得して逗子市立沼間小学校で教員人生をスタート。現在は逗子市立久木小学校に研究主任として勤務。子どもたちと学びを楽しみ、みんながイキイキとした素敵な時間や場を共創するために、さまざまな学びの場へ参加している。最近の楽しみは、クラスの子どもたちや息子と「なんとなく気になるモノ・コト・ヒトを追い求めてあてもなく歩き出す」Feel℃ Walkへ出かけること。


学校は子どもたちの「自ら学ぶ力」を育めていない


——コロナ休校をきっかけに、子ども中心の学級づくりを本格的にスタートさせたと伺いました。コロナ休校でどのような課題意識を持ったのでしょうか?


もともと一斉授業などの既存の学校の仕組みでは、「子どもたち」と一括りに捉えてしまいがちで、一人ひとりの思いや願いに寄り添うことが難しく、子どもたちを学習嫌い、学校嫌いにさせてしまうのではないか?という課題意識を持っていました。

それがコロナ休校のドタバタの中で、子どもたちの学びを保障したくても、プリント配布などその場しのぎの対応しかできなかった現実。そして休校が終われば、何事もなかったかのように元に戻ろうとする学校。

保護者からも、「ゲームばかりしています」といった相談をいただく中で、学校は子どもたちの「自ら学ぶ力」を育めていなかったんだな、と猛烈に反省したんですよね。学校が変わっていく必要性を強く感じました。

学校という場所の意義や意味を何度も自問自答する中で、一つ私の中で明確になったのは「学びを楽しむことのできる、自立した学び手を育てる場」が学校であるいうことでした。

そこで休校明けから、子どもたちが自分の意思で選択すること、学びを楽しいと思えることに重点をおいた子ども中心の学級づくりに大きく舵を切りました。

一般企業の経理部に7年在籍したのち、教員になった大窪さん


——具体的にどのような取り組みを始められたのでしょうか?


まずは従来の一律・一斉型の授業から変えていこうと、国語の時間にライティング・ワークショップの「作家の時間」を始めました。

「作家の時間」というのは、子どもたち一人ひとりが作家として書きたいテーマについて文章を書き、作品として仕上げ、最後は出版もするというワークショップ型の授業です。

最初は不安や迷いもあったので、導入前に「書くことは好きですか?」「作文は得意ですか?」「上手に作文を書けるようになりたいですか?」といった内容のアンケートを子どもたちに実施しました。

その結果、「作文は苦手だと思っているけれど、文章を上手に書けるようになりたい」という意見がとても多かったので、直接子どもたちに「こんな実践をしようと思うけど、どう?」と相談をしたところ、「やってみたい!」という反応だったので実践をスタートさせました。

「作家の時間」で児童が書き上げた作品


——子どもたちの声を聴く、というのはまさに子ども中心の学級経営ですね。


「作家の時間」で書くことに取り組んでいると、読むことと書くことは密接に関連しているので、不思議と良い文章を読みたくなるんですよね。それで、リーディング・ワークショップの「読書家の時間」も子どもたちと相談をして始めました。

ただ、初めての試みで不安はあったので、ワークショップ型の授業を始めた当初は、2週間に1回のペースで全国の仲間とお互いにオンラインで実践を聞き合うプロジェクトに参加していました。

「書くことに向かっている子と、題材が見つからなくて書くことに気持ちが向かわない子がいるんだけど、こういうときどうしてた?」とか、「こういう状態のとき、子どもたちの中でどんなことが起こってるんだろうね」といった相談や対話の時間を定期的につくっていましたね。今でもそれは続いています。


惚れ惚れするほど、自分たちで考え・行動できるように


——他にも、さまざまなプロジェクトを実践されたそうですね。


6月から分散登校が始まりましたが、コロナの影響でさまざまな行事がなくなってしまったんですよ。

楽しみにしていた行事をコロナに奪われて、落ち込むのは仕方ないけど、拗ねていたらもったいないよねという話になり、総合的な学習の時間を使って「コロナに負けないプロジェクト」を立ち上げました。

例えば、映像づくりが得意な子が、手洗い・うがいの大切さを伝える啓発動画をつくっていましたね。他にも、コロナがただ人を傷つけようとしているわけではなく、生存するために感染が広がっていることに着目し、withコロナの大切さを表現した紙芝居をつくる4人グループもいました。

子どもたちの視点がとてもおもしろいなと思って、「せっかくだから、皆に見てもらわない?」と提案しました。校長先生にお願いをして「5年1組コロナ映像祭り」と題して、上映会を開催。全校の子どもたちが見に来てくれました。

一人一台端末で、映像づくりも身近に


——まさに子どもたち主体のプロジェクト学習ですね。


その他にも、宿泊を伴う林間学校の行事がなくなってしまったので、学年で「楽しい林間学校をつくろうプロジェクト」に取り組みました。

計画から全て子どもたちに任せたプロジェクトでしたが、学校近くの大きな共同グラウンドを活用して、密にならないようにリモート鬼ごっこをしました。その後に、そのグラウンドに耐火煉瓦を敷き詰めて、野外炊事やキャンプファイヤーをしたり、サプライズで花火を打ち上げたりもしました。全て総合的な学習の時間での取り組みです。


——先生から題材を与えられることの多かった従来の学びのスタイルから、一人ひとりの主体性を発揮する新しい学びに切り替わったことで、戸惑う子どもたちはいなかったのでしょうか?


最初は戸惑う様子も見られました。でも徐々に「自分たちでも、できる!」という実感や手応えを感じている様子が見てとれました。

今年度もどんどんプロジェクトが立ち上がっており、いちいち許可を取らないで、「まずやってみる」が増えていますね。

昨年、環境問題に関するプロジェクト学習にも取り組んだのですが、環境活動家の露木志奈さんの講演を聞いたんですね。

その講演を聞いて感化された数人の子どもたちが、笹のストローを作って、それをクラス全員に配ったり、「まずはクラスからプラスチックストローをなくしたい」と、啓発ポスターを作って掲示していました。僕の知らないところで、ストローを使わずに牛乳を飲む方法をポスターにまとめていたんです。

教室は限られたスペースなので、「これ作ったので、貼ってもいいですか?」ぐらいは聞いてきますが、基本的に自分たちで考えて、行動しています。その姿に惚れ惚れすることが増えています。

環境活動家の露木志奈さんの話に感銘を受けた
児童による啓発ポスター


ボトムアップの姿勢と対話


——子どもたちの主体性を育む学級経営において、大切にされていることはありますか?


トップダウンのコミュニケーションをできる限りなくしたいと思っています。

大人が上とか、先生が上とか、そういった考えを手放して、ジェネレーター(「一般社団法人みつかる+わかる」で市川力さん、井庭崇さんが提唱されている考え方で、場をファシリテートしつつ、つくり手としても場に参加する存在のこと)でありたいです。子どもたちに何かを教えるというより、一緒に場をつくることを大切にしています。

僕自身、幼少期から「こうしなさい」と言われるのが嫌いで、自分が嫌いなことだからこそ、子どもたちにそれを強いたくないんです。だから子どもたちにも「できるだけ、こうしなさい・ああしなさいと言いたくない」と話しています。

でも、ある一定のラインを超えると、どうしても言わざるを得なくなるので、お互いに意識して信頼関係を築いていこうと伝えています。

それは一緒に学年を持つ先生方に対しても同じで、「一緒にやりませんか?」という提案ではなく、「こんなことに取り組んでいるんだけど、何かあったら言ってね」という押しつけないスタンスを大切にしています。

無理矢理やらせるものに意味や価値がないと思っているので、職員室でも、教室でも、そういったコミュニケーションを大切にしています。

大人が上、先生が上ではなく、
一緒に場をつくるジェネレーターでありたいと語る大窪さん


——押しつけないコミュニケーションにこだわりながら、子どもたちと共に学ぶことを楽しんでいらっしゃるのが伝わってきます。


コロナをきっかけに子ども中心の学級経営に変えて、自分自身が今、人生で一番学習欲や知識欲が高い状態にあるんですよ。40歳中盤で学びのおもしろさに目覚めているんです。

そう考えると、子どもたちに「今」無理に学ぶことを求めなくてもいいって思ってしまうんですよね。「学びたい」と心から思える日がくるまで、大人が邪魔せず関わるって、実は大切なことではないかと思っています。


——コロナをきっかけに一気に新しい学びのスタイルにシフトチェンジされましたが、学校をより良くしていくために、具体的にできることは何だと思いますか?


基本的に人が人を変えることは難しいと思っています。でも、変わっていかなければならないと思っているし、変わっていけるとも思っています。

この考えのもと、人と人の集まりである組織が変わるには、自分も含めた私たちが、「時代に合わせて学校も変化していく必要がある」ということを自分ごととして捉えることが大切だと思います。

だからこそ、やらされ感を持ちやすいトップダウンではなく、ボトムアップの姿勢を歓迎できる風土にしていく必要があります。もちろん簡単なことではありません。でも具体的にできることはあると思っています。

まずは、自分が学び続ける姿勢を示し、変わり続ける覚悟を持つこと。学び続けていない人から「主体的に学ぶことが大事」と言われても、その言葉は絵に描いた餅ですよね。

もう一つは、「対話」をすることです。学校が忙しいことも一つの要因ですが、対話の質・量共に足りていないと思います。

「学びたい」と心から思える日がくるまで、
大人が邪魔せず関わることが実は大切なことではないか


——本質的に学校の体質を変えていくには、対話は欠かせないですよね。


教職員が現状のマインドのまま、仮に働き方がテクノロジーの力や行政の力を借りて改善されたとしても、根本的には学校の体質は変わらないように思います。

現実から目を逸らさず、子どもたちを主語に「なぜ、取り組むのか?」などの問いを軸に対話を増やしていきたいです。

そのためには、自分の問う力を向上させること、ファシリテーションする力も必要だなと感じています。学ぶことがいっぱいですね。だから、僕は楽しく学び続けます。そのためには、一緒にワクワクすることを楽しめる仲間を探し続けていくことも大事だと思っています。

学校をワクワクする場所にするために、一緒に学び続けましょう!

〈取材・文=三原 菜央/写真=竹花 康〉